2nd Stage ミノタウロス
「2ndステージ挑戦しますか? 挑戦すれば賞金は倍!しかし失敗すれば今回獲得した賞金は没収になります!」
審判のアンドロイドが勝者のシガキにヒアリングした。
「もちろん挑戦する」
意志確認を受けて、スタジアムはまた暗転した。
重低音を響かせるBGMと共に、次の対戦相手がスクリーンに表示される。
名前:ミノタウロス
身長:202cm
体重:220kg
ベンチプレス:480kg
スクワット:580kg
デッドリフト:600kg
握力:270kg
垂直跳び:53cm
50m走:7秒29
そして名前の通り、牛の頭をした大型のアンドロイドが入場した。手には斧型の武器を持っている。
「死んじゃうんじゃない?」
あまりの戦力差に初めて観る観客はざわめく。
「死にはしないらしいよ。アンドロイドだから致命傷は与えないように最低限の調整はするらしい。ただし、『手加減しなければ死んでいた』とAIに判断された時点で負けになる」
「そんなこと出来るの?」
「ああ。プレイヤーが着ている甲冑は、防具としての役割の他に、様々なバイタルを検出するセンサーになってるんだよ。プレイヤーの体の状態は逐一システムに送られているんだ」
会場のそこかしこで、そんな会話が交わされていた。
「Fight!」
掛け声がかかった。
(こいつには力勝負の方が沸くな。しかし、普通にやったんじゃ、さすがに分が悪い)
シガキはジリジリと歩み寄る。
大きく振りかぶったミノタウロスの斧の一撃。サイドステップで避けるシガキ。
斧は地面を捉え、破裂音と共に床が削れた。
「おいおい!死なない程度に加減してくれるんじゃないのか?!」
シガキは声を張って挑発するように言った。この言葉はマイクを通じて会場に伝わる。
喝采と悲鳴で盛り上がる観客達。
そんな歓声は気にも止めず、ミノタウロス型アンドロイドは斧で横薙ぎを放つ。ダッキングで交わすシガキ。
「無粋だな!お客様の反応見てアピールぐらいした方がいいんじゃないか?AIさんよ!」
またもや挑発するシガキ。
「いいぞ!プロレスラー!」
盛り上がる観客。
かまわず連撃を繰り出すミノタウロス。
シガキは軽快なステップワークとボディワークで全て躱した。
(だいぶ、軌道も読めて来たな・・・そろそろ一回受けてやるか)
シガキは腰を引くく落とした。
そこにミノタウロスの横薙ぎ。斧と言うより野球のバッドのようなフルスイングだ。
(経費をケチッたな。モーションが素人丸出しだ)
シガキは素早く懐に踏み込んだ。そして、斧の柄の部分に対して十字受けでブロックする。
・・・が!
それでも数メートル吹き飛ばされた。
シガキは二度三度跳ねるように転がり、ピクリとも動かない。
歓声は悲鳴に変わる。
悠々と歩み寄るミノタウロス型アンドロイド。
大きく斧を振りかぶった。
しかしシガキは動かない。
「もう止めろ!死ぬぞ!」
観客の悲鳴が頂点に達した時、シガキは跳び起きた。
そして、迫りくるミノタウロスの顔を目がけて緑の霧を吹いた。
「おおー!毒霧!」
一部のプロレスファンが盛り上がる。
モニターには今の技の効果が表示された。
スキル:ミスト
効果:幻惑
この甲冑は事前にセッティングすれば、『スキル』と呼ばれる様々な仕掛けを仕様することが出来るのだ。
顔を抑えるミノタウロスに対し今度はシガキが悠々と背後に周り、腰をクラッチする。
「あれを持ち上げるのか?!」
「220kgだぞ!」
沸き上がる観客。
「うぅぅぅぅぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
シガキの絶叫と共にミノタウロスの足が浮く。
「マジか!」
「すげぇ!」
「シガキさんならあれぐらいやりますよ」
「知ってるのか?」
「ええ。彼はいつも不可能を可能にしてくれます!」
一部のファンが熱く語る。
そして局所的に発生したシガキコールが、やがて会場全体を包んだ。
「シ・ガ・キ!」
「シ・ガ・キ!」
「シ・ガ・キ!」
コールが最高潮に達したところでミノタウロス型ドロイドはバックドロップで叩きつけられ、頭部がはじけ飛んだ。
「KO!」
右の握りこぶしを高々と上げ、声援に応えるシガキ。
「次だ!さっさと来やがれ!体が冷えちまう!」
観客に聞こえるよう最終ステージに挑戦することを表明した。
それを受けて会場が暗転する。
ズンッ!
何者かの足音のような重低音が響き渡った。
ざわめいた会場が一瞬で静まり返る。
みな固唾を飲んでモニターに注目した。