9 お花見
麻子と真司、2人が中学3年生になる前の春休み。桜が満開の桜広場。
6時の桜の木の下のベンチで、先にきた真司が横になって居眠りをしていた。
ポカポカとした心地よい日差しが差し、小鳥がさえずっている。
しばらくしたら、風とともに桜吹雪が舞った。
真司の頬が風に撫でられ目を覚ました。
そこに一瞬、桜広場なのに、港町中学校の桜の大木の下で、新しい制服を着て、短い三つ編みにした麻子の姿がよぎった。
えっ?
真司は目をこすり、もう一度見ると、そこには、ランチバスケットを下げた麻子が、真司の顔を覗くようにいた。
「びっ、びっくりした」
今日の麻子は三つ編みではなく、髪をほどいていた。
「夢見てたの? 驚いてるみたいだから」
「まあ、そんなとこ。何故か、入学式の時の麻子が夢に出てきた」
「真司と初めて話をしたのは中1の秋だったと思うけど」
「そうだったな。でも、俺は…。まあ、いいや」
真司は、入学式のあのショットは心の抽斗にしまっておこうと思った。
「お昼は何だ?」
真司はランチバスケットを見た。
「お昼はね…」
麻子はお弁当を出しながら、楽しそうに話出した。
真司は入学式のあのショットの頃から考えたら、今、麻子とお花見しているなんて考えられなかったが、受験生になる前の束の間の休息だなぁと微笑んだ。