6 両想い未満
年明け。
シーサイドタウンから自転車で帰ってきた真司。自宅近くで麻子が行ったり来たりしているのが目に入った。
(何やってんだ?)
真司は自転車で麻子に近づいた。
「探偵さん、この家には今誰もいませんよ。それとも、あなたは泥棒ですか?」
ハッとして麻子が振り返ると、真司が怪訝な顔で麻子を見ていた。
「何してたんだ?」
「えっ、えっと…」
「?」
「これ!」
麻子は真司の前に、手にしていた紙袋を差し出した。
「お礼の帽子よ」
「帽子…」
真司は2学期の修了式の日のことを思い出した。
「わざわざ、編み直してくれたのか?それで、ここまで…」
麻子を見ると、頬がほんのり赤く染まっていた。
真司は推理した。
(お礼だって言っていたし、1月で寒いから、頬が赤くなっているだけかも知れない)
真司は少し期待したけど、そう考えたら妙に納得した。でも、少し寂しい納得だった。
「じゃ、じゃあね」
麻子はそのまま、桜広場に近い自宅に帰るためにバス停に向かった。
真司は探偵志望だったが、この頃は全く女心がわかっていなかった。
でも、紙袋から毛糸の黒い帽子を取り出すと早速被った。
毛糸の黒い帽子はすごく温かかった。
これは、まだバレンチノを迎えていない麻子と真司2人の物語。