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4 男の子が壊れた日
花火大会当日。
麻子の母「麻子、その浴衣、とってもよく似合ってるわよ」
麻子は先日、母とセンター街に一緒に出掛け、浴衣一式をそろえた。
今、麻子が着ているのは、紺地に水色ががった青色と紫ががったピンク色の大柄な朝顔の花が散りばめられている浴衣だ。
麻子は髪もアップにしている。
ピンポーン!
麻子の母「あら、真司くんね」
2人の仲は、麻子の母も大賛成だった。
麻子の母「気をつけて行って来るのよ」
母の声を後に、麻子は玄関の扉を開けた。
「あ、さ、こ…」
外に突っ立っていた真司はそれ以上何も言わずに、門を出てきバス停目指して歩き出した。
麻子は沈黙も間が悪いので、ホームズの話を始めた。
「……だから、ホームズさんにとっては、ブナ屋敷のバイオレット・ハンターではなく、ボヘミアの醜聞のアイリーンだったのよ。特別な存在は…」
「ねえ、真司、聞いてる?」
隣を歩いていた真司は、麻子の手をぎゅっと握り、手を大きくブラブラ何度も振り上げた。
「ち、ちょっと、真司、手が…」
真司は麻子の右手を離そうともしなかった。
その顔は、打ち上げられた花火が空中で開いたような満面の笑顔だった。