11 麻子と真司、それぞれの幼い頃
【麻子】
「麻子、もう目を開けていいわよ」
麻子の母親が、後ろから幼い麻子の目に当てた手をほどいた。
「わぁー、おはながいっぱい!」
秋風に吹かれて、コスモス畑のワイン色やピンク色や白色のコスモスが揺れている。
「コスモスっていうのよ」
「こすもす?」
3歳の麻子は母親に言ってみた。
「そう、コスモス。もうすぐ、麻子の4歳の誕生日だから。麻子は、絵本で、コスモスのページばかり見せに来たわね。麻子の大好きなお花でしょ?」
「うん、こすもす、大しゅき。お母さん、ありがとう」
麻子は満面の笑みを浮かべた。
麻子の父親が、早速、脚立をたて、コスモス畑をバックに、麻子を真ん中にして、家族三人を写真に収めた。
麻子が9歳まで住んでいたイギリスのとあるコスモス畑で。
【真司】
「何~、この大きなおはな?」
父親が運転する車から、勢いよく飛び出した幼い真司は、壮大なひまわり畑を前に、指をくわえて眺めていた。
「ひまわりって、いうのよ、真ちゃん」
真司の母親が隣に立って、日傘を真司に向けて答える。
「ふーん。でも、おっきーい!」
「真司は、このひまわりのようにみんなを笑顔にするようなでっかい人間になるんだぞー」
車から出てきた真司の父親が、真司を肩車していった。
「なるー、真ちゃん、なるー!」
幼い真司は、父親の言葉の意味がわかった訳ではなく、肩車されて嬉しくって、父親がいったことを繰り返しただけだった。
でも、父親の言葉の「でっかい」だけは、分かったようで、
「ねえ、おろして、おろして!」
といい、父親の肩車から、降ろされると、ひまわり畑に向かって突進して行き、1本のどっしりと大地に根を下ろした、見事な花を咲かせたひまわりを両手で、バシバシ叩きだした。
「こら、真ちゃん、め!」
慌てて駆け寄った真司の母親が真司を抱き抱えた。
「真ちゃん、ひまわりさんにそんなことしたらだめよ。ひまわりさんが泣いているわよ」
「だってー、でっかいヒマだから、やっつけたかったんだよ」
幼い真司は、母親の腕の中でそういった。
「真ちゃんがやっつけるのは、好きな女の子を守る時だよ」
「おんなのこ?」
幼い真司には何のことだかよく分からなかったが、今は、家族3人で、このひまわり畑に連れてきてもらえて、とても、嬉しかった。
幼い真司の笑顔はひまわりのように、両親の優しさの光を浴びて、キラキラしていた。
日本のとあるひまわり畑で。




