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49  作者: ヒツジ
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知らない方がいいこと

「本当に晴れたな」


ナズの予報は大当たりで、翌朝は澄み渡る青い空が広がっていた。


「だから言っただろう」


当たり前だと言わんばかりの態度だ。その自信はどこからくるんだよ。


「じゃあ次に雨が降るのは、いつかわかるか」

「……一週間後だな。昨日みたいな大雨ではないが」


本当かよ。訝しげな目で見るがナズは気にしない。


「じゃあ、それが当たったら何か言うこと1つ聞いてやるよ。さあ、今日はかなり歩くからな。雨の後で歩きにくくなってるだろうし、できるだけ早く出発しよう」



雨で道は歩きにくくなってたが、昨日ゆっくり休めたのであまり苦にはならなかった。

昼頃に到着した村で昼食にしようと食堂を探していると、ある店がふと目に入った。


「どうした?」


思わず店の前で止まってしまっていたようだ。ナズに声をかけられる。


「あ、いや…」


慌てて歩き出そうとして、あるものに気を取られた。カラフルな粒が箱いっぱいに詰まっている。


「何を見てるんだ?」


なかなか動かない俺に、ナズが不思議そうな顔で店を覗き込んだ。


「……あのお菓子。アラヤに土産で買って帰ったことがあるんだ」


そうだ。あの時土産に買って帰ったのは、この砂糖菓子だ。「兄さんが甘いもの食べたかっただけじゃねぇの」と言いながら、嬉しそうにしていた姿を思い出す。


「帰りに買って墓にでも供えてやろうかな」


今までは墓の前に行っても動けなくなるだけだったのに。随分と気持ちが変わったものだ。


「すまなかったな。行こう」


ナズのほうを見ると、なんとく険しい顔をしている気がする。


「どうした?腹が減ったか?はやく店を探そうか」


ナズはハッと驚いた顔をして少し戸惑ったあと、「そうだな」といつもの無表情に戻る。

なんか様子が変だな。今日はかなりハイペースで歩いてるから、無理がないように気をつけてやらないと。



残りの旅程は驚くほどスムーズにいき、翌日の昼にミズカ村に着いた。


「お姉さんが世話になった人の家はわかるのか?」

「名前もわからない」


予想外の答えが帰ってきた。最初も思ったが、随分と無茶な旅をしている。


「なら、とりあえず手当たり次第聞き込みでもしてみるか」


ここまできたら乗り掛かった船だ。探し人に会わせるまでは帰れない。

村人にひたすら聞き込みをして、夕方には目当ての家に辿り着くことができた。


「俺はここで待ってようか?」

「いや、一緒に来てくれ」


緊張してるのだろうか?そんな感じでもないが。まあ、別に構わないから着いて行くことにした。



「まあ!ナノカちゃんの弟さんなの!」


突然の訪問にも関わらず俺たちは快く迎え入れられ、リビングでお茶を飲んでいる。


「もう10年になるのねぇ。この子が生まれた時のことだものねぇ」


嬉しそうにする婦人の横には、知らない人に緊張している女の子が座っている。

婦人が懐かしそうにナズのお姉さんのことを話してくれた。婦人がこの子を妊娠中に道で体調が悪くなったのを、ナズのお姉さんが助けたらしい。その縁でしばらくこの家にお世話になったそうだ。


「ナノカちゃんは元気にしているの?全然連絡がないから心配してたのよ」


思わずナズを見る。相変わらずの無表情だ。


「大丈夫です。元気にしてますよ。ただ仕事が忙しくて。ずっと連絡しようと思いながらできなくて、だんだん連絡しづらくなったみたいです。だから姉には内緒で来たんです」

「そうなの。10年前も仕事で戻らないといけないからと言ってたものね。まあ、元気にしてるならそれでいいわ」


婦人は優しく微笑むと「そういえば、ナノカちゃんは甘いものが好きでね……」と思い出話を嬉しそうに始めた。

話を聞きながら横を見ると、何を考えてるのかわからない無表情が規則的に相槌を打っていた。



「じゃあ、ナノカちゃんによろしくね。」


昔話をたっぷりと聞き、日が陰りかけたころに家をあとにする。見送る婦人は不満そうな顔をしていた。

今日はミズカ村で宿をとると言ったら「うちに泊まればいいじゃない」と提案されたが、姉の死を隠している弟とまったく関係のない男の2人では気まず過ぎて辞退したからだ。

宿に向けて歩きながら、ずっと聞きたかった疑問をナズに聞いた。


「お姉さんが死んだこと、隠してるんだな」

「……彼女が望んだんだ。死んだことを知られなければ、あの人の中で自分は生き続けられるからと」


生き続けられる、か。アラヤの遺体が見つからなければ、俺もどこかでアラヤが生きてるかもと思い続けたんだろうか。


「なんであの人達に会いたかったんだ?」

「姉が死の前に何を思ってたのか知りたくて」

「……そうか」


お姉さんは突然亡くなったわけではなくて、病気か何かだったんだろうか。色々聞きたいことはあるのになぜか聞くことを躊躇われ、そのまま無言で宿まで歩いた。

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