【Xの生い立ち】反逆罪
小隊長が、ため息をつく。
「X、お前はバカだから分からんだろうが、この女は共産党の兵士だ。売り子に化けて我々の動向を探っておったんだ。そういうことなんだ」
「はっはっは。違うよ隊長。この子はただの女の子ですよ」
小隊長は拳を握ると、Xの腹を思い切り殴りつけた。
Xほどではないといえ、小隊長もなかなかの体格だ。
Xはうめきながら片膝をついた。
小隊長の蹴りが、その側頭部に命中し、Xは乾いた泥の上に倒れた。噛んだ砂が口の中でじゃりじゃり音をたてる。
「能無しの相手をしてる暇はない。○○!いま、そこの女が野菜籠に手を伸ばそうとしたぞ。その中には爆弾が入っている。至急、対応せよ」
「対応、ですか?」○○二等兵が繰り返した。
「そうだ。貴様はXのようなバカではないはずた。意味はわかるな? そもそもこの事態は貴様が安全装置をかけ忘れたことで発生したのだ。貴様かケリをつけろ」
二等兵は小銃のボルトを引き、弾丸を銃身へ送り込んだ。
深呼吸をして、ゆっくりと少女に狙いを付ける。
少女は、拾い上げたやさい籠を抱きしめて震えている。
赤色の耳飾りが小さく揺れた。
「やめんかあ!」Xは叫ぶと、身体を起こして、巨大なゲンコツで○○二等兵を殴りつけた。
二等兵はふっとび、壁に頭を打ちつけた。かぶっていた九十式鉄帽が耳障りな音を放つ。二等兵はそのまま崩れ落ちた。
小隊長が「X!貴様っ!狂ったのか!」といって、腰の南部式小型拳銃を抜いた。Xは小隊長が引き金を引く前に、その手首を掴んだ。万力のごとき力で締め上げる。拳銃が手から離れて地面に落ちた。
「□□二等兵!」小隊長が怒鳴ると、傍観していた□□が「はっ!」といって銃床でXの肩口を殴りつけた。
Xは空いている手で□□の頭を掴むと、小隊長の頭に思い切りぶつけた。鉄帽同士が寺の鐘のように鳴った。
ふたりはふらついたが、気絶まではしなかった。
小隊長が「この馬鹿を撃て!反逆罪だっ!」と叫ぶ。
「はっ!」□□が小銃をくるりと回して、Xの顎の下に突きつけた。
弾丸が出れば、Xは脳天から脳漿を撒き散らして絶命することになる。
路地に銃声が響いた。
□□が膝をついた。軍服の胸元に人差し指ほどの穴が空いている。
穴から真っ暗な血が吹き出し、地面を濡らした。
また銃声。
今度は小隊長が倒れた。
Xはぼんやり口を開けて、山菜売りの少女を見つめた。
彼女の手に握られた旧式のモーゼル拳銃の銃口から硝煙がたなびいている。
血を失い過ぎたのか、少女の顔色は悪い。
だが、その目は革命に命を捧げる気概で、ぎらぎら燃えていた。
Xはどうにか言葉をつむいだ。
「なんというこった。お前さん、ほんとに兵士だったのか」
モーゼルの銃口が光り、弾丸がXの頭蓋に突入した。




