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陰獣X  作者: 白色矮星
第二部 暗殺者
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【教団拡大】喪失

Yの任地は○○県の山際に作られた安普請のアパートの一室だった。ここで、編纂中の学舎史のために資料のホチキス止めを行うのが新しい仕事だった。給金は一部綴じるごとに1円。とても生きていける金額ではない。


アパートの他の部屋は、表向きは性行法の修行場ということになっているが、実質的には売春宿だった。歳を食って、学舎内の男たちに相手にされなくなった女たちが、ここで共同生活を送りながら肉体労働者相手に身体を売っているのだ。


一人相手にして二千円、酷い価格だがこれでも客がつくかどうかギリギリのところだった。生活保護は女たちの全員が受給していたが、そうした金の大半は地区本部に上納され、さらに東京のXのもとへ送られていた。まともに食糧も買えないので栄養状態は悪い。女たちのほとんどは精神も肉体も病んでいた。


Yは義憤に駆られ、すぐにXに手紙を出した。自分がここに送られたのは何らかの手違いだと思う。だが、それ以上に問題なのは女性たちの待遇である。彼女たちは救いを求めている。あなたは教祖としてただちに動くべきである。


もちろんなしのつぶてだった。


Y自身もたちどころに困窮した。個人的な財産と呼べるものはなかった。すべてを学舎の発展に捧げていたからである。ホチキスどめなど放棄したいが、これをサボると「聖なる任を捨てようとは何事か!」と地区指導にあたる青年会員たちに暴力を振るわれるのだ。


そんなYを救ったのは当の女たちだった。ただでさえ少ない食糧を回し、Yが体調を崩せば看病もした。学も何もない女たちだが、Yはそのなかに仏性を見た。


YはXに手紙を送り続けたが、返事が来ることは一度もなかった。


あるとき、女たちからのカンパを受けて学舎の本部まで行ったものの、建物の中に入ることすらできなかった。警備員たちはYのことを要注意人物と聞かされていた。


何が起きているのか、Yにはまるでわからなかった。

学舎の発展に、悟りの道の普及に人生の全てを捧げたというのに、なぜこのような仕打ちを受けねばならないのか。


思い当たる節があるとすれば、Xの度を過ぎた淫蕩ぶりを諫めたことくらいか。

だが、Xは悟りに到達しているのだ。

理の通った諫言は冷静に受け入れるはずだ。


結局、Yは滞在費を使い果たし、失意をむねに女たちのもとへ帰るしかなかった。


その後、全国紙が散発的に学舎を糾弾する記事を発信した。

記事によれば、学舎は詐欺的な教義を広めていた。

悟りを開かねば地獄に堕ちる。

助かるには教団が斡旋する仏像の類を購入せねばならない。

かつて、Yが一つ8000円でカタログに載せた像が、いまや80万円で販売されているとあった。


被害者たちの言葉をYは口に出して読み上げ、記事をスクラップした。


年月が過ぎ、受取拒否で戻ってくる手紙は山のように積み重なり、スクラップもアルバム何冊分にもなかった。Xは人々を地獄の底に突き落とし、個人的快楽だけを追求しているとしか思えなかった。


Yを支えてくれた女たちは、一人、また一人と病に倒れた。最後の一人を見送った後、Yは決意を固めた。

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