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陰獣X  作者: 白色矮星
第一部 悟りへの道
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【教祖への道】帝都へ

「なぜ出ていく必要があるのですか?」

金村が診療室の椅子に、背をもたれかけさせていう。

その両足の間には、金村が主催する「協団」の会員女性がひざまずき、口で奉仕している。


金村も女性も衣類は着用したままである。

山間の村の冷え込みは厳しく、ストーブにどれだけ薪を放り込んでも、薄い窓ガラスを通して冷気が忍び込んでくる。

脳内神経物質の分泌のためとはいえ、高齢の金村が裸になって行為することは危険が大きい。

じっさい、金村は一月前にも風邪をこじらせて寝込んだばかりなのだ。


〝観音様がそういっていると答えるのです〟

Xの頭のなかに声が響いた。


「わしのなかの観音さまがそういうんです」

彼はその通りに答えた。


声は、陸軍の療養所で目覚めたときは風のささやきのようなものだった。

それが、金村のもとに来てからというものどんどん明瞭になっていった。

いまでは相手が目の前にいるかのようにハッキリと聞こえる。


もちろん、金村から教示を受けたXは、声が彼の脳が生み出した架空の存在によるものであり、本物の神霊などでないと承知している。


しかし、彼は言葉におおむね従っていた。金村の理論通りなら、観音は彼の無意識が人格化したものであり、彼の真なる望みを具体化しているはずだからである。


Xが腰を動かすと、組み敷いている四十女が獣のようにうめいた。


Xと女は裸になって、診察台の上でまぐわっていた。


だが、これは性欲を満たすためだけの行為ではない。

悟りの修養のひとつなのだ。


金村が提唱する技法は以下の手順を踏む。


まず豆類を積極的に摂取して、脳内神経物質の前駆体を十分に摂取する。


次に座禅を組み、自己の呼吸に集中する。肺を出入りする空気の動き、横隔膜の上下動に意識を向け続ければ、やがて意識がなりをひそめ、無意識が表に出てくる。


無意識を体感したなら、褒美としての快を与える。美味な食事、あたたかな風呂、理想的な睡眠、どのようなものでもよいので、脳が無意識状態を好むよう条件付けを行うのだ。


金村は条件付けに手段は問わない。

戦況が極端に悪化するまでは、酒や薬物も積極的に使用していた。

それらが入手しづらくなったため、現在は性行を主な条件付けに使っているだけだ。


もっとも、金村の協団内で性行為による指導が可能なのは、Xだけだった。


性行為は攻め手には肉体的疲労をもたらすため、悟りの深度が浅いものが主導すると、導き手に逆の条件付けが発生するのである。つまり、悟りづらくなる。


この村の村民は、金村が日本中から集めてきた、悟りの素養のあるものばかりだが、男たちのほぼ全員が手にした悟りを失うのを恐れ、性行法には二の足を踏んだ。


一方、Xは馬並みの体力と精力を持ち、悟りは誰よりも強い。性行為による導き手として金村の氏名を受けたのも当然だった。


金村は女性の奉仕を受けながら、自分の髭をなでた。

「ここが気に入らないというわけではないのでしょう?」


「そりゃもちろんですよ。うまいメシ、いい女、あったかい寝床、肥えた畑、ここは極楽もいいところだ。たまのオツムの検査はちょいと面倒でしたがね。先生からここに滞在するようお誘いくだすって一年ちょい、最高の生活をおくらしてもらいました」


「なら、あなたのなかの〝声〟は、どうして出て行こうというのですか?」


Xは女に腰を打ち付けながら、息も切らさずに答える。

「わしも聞いたんですがね。どうやら観音様は一人でも多くの人間を救いたいらしいんですわ。みなに悟りの道を伝えたいんですと。この村の人たちは先生の力で大いに救われてる。わしがいなくなって性行法が難しくなったとしても、物資さえ手に入るようになれば、またいろんな誘導法が使えるようになるわけですからね。でも、苦しんでる外の人たちを救うには、わしが行くしかないんですと」


金村が眉間に皺を寄せる。

「仏陀のように、この技を一般民衆に広めようというのですか? それは素晴らしい心がけですが、少々危険ではありませんか。官憲からは一種の宗教的行為と見做されるでしょう。西洋のキリストではありませんが、宗教家というものは弾圧の対象になりがちなのですよ」


「大丈夫。観音様は、ぜんぶうまくいくといっとります」


「ならよいのですが。それで、声はどの街に行けといっているのですか?」


「帝都です」


Xは腰の動きをいっそう強めると、女の奥で精を放った。

女は、ひいいっ!と歓びの悲鳴をあげるとそのまま気を失った。


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