第9話:まさか、あのおっさんが……?(Side:ラウドボイ)
「ラウドボイさん、あなたの行いをこれ以上見過ごすことはできません」
「うっ……」
サラの声が響く。
“ゾダの洞窟”でおっさんに手柄を横取りされた後、俺様はギルドに連行されてきた。
手下どもにだ。
こいつらは謎の使命感に目覚めたようで、表情も態度もまるっきり変わっていた。
輝かしい顔で俺様を抑えつけてやがる。
こいつらの親はハンバーストーン家の使用人だ。
立場を見せつければ俺の言う事はなんでも聞く忠実な奴隷だったのに。
あのおっさんが来てから全部おかしくなっちまった。
憎しみを込めて睨んでいると、ギルドの入り口が騒がしくなった。
うるせえな……と思って視線を見たら、腰が抜けそうな衝撃を受ける。
「ち、父上に母上! どうしてここへ!」
入って来たのは、俺の両親だ。
今日は終日会議のはずじゃ……。
だから、ギルドで力を見せつけていたってのに……。
「サラさんから全て聞いたぞ。ハンバーストーン家の立場を盾にし、横暴な振る舞いをしていたようだな。俺に逆らったらギルドの支援金を減らすとか」
「まさか、あなたがこんなにみっともない人間だとは思いませんでした。家ではいつも良い子でしたもんね。見事に騙されてしまいましたよ」
「あ……そ、それは……」
ちくしょうが!
家では親の言うことを良く聞く良い息子を演じていたってのによ!
全部バレちまった!
それも全部、あのおっさんのせいだ。
どうにかして罪をなすりつけてやれ……そうだ。
「父上、母上! 騙されないでください! あの中年男性が“ゾダの洞窟”にケイブドラゴンを住まわせたのです! これは全て自作自演です!」
「馬鹿なことを言うな! このお方はお前の命を救ってくださった方だぞ! 大賢者、ロジェ殿だ!」
父上の叫び声が、俺の心臓を貫いた。
その言葉を聞いた瞬間、さっきまでの怒りは嘘のように引いていった。
代わりに、強い動悸が俺の心臓を襲う。
ドキドキと早鐘を打ち、胸が張り裂けそうだ。
「え……? い、今、ロジェ……殿……と?」
「そうだ! お前にずっと言い聞かせてきた、あのロジェ殿だ!」
「生まれたときから何度も言ってきたのに……通じていなかったようですね」
父上と母上の言葉は、胸の鼓動により最後まで聞こえなかった。
だが、終いまで言われなくとも実感する。
震える声で、おっさんに……いや、男性に尋ねた。
「あ、あんたは……ロジェ……なのか?」
「ああ、そうだよ。俺はロジェだ」
おっさんが名乗った瞬間、心が壊れそうなほどの衝撃を受けた。
――大賢者、ロジェ……。
今から20年前、俺は質の悪い流行り病にかかった。
生まれて間もない頃だ。
どんなに著名な医術師でも治すことはできず、どんな秘薬でも治すことができなかった。
当時の呼び名は“大悪の病気”。
母上たちの必死の看病も報われず、もうダメだ……というときだった。
少女を連れた一人の若い男が現れた。
ハンバーストーン家にやってくると、瞬く間に“大悪の病気”を
ろくなお礼も受け取らず立ち去ったという……。
父上と母上はずっと探していた。
無論、俺もだ。
命を救ってくれたのはどんな人だろうと、誰よりも知りたかった。
正直に言うと、会ったこともないのに憧れていた。
まさか、あの男性がロジェ殿だったとは……。
「ロジェ殿、愚息が大変失礼した。本当に申し訳ない。私たちの恩人に向けてなんということを……」
「いくら謝罪しても足りませんわ。ごめんなさい。どうか許してください」
「いやいや、別に気にしていませんから。ラウドボイ君も怪我がなくて何よりですよ」
父上と母上は平身低頭しながら、ロジェ殿に対して謝罪する。
伯爵家である二人に頭を下げられても、ロジェ殿は少しも偉そうな態度を見せない。
彼の真摯な態度も伝え聞いた通りだ。
その光景を見ていると、彼に投げかけた数多の暴言が思い出された。
――お、俺は自分の恩人に対して……憧れていた人物に対して、なんて酷い言葉をかけたのだ。
いくら後悔しても悔やみきれない。
時が戻るのであれば、巻き戻してやり直したい気分だ。
しかし、そんなことができるはずもない。
俺だって本当は強くて優秀な魔法使いになりたかったのだ。
それなのに、いつしか家の威光を振り回すショボい男になってしまっていた。
「大丈夫か、ラウドボイ君。温かい飲み物でも持ってこようか?」
「あ……あ……」
ロジェ殿が優しく手を差し伸べてくれた。
クソみたいな俺にどんな暴言を言われても、少しも怒ることない。
もう40歳と言っていたから、きっと精神的にも充足して大人なんだ。
方や、ただただ騒ぐだけの子ども。
要するに、俺はただの幼いガキだったというわけだ。
――頼めば弟子にしてくれたかもしれないのに……。そうすれば、少しでもロジェ殿みたいに……。
憧れの人に近づけるという、ものすごく貴重な可能性を自分でぶち壊した。
そう自覚した瞬間、俺は暗がりへと転落していった。
こういうのを自我の崩壊というのだろう。
ガラガラと心が壊れていくのを感じた。
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