第6話:ギルドの出資者……の息子
「な、なんだ? 何の騒ぎだ?」
「ロジェ師匠、声の主はあそこにいる男性かと思います」
リリアントに促され、ギルドの出入り口を見る。
若い男が三人こちらに近づいていた。
たぶん冒険者パーティーで、先頭にいるのがリーダーっぽいな。
一人だけ服も装備も豪華だ。
上質な革のローブに、装飾が散りばめられた杖を携えていた。
魔法使いか?
黄色が強い金髪を獅子みたく尖らせた髪型、ギロリと俺を睨む緑の目。
凶暴な風体だが、どことなく貴族らしい雰囲気も感じる。
「おぉい! お前みたいな汚いおっさんがいると、ギルドの評判が下がるだろうがよ! どうしてくれんだ!」
金髪君は怒鳴りながら俺たちの前に立った。
何も話さないでいると、金髪君はさらに叫ぶ。
「お前だよ! おっさん! お前のことを言ってんだ! 俺様のギルドにお前みたいなおっさんは必要ないんだよ!」
……うるせえ。
すごい声量だ。
わざわざ目の前に来たのに、なおも大きな声で叫ばれた。
彼は新人いびりだろうか?
どこのギルドにもよくいるんだ。
こういう輩は、あまり刺激しないに限る。
リリアントからはイライラしたオーラが漂っている気がするし、穏便に事を済まそう。
彼女がキレたらそれこそ街の一つや二つ、消し飛んでもおかしくはない。
「すまないな。これからクエストに行くから勘弁してくれ」
「待ちやがれ、おっさん!」
静かに立ち去ろうとしたら、金髪君にきつい声で呼び止められた。
な、なんだよ。
と思ったら、金髪君は一点して笑顔になっている。
え……気持ち悪……。
彼の視線の先にはリリアントが。
ま、まさか……。
「そこの姉ちゃんは置いていけ。代わりに俺様が相手してやる。おい、姉ちゃん。俺様はラウドボイだ。名前教えろよ」
「冒険者ギルドはお子様が来るような場所ではないと思いますが?」
リリアントは何の感情もこもっていない声で告げる。
視線もろくに合わせてないし、眼中にないといった感じだ。
リリアントに相手されるわけがないだろうに……。
片や、ラウドボイ君はプルプルと体を震わせる。
少しずつ顔が赤くなっていくので、強い怒りを感じているようだ。
それにしても、ラウドボイってどこかで聞いたことがあるような……。
「おい、おっさん……お前はこの姉ちゃんとどういう関係だ?」
「どういう関係って、俺たちは師弟だよ」
師弟と告げた瞬間、ラウドボイ君の震えが増した。
怒りに身を焦がしているみたい。
だ、大丈夫かな。
おじさん、心配になっちゃうよ。
「俺様と勝負しろ!」
「な、なに?」
いきなり、ラウドボイ君は勝負を挑んできた。
突然のことに理解が追いつかないのだが。
「いや、あのね。俺たちこれからクエストに行くんだけど……」
「依頼表を見せろ!」
「うわっ、ちょっ」
持っていた依頼表を奪われてしまった。
なんて凶暴な。
ラウドボイ君は依頼表を眺めると、ニタリとした笑みを浮かべた。
「お前、ゴブリンの討伐に行くのかよ。しょぼっ。まぁ、お前みたいなおっさんにはピッタリだな。ほぅ、おまけにケイブドラゴンの討伐か。おいおいおい、お前なんかにできるのかよ。だが、こいつはちょうどいいぜ。ククク……」
ラウドボイ君はひとしきり俺を馬鹿にした後、嬉しそうにククク……と笑っている。
機嫌が直ってくれたようで良かった。
と、思いきや、また大きな声でシャウトする。
「おい! 今勝負の内容が決まったぞ! ケイブドラゴンを先に討伐した方が勝ちだ! それで、勝者は敗者の言うことを聞くんだよ! 俺が勝ったら姉ちゃんは俺の物だからな!」
大声を聞いて、ギルドの中は騒然とした。
ケイブドラゴンは強力なAランクモンスターだ。
こんなノリで討伐に行くような敵ではないのだが。
ラウドボイ君は手下と思われる男性たちに盛大な拍手を受けている。
そういえば、先ほどラウドボイ君は“俺様のギルド”と言っていた。
周りの冒険者や受付嬢たちは、気まずそうに下を向いている。
さっきから誰もラウドボイ君を咎めることもしないし、何か事情がありそうだ。
どうしたもんかな、と思っていたら、リリアントに袖を引かれた。
「非常に面倒で不躾な輩ですね。……殺しますか?」
「いやいやいや! そんな当然のように……!」
「あの……ロジェさん、リリアントさん。ちょっとよろしいですか」
今度は、サラさんが申し訳なさそうに話しかけてくる。
その疲れ切った表情から、なんとなく事情がわかった。
「なんか、色々ありそうだね……」
「ラウドボイさんは、このギルドの出資者であるハンバーストーン伯爵家の息子さんで……。少々横暴なところがあるのですが、逆らうことができないのです。注意したら出資金を減らすとか言われ……」
「「……あぁ~」」
やっぱりそういう事情か。
よくある話だ、こういうのは。
親の七光りでいばる子どももな。
「言っておくが、おっさんに断る権利はねえぞ! 断ったらギルドの出資金を減らすからな! 俺の家はすぐそこだ! 少しでも俺の機嫌を損ねてみろ! 明日にでも出資金を減らしてやるからな!」
「……ああ、わかったよ。その勝負を受けよう」
「ヒャハハハハッ! 弱ええなぁ、おっさんは!」
ラウドボイ君の高笑いが響く。
サラさんや、周囲の冒険者たちの申し訳なさそうな様子が印象深かった。
「というか、おっさんは今何歳だ?」
「40歳だが……」
「ギャハハハッ! マジかよ! 40で冒険者!? もう引退しな! じゃ、俺たちは一足先に行かせてもらおうか。おっさんはゴブリンをちゃんと討伐しろよ。冒険者なんだからなぁ! ヒャハハハハ!」
ラウドボイ君はお仲間と一緒に激しく笑いながら、ギルドから出て行く。
彼らが去ると、真っ先にサラさんが謝ってきた。
「申し訳ありません、ロジェさん、リリアントさん。大変な失礼を……」
「気にしないで、サラさん。事情はわかっているから」
「先生が止めなければ、あんな輩は一瞬で灰に変えていたのですが」
リリアントのキツイ一言に苦笑いしていると、サラさんは沈んだ表情のまま話を続ける。
「そして……頼みごとばかりで申し訳ないのですが、できれば彼らより先に討伐していただけませんか?」
「ああ、その方がいいだろうね。ケイブドラゴンは凶暴だから、下手に刺激すると、洞窟から出てくるとも限らない」
「彼らはそんなことも知らないのでしょうか」
ケイブドラゴンはモンスターの中でも気性が荒いことで有名だ。
洞窟の奥深くに繁殖のための巣を作り、どんな侵入者でも排除する。
その分、素材の価値も高いのだが、返り討ちに合う冒険者が多数いた。
サラさんはなおも心配そうな顔で告げる。
「“ゾダの洞窟”は街から近いですので、もし人里に降りてきたら人々が危険な目に遭ってしまいます。ギルドマスターとしてはそれが一番心配で……もちろん、ラウドボイさんの命もですが」
「たしかに地図を見ると目と鼻の先だね。ケイブドラゴンはまぁ、どうにかするよ。あいつらにもそれとなく注意しとくさ」
「安心してください、サラさん。ロジェ師匠がいれば絶対に大丈夫です」
俺たちが告げると、サラさんはようやく笑顔になった。
「本当にすみません、お二人とも……」
サラさんは心底申し訳なさそうに謝ってくれた。
俺たちは手を振りギルドから出る。
おっさんだとか、そういうことは別にどうでもいい。
この勝負の間に少しでも話ができたらな……。
何はともあれ、俺たちは“ゾダの洞窟”へと向かっていった。
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