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第4話:視察と事故(Side:トラッシュ①)

「いやぁ、リリアントを追放してせいせいしたな。君もそう思うだろ、イザベル?」

「ええ、目障りな女が消えて、あたくしも気持ちが爽やかでございます。さすがはトラッシュ様ですわね」

「君のためなら何でもするさ。僕の可愛い子猫ちゃんのためならね」


 俺は自室でイザベルを撫でていた。

 こいつは国内でも有数の貴族、クレマン公爵家の娘だ。

 リリアントに浮気が見つかったときは焦ったが、なんてことはない。

 国から追放してしまえばいいのだ。

 それにしても、追放宣言を下したときの顔は見ものだったな。

 俺からの誘いを断った罰だ。

 どこか名前も知らない国で野垂れ死ぬがいい。


「あの女が消えたから、ようやく、あたくしが宮廷魔導師で一番の……筆頭宮廷魔導師になれるのですね。この日をずっと待ちわびていました」

「全部君のためを思ってのことさ。これで君が一番大事な人だと伝わったかな?」

「ええ、疑ったりして申し訳ありませんでしたわ。トラッシュ様は本当にあたくしのことを考えていてくださいます」


 イザベルも嬉しそうじゃないか。

 機嫌を直してくれてホッとしたぜ。

 俺の婚約者だからな。

 こいつにも侍女との浮気は疑われていたが、筆頭宮廷魔導師の地位をチラつかせることでどうにか誤魔化せた。

 そう思えば、リリアントにも使い道があったというものだ。

 髪を褒めたり容姿を褒めたりしてイザベルの機嫌を取っていたら、扉がノックされた。


「トラッシュ様、失礼いたします。ドルガ王国のペルヴィス大臣がそろそろお目見えになります」

「わかってるよ。いちいち知らせなくていい」


 面倒な気持ちで立ち上がる。

 今日は同盟国のドルガから来客があった。

 カイザラード帝国の国防魔道具を視察したいそうだ。

 王宮近くにある拠点を案内する予定になっていた。

 日々大量の文書を書かねばならないようで、利き腕の右手が腱鞘炎になりそうで大変らしい。

 知るか。


「トラッシュ様、ペルヴィス大臣と言えばドルガの有力者でございますよね」

「ああ、そうだ。せっかくだから君の紹介も一緒に済ませてしまおうか」

「賛成でございますわ。諸国にもあたくしの存在を知らしめてくださいませ」


 ったく、こいつは自己主張の激しい女だ。

 イザベルを連れ大広間に向かう。

 母上はもういないし、父上だって長いこと病床に伏している。

 兄貴は父上の代わりに諸国を外遊する日々。

 だから、実質的にこの国を支配しているのは俺と言っても過言ではない。

 大広間に着くと、すでにペルヴィスたちは集まっていた。

 だるくて仕方ないが、とりあえず来客用の笑顔を取り繕う。

 ドルガ王国はそこそこ大きな国だし、ペルヴィスも権力者だからな。


「トラッシュ殿下、お久しぶりでございます。お会いしたのは何年ぶりでしょうかな」

「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」


 ペルヴィスと握手を交わす。

 灰色の髪に、同じく灰色の瞳。

 左目にかけた片眼鏡が知的な印象を受ける初老の男だった。


「今日は国防魔道具の視察のほど、どうぞよろしくお願いします。いやぁ、昨日からとても楽しみで……おや? そちらのお嬢様はどなたですかな?」

「こちらにいるのは俺……私の婚約者、イザベル・クレマン公爵令嬢です。ぜひ一緒に視察へ行きたいということなのですが、同席させて構いませんでしょうか?」

「ええ、もちろんです。イザベル嬢、どうぞよろしく」

「イザベルでございます」


 イザベルもまた、清楚な風に挨拶をする。

 この女は本当に取り繕うのが上手だ。

 筆頭宮廷魔導師の件は拠点で伝える。

 ここで話すと周りのヤツらが騒ぐかもしれないからな。


「では、拠点の方にご案内します」


 馬車に乗り移動すること約十分。

 拠点の一つに着いた。

 屋根はアーチ状で、横に広がった石造りの無機質な建物が一棟。

 大きさとしては王宮の半分ほどだ。

 王都にあるということで、保管、整備されている国防魔道具はたくさんあり、その分建物も巨大なのだ。

 ペルヴィスも馬車から降りると、感嘆とした声を上げた。


「ほぉ……これがウワサの格納庫でございますか。いやはや、立派な建物ですな」

「中はもっと見応えがありますよ。……君たち、これからペルヴィス大臣の視察が始まる。視察が終わるまで、全員外に出ていてくれ」

「「承知いたしました」」


 リリアントの話が出ると面倒なので、俺たち以外の人間は追い払う。

 邪魔者がいなくなったところで格納庫に入る。

 両脇にずらりと規則正しく並んだゴーレムが出迎えた。

 大きさは全部で三種類。

 手前ほど小さく、壁に向かうほど大きくなる。


「ペルヴィス大臣、こちらが我が国の誇るゴーレム軍です。大きさにより、<スモール>、<ミディアム>、<ラージ>とクラスが決まっています。また、1ゴーレムに1属性の魔力が宿っているので、種々の属性魔力弾を放つことも可能です」

「これは……素晴らしい軍備ですな。これほどのゴーレムは私も初めて見ましたぞ……」

「<スモール>の全長はおおよそ2m。クラスが一つ上がるごとに3倍大きくなります。彼らには地上戦を任せ、空中戦は屋根に設置された地対空大砲で対処します」

「それはまた……いやぁ、恐れ入りました」


 ペルヴィスは唖然とした表情でゴーレムたちを見ていた。

 ケッ、せいぜいありがたく思っとけ。

 ここ以外にも、各地の拠点にはこれらの国防魔道具が多数管理・整備されている。

 格の違いを教えてやれ。


「国境付近の拠点には、さらに巨大な<スーパーラージ>も格納されていますよ。<ラージ>の3倍ですので、全長は約55mです」

「そんな大きなゴーレムまで……攻め入ろうとした国は恐怖で身が縮みますな」

「ははは、怖気づいて逃げ出すと思いますよ。緩衝地帯からも見えるでしょうから」


 カイザラード帝国の周囲は緩衝地帯に囲まれている。

 <スーパーラージ>を見れば攻める気も無くすだろう。

 上機嫌で笑っていたら、イザベルにコツコツと脇腹を叩かれた。

 ……ああ、そうだ。

 すっかり忘れていたぜ。


「実はペルヴィス大臣。先日、俺……私はこちらのイザベルを筆頭宮廷魔導師に任命しました」

「なんと! カイザラード帝国の筆頭宮廷魔導師と言えば、世界でも有数の魔法使いではありませんか! イザベル嬢はさぞかし優秀なんですな!」

「いえいえ、それほどでもございませんわ」


 ペルヴィスはイザベルを褒め称える。

 いいぞ、俺の代わりにこいつの機嫌を取ってくれ。


「ところで、トラッシュ殿下」

「はい、何でしょう」

「ゴーレムが動くところを見てみたいのですが……一番小さい物でいいので……」


 ひとしきりイザベルを褒めた後、ペルヴィスはもじもじしながら告げた。

 ゴーレムが動くところを見たいぃ?

 ったく、面倒な頼みを。

 ……いや、待て。

 こいつは好都合だ。


「ええ、もちろんいいですよ。イザベル、お願いできるかな?」

「承知いたしました」

「ありがとう、イザベル嬢。筆頭宮廷魔導師の腕前をぜひ見せていただきたい」


 イザベルは近くの<スモール>に手をかざす。

 ペルヴィスに、イザベルを任命した俺の優秀さを認めさせてやれ。

 隣国の大臣からの評価が上がれば、俺が帝位継承権を得るのも夢ではない。

 皇帝になってこの国を……いや、全世界を支配してやる。

 数分もすると、イザベルは満足気な表情で戻ってきた。

 こいつがゴーレムをいじっているのは初めて見た気がするが、きっと気のせいだな。

 隠れて研鑽を積んでいたのだろう。


「準備が完了しましたわ。さぁ、動きなさい!」

「……おぉ、すごい! 自動で動いていますぞ!」


 <スモール>はズシズシと進み出ると、俺たちの前で止まった。

 イザベルが颯爽と指示を出す。


「右手を挙げなさい! 次は左手!」


 彼女が叫ぶたび、<スモール>はその指示通りに動いた。

 イザベルのくせになかなかやるじゃないか。

 ペルヴィスは感激した様子だ。


「こんなゴーレムをわが国にも欲しいものです……。ゴーレム自体もすごいが、それを操るイザベル嬢もすごい……」

「ええ、イザベルは本当に優秀な宮廷魔導師なんですよ。彼女を任命した私もまた優秀ですよね?」

「誠でございますな。こんなに優秀な皇子と婚約者がおられるなんて、この国は将来安泰だ……うわぁっ!」


 突然、<スモール>はドンッ! とペルヴィスを突き飛ばした。

 いきなりのことで受け身が取れなかったらしく、グキリ……という嫌な音まで……。

 ペルヴィスは痛そうな顔で右の手首を押さえていた。

 どっと冷や汗が背中を伝う。


「だ、大丈夫ですか、ペルヴィス大臣!」

「申し訳ございません! きちんと起動したのですが……!」

「ぜ……前言撤回させていただきましょうかな。貴殿らは自国の国防魔道具もろくに扱えないとは……。こう言っては失礼ですが、少々楽観的過ぎる性格では? ……これでは今後の仕事に支障が出るではありませんか!」


 ペルヴィスは怒ったまま、馬車に乗り去ってしまった。

 外に出ていた一般魔導師やらがポカンと見ている。

 ま、まずい。

 急いで誤魔化せ。


「お、お前ら、ペルヴィス大臣はお忙しいみたいだ! だから、予定を繰り上げ急いで帰られたんだぞ! さぁ、ぼんやりしてないで仕事に戻れ!」

「「は、はぁ……」」


 怒鳴るように叫んでいると、魔導師たちは納得しかねない様子で作業に戻った。

 格納庫の外で呆然としていたら、イザベルが慌てて謝ってきた。


「も、申し訳ございません、トラッシュ様。魔力の量を少し間違えてしまって……」

「何てことをしてくれたんだ! 俺の評価が下がったじゃないか!」

「ですから、謝っているでしょう! ちょっとした事故なのです!」


 何日ぶりかの喧嘩をする。

 リリアントを追放しても別に問題はない。

 イザベルがどうにかするはずだ。

 念じるように思うも、微かな不安はいつまでも消えないでいた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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