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第35話:隣国の国防魔道具

「着いたぞ、みんな。ゆっくり目を開けてくれ」

「「うっ……」」


 光が消えると、俺たちは広い城壁の上に立っていた。

 石造りの頑強な感触が足から伝わる。

 国境の防衛拠点だ。

 四方八方から衛兵たちが慌ただしく駆ける足音や、装備のぶつかる金属音のような音が聞こえてきた。

 ジークは顔をしかめながら呟く。


「もう国境に着いたのか。本当にロジェの魔法はすごい……」

「「え……! こ、国王陛下!? おい、みんな! 国王陛下がいらっしゃったぞ!」」


 瞬く間に俺たちの来訪を知らせる声が城壁中に轟き、防衛拠点にいる衛兵たちが集合してきた。

 ザッ! と整列すると、寸分違わず敬礼をする。


「皆の者、楽にしてくれ。カイザラード帝国からの攻撃を受けているとの連絡を受け、王都より転送魔法にて至急来た。こちらにいるのは賢者ロジェ殿とその弟子リリアント嬢。そして、リリアント嬢はカイザラード帝国の元宮廷魔術師だ」


 城内はざわめきに包まれた。


「賢者ロジェって、あの伝説の人物じゃないかよ。実在したのか」

「隣の令嬢はカイザラ-ド帝国の元宮廷魔術師だって? 何か事情を知っているはずだ」

「何にせよ、俺たちに心強い味方が来てくれたってことか?」


 ジークは衛兵たちを手で制し、説明を続ける。

 王都にも砲弾が襲い掛かってきたこと、俺の古代魔法によって全て撃墜したこと、王都は俺たちのバリアによって強固に守られていること、侵略ではな間違いの可能性がまだあること……。

 衛兵はみな、静かに聞いていた。

 慌ただしい様子が徐々に落ち着いてくのは、さすが国王陛下だなと思う。


「カイザラ-ド帝国の巨大ゴーレム、<スーパーラージ>の状況はどうなっている?」

「「はっ! あちらの緩衝地帯をゆっくりとこちらに前進してきております」」


 衛兵たちに案内され、城壁の脇に立った。

 前方にはゴツゴツとした広大な荒れ地が広がる。

 ここは緩衝地帯。

 ドルガ王国をぐるっと囲んでいる。

 平時なら生き物はおろか、魔物さえろくにいないような荒れ地だ。

 だが、今は有事なのだと否応なしに突き付けてくる存在が、緩衝地帯のずっと奥にあった。


「……っ! ロジェ師匠!」

「ああ、事前情報の通りだな」


 天にも届くかというほどの巨大なゴーレムが、何体もドルガ王国に向けてゆっくりと歩いてくる。

 緑に光ったモノアイが不気味な印象をさらに強めていた。

 眼下の衛兵たちは防御体勢をとっているが、あんな大きさのゴーレムが相手では止められるかわからない。

 ジークは拳を固く握りしめ緩衝地帯を睨んでいた。


「まさか、本当に帝国の<スーパーラージ>が起動しているとは……まさしく、これはドルガ王国建国以来の危機だ」

「大丈夫だ、ジーク。必ず俺たちが戦争を防いでみせる。任せてくれ」

「全力でこの状況を解決します。皆さんは後方で待機を」


 俺とリリアントが言うと、ジークは暫しぼんやりとしていたが、すぐにキリッとした表情に戻る。

 俺たちの手を握り、力強く言った。


「……ああ、頼む! 今頼れるのは君たちだけだ!」

「よし、行くぞ、リリアント!」

「はい!」


 俺たちは浮遊魔法で浮かび上がる。

 まずは古代魔法で動きを止め、その隙にリリアントが停止魔法陣を発動させる。

 言葉を交わさずとも、自然と意思疎通ができていた。


「<エンシェンティア・パラライズ>!」


 超電磁の波動がゴーレムたちに襲い掛かる。

 バチバチと青白い電流が巨体を駆け巡り、動きを止めた。

 城壁では衛兵たちが歓声を上げる。


「あんなに巨大なゴーレムが動かなくなったぞ! なんて強力な魔法だ!」

「あのおっさんすげえ! あれが賢者の魔法かよ!」

「規格外って言葉がピッタリだ!」


 どうにか動きを止められたが、あくまでも一時的なものだ。

 現に、かなりの力で抵抗されているのを感じる。

 すぐ解除されることはさすがにないが、これは完全な停止が必要だな。

 ゴーレムに侵略の意志はないのが幸いだ。


「リリアント、今のうちに魔法陣を頼む」

「はいっ! すぐに作業に取り掛かります!」


 リリアントはゴーレムの背中に飛ぶと、呪文を詠唱する。

 俺も彼女の隣で作業を見守ることにした。


「……国を守護する石の巨人よ。我はそなたらを統制する者なり。カイザラ-ドの名において、汝の魔法陣を現わせ……」


 ゥゥン……という重い音が響いた後、紫色の巨大な魔法陣がゴーレムの背中に現れた。

 一目見ただけで非常に難解な方程式であることがわかる。。

 リリアントもまた、険しい表情で見ていた。


「これが停止魔法陣か……ずいぶん複雑だな。いや、それもそうか」

「いえ、本来なら帝国の人間であれば解除は簡単なはずです。今回のように暴走すると大変ですから。しかし……保管されていたときと魔法陣がかなり変わっています。ほとんど別物ですね」

「なに?」


 リリアントは硬い表情を崩さない。

 彼女の様子から、あまり良い状況でないことがひしひしと伝わってきた。


「ロジェ師匠だから話しますが、帝国のゴーレムは離れていても互いに起動し合える機能を持っています。これは単なる仮説ですが……間違った起動魔法陣が連動し、停止用の魔法陣にも悪影響が出ている可能性があります」

「なるほど……あり得ない話ではないな……」

「ロジェ師匠、ここは私に任せてください。カイザラードにいた人間として、何より元宮廷魔術師として放っておくわけにはいきません」


 そう言うと、リリアントは魔法陣の解読を始めた。

 一瞬俺も手伝おうとしたが、すぐに考えを改める。

 俺の助けなど必要ないじゃないか。

 彼女はもう立派な魔法使いなんだ。


「……今ここに私が命じる! その強大な力を抑え、遥かなる眠りに就け!」


 リリアントが呪文を詠唱すると、ゴーレムの魔法陣が激しく輝いた。

 手を顔の前に当て光を遮るも、眩しくて周りが見えなくなるほどだ。

 光が収まったかと思うと、<スーパーラージ>たちは次々と地面に膝をつく。

 不気味なモノアイも消え、完全に沈黙した。

 緩衝地帯は静寂に包まれる。

 だが、次の瞬間には地面を揺るがすほどの大歓声が沸き起こった。


「うおおおおお! ゴーレムの動きが停まったぞ! ピクリともしねえ!」

「これで侵攻も中止だ! 戦争は回避されたんだ!」

「ありがとう、ロジェさん、リリアントさん! あんたたちのおかげでドルガ王国は救われたぞ!」


 城内に緩衝地帯に衛兵たちの声が木霊する。

 ふと地面を見ると、カイザラ-ド帝国の方角から使者の風体をした人物が馬を走らせてきた。

 その手には白旗がはためいている。

 停戦の合図だ。

 それを見て、俺たちの中に安堵の気持ちがあふれる。

 城壁まで戻ると、真っ先にジークが迎えてくれた。


「ロジェ、リリアント……本当に……本当にありがとう。君たちがいてくれたから、国は救われた」

「なに、やるべきことをやったまでさ」

「私もロジェ師匠の教えに基づいただけでございます」


 ジークは何も言わずに俺たちを抱きしめる。

 無事に戦争を回避できて良かった。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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