第34話:戦争の危機
「し、死体が届いていない!? 医術師団のベルナールさんが届けてくれたはずだぞ」
「医術師の方々も十数人いたので、盗賊などに襲われた可能性は低いと思いますが」
「いや、しかしだな。本当に届いていないんだ。医術師団が届けるという話も、たった今聞いた」
「なん……だと……?」
マジかよ。
驚きのあまり、リリアントと顔を見合わせる。
俺たちの様子を見て、ジークもまた緊張した面持ちで話しかけてきた。
「ロジェ、詳しく聞かせてくれないか?」
「ああ、もちろんだ。実は……」
ワコノ村での瘴気騒ぎ、エンシェン・ウルフの存在、そしてザベルグでの戦闘……。
ジークは最後まで静かに聞いてくれた。
「……なるほど。この王国でそのような事態が起きているとは知らなかった。報告ありがとう、ロジェ。すぐに会議を開き、対応を検討しよう。……皆の者、緊急会議の招集をかけてくれ」
「「はっ!」」
衛兵や大臣たちが慌てて王の間から駆け出す。
――どうして、死体が届いていないんだ。しかも、報告もされていないなんて。
考え込んでいたら、ジークに肩を叩かれた。
「ロジェ、リリアント。緊急会議には君たちも参加して情報を説明してほしい」
「わかりました。知っていることは全てお話しします」
「もちろんだよ。そこで、ジーク。俺からも頼みがあるんだ」
「なんだ? 私にできることならありがたいが」
リリアントを見ると、彼女はコクリと頷いた。
「ドルガ図書館の入室許可をもらえないか?」
「ああ、構わないが……そうか、古代魔獣について調べるんだな」
さすがはジーク、話が早い。
会議が始まる前に、少しでも情報を集めようと話し合ったときだ。
「「国王陛下! 国王陛下ー!」」
先ほど飛び出した衛兵が何人も走り込んできた。
みな、全速力で走ったきたのか、息が絶え絶えに乱れている。
「どうした。騎士団長たちは集まったか?」
「ち、違うのです、国王陛下! どうか落ち着いて聞いてください! カイザラード帝国が……カイザラード帝国が我が国に侵略を仕掛けています!」
王の間は静寂に包まれたのち、残っていた衛兵や大臣のざわめきに包まれた。
無論、俺たちもそうだ。
「カ、カイザラード帝国が侵略だって!? どういうことだよ……。リリアント、何か聞いてないか?」
「何も聞いていません。私が帝国を出たときだって、そのような話はウワサですらありませんでした」
ジークは手をかざして場を制すると、静かに話しかける。
あくまでも、彼は落ち着いていた。
「馬鹿を言うんじゃない。我が王国とカイザラード帝国は長年友好関係にある。侵略されるなどあり得ないのだ」
「ま、誠なのでございます! 空を見てください!」
この場にいる全員が窓に駆け寄る。
遠方の空に、キラリと光る粒が何個も見えた。
ジークは険しい顔で呟く。
「なんだ、あれは? 星か?」
「いや……星ではないよ、ジーク。あれは魔導大砲の弾だ。<テレフォト・マグニフィケーション>!」
王の間の中央に、光の粒を拡大した映像を映す。
全て、魔力を纏った砲弾だった。
猛スピードでこちらへ向かっている。
軌道を見る限り、着弾地点は王都だろう。
ジークの顔はどんどん青ざめていく。
「ま、まさか、本当に侵略なのか……? 古代魔獣の件は後回しとする! 避難勧告を発令! 大至急、王国の国防魔道具を起動させろ! あの砲弾を撃ち落とせ! カイザラード帝国にも確認の連絡を取れ! まだ誤射の可能性がある!」
「「は、はい! ……おい、大砲の準備だー! 砲弾を撃ち落とせー!」」
鐘の音が王都中に鳴り響く。
リリアントは口を押さえて必死に叫ばないよう努めていた。
「ウ、ウソ……本当に帝国が攻撃を仕掛けているなんて……どうして……」
「きっと何かの間違いだよ。……そうに決まっているさ」
衛兵たちが外に向かって怒鳴っていると、城の壁からいくつもの大砲が現れた。
間髪入れず、空へと砲弾が何発も放たれ、上空で爆発が起きる。
煙が風に流されると……空には相変わらず光の粒が何個も煌めいていた。
しかもさっきより確実に大きくなっている。
ジークは絶望の声を上げた。
「わ、我が国が誇る最高威力の大砲だぞ。それでも破壊できないなんて……」
「おそらく、あの砲弾の周りには強固な結界が展開されている。弾かれてしまったのだろう」
「そ、そんな……」
王都に迫りくる砲弾はもう目の前だ。
無論、俺がやることはただ一つだった。
「大丈夫だ、ジーク。あれは俺が撃ち落とす。<エンシェンティア・メテオシューター>!」
古代魔法を発動させると、上空の別の方角がキラリと光った。
ちょうど砲弾と垂直に交差するような軌道を描く。
例のミサイル群だ。
砲弾より何倍も早い猛スピードで飛んでいる。
俺の古代魔法を見て、ジークは驚愕していた。
「あ、あれも君の魔法なのか?」
「ああ、そうだ。安心してくれていい。王国に危害は加えないさ」
「ロジェ師匠は私たちが使う砲弾より、ずっと強力な武器を転送したんです。上空の砲弾を確実に撃墜してくれますよ」
数秒の後、ミサイルは上空で砲弾と接触する。
カッと白い光が迸ったかと思うと、数秒遅れて地上まで爆音が轟いた。
「い、いったい何が起きたんだ。ここまで音が届いたぞ」
「大丈夫だ、ジーク。砲弾は全て撃墜した」
<テレフォト・マグニフィケーション>で上空の映像を見せる。
カイザラード帝国が放った可能性のある砲弾は、全部撃墜されてなくなっていた。
ジークは力の抜けた様子で俺の肩に手をつく。
「……あぁ、よかった。君がいてくれて本当によかったよ、ロジェ。君が助けてくれるなんて20年前と同じだ」
「とりあえず、これで王都の危機は去ったことになるが……かなりまずい状況だな」
「君の言う通りだ。すぐにカイザラード帝国へ連絡をとり、何としても戦争の事態は避けたい」
みんなでひとまずホッとしていると、さらに別の衛兵たちが駆けこんできた。
息を切らしている様子から、大砲の発射に関する事案だろうと察しがつく。
「「こ、国王陛下……報告です……!」」
「今度はなんだ!?」
いつもは冷静なジークも、このときばかりは焦っていた。
「カ、カイザラード帝国との緩衝地帯を……超巨大ゴーレムが侵攻してきます……! あの、<スーパーラージ>です!」
それを聞くと、崩れ落ちはしないもののジークは力なく肩を落とした。
「いったい何が起きているのだ……カイザラード帝国は昔からの友好国だというのに……これでは本当の侵略戦争だ」
「ジーク、これはきっと何かの間違いだ。まだ対処できるはずだ」
「私も……私もそう思います。いえ、そう信じたいです。戦争をするなど、あってはならないことです」
「二人とも……そうだな。私がしっかりしなければどうしようもない。ありがとう、大事なことを思い出せたよ」
ジークの目には光が戻り、いつもの威厳が戻った。
彼の頼もしさもまた復活してくれた。
「俺たちが国境に行って確かめてくる。ゴーレムの侵攻も止めてみせるさ」
「ゴーレムの停止魔法陣を発動させれば動きは止まるはずです。私たちに任せてください」
「いや……」
俺たちの言葉をジークが遮る。
一瞬緊張したが、彼はすぐに言葉を続けてくれた。
「私も連れて行ってくれ。直接、この目で確かめたいんだ」
その瞳からはドルガ王国を守りたいという強い意志が伝わってくる。
もちろん、答えは一つだけだ。
「わかった。その前に、王都には強力な結界を展開しておこう。また大砲が撃ち込まれても大変だからな……<エンシェンティア・プラズマシールド>」
「私もサポートいたします、ロジェ師匠……<ギガント・オールシールド>」
王都全体を巨大な電磁バリアと、魔力バリアが二重に覆う。
そんじょそこらの攻撃ではビクともしないはずだ。
ジークは元より、衛兵や大臣たちからも感嘆の声が聞こえた。
「相変わらず、君たちの魔法はすごい。桁外れだ」
「なに、本番はこれからさ」
ジークや護衛の衛兵たち、大臣などの要職を集め、転送魔法の準備をする。
「みんな、準備はいいな? ……<エンシェンティア・テレポーテーション>」
俺たちを白い光が包む。
絶対に戦争なんか起こしてなるものか。
そう強い決心を抱き、カイザラード帝国へと転送されていく。
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