第31話:暴走……?(Side:トラッシュ③)
「ほら、イザベル。君のために取り寄せた高級のワインだよ。注いであげよう」
「ありがとうございます、トラッシュ様。……まぁ、なんて美味しいのでしょう。こんなお酒が買えるなんて、さすがはこの国の皇子様ですわ」
国防魔道具のメンテナンスをしてから、イザベルの機嫌は改善した。
下々の魔導士に崇め奉られ満足したんだろう。
本当にうまくできたかは知らんが。
まったく、婚約者の機嫌を取るのも楽じゃないな。
今度は新しく配属されたメイドをターゲットにするつもりだ。
どうやってイザベルの目を盗むか考えていたら、突然カンカンカンッ! という激しい鐘の音が鳴り響いた。
その甲高い音色を聞いた瞬間、体温が何度も下がったような気がした。
「な、何事ですか、トラッシュ様!」
「こ、これは敵襲警報だ! 大変だ、侵略だぞ!」
「侵略!? どこの国からですか! もしかして、魔族ですか!?」
「僕が知るわけないだろう! 急いで逃げるぞ!」
金や宝石など貴重品を集めまくる。
こんな国や国民などどうでもいい。
自分の命が大事だ。
部屋の中を走り回っていると、扉がこれまた激しく叩かれた。
切羽詰まった使用人の声が聞こえる。
「「トラッシュ様、イザベル様! 大変でございます!」」
「侵略だろ!? 今すぐ逃げる手はずを整えろ! 僕が死んでもいいのか! お前たちよりずっと価値ある命だぞ!」
「「いえ、侵略ではありません! 国防魔道具が暴走しているのです!」」
「……なに?」
使用人たちの言葉に、俺とイザベルはピタリと動きを止めた。
俺の問いかけに答える間もなく、部屋に大量の人間が入ってきては、俺たちを外に引きずりだす。
「「今すぐ王宮の外へ来てください! イザベル様もご一緒に! 急いでください!」」
「や、やめろ! 押すな!」
「ちょ、ちょっとやめなさい! 引っ張るんじゃありません!」
外に出た瞬間、俺たちは言葉を失った。
人々の悲鳴が飛び交い、地響きが轟き、まるで戦場のような様相だ。
空も夜だというのにやけに明るい。
あちらこちらで火の手が上がっているからだ。
王都が敵の襲来を受けたかのような大惨事に陥っている。
いや、それよりも……。
「なんでゴーレムが勝手に動いているんだよ!」
<スモール>、<ミディアム>、<ラージ>全てのゴーレムが動いている。
格納庫から出、魔力弾を発射し、やりたい放題だ。
現に今も建物が壊れ、国民どもは傷つき、被害が広がっていた。
王都が壊滅しかねない。
……いや、それよりもまずいのは、俺の責任になりそうなことだ。
今の国内最高権力者は俺。
俺のせいだと言う愚か者が出る可能性は十分にある。
責任を取るなんて絶対にイヤだぞ。
よし、ここは魔導師どもの責任にしてやれ。
管理しているのはこいつらだからな。
「おい、魔導師! これはどういうことだ! ゴーレムは暴走しないんじゃないのか!」
「「わ、私たちにもわかりません! 魔法陣さえ問題なければ暴走なんてありえないのですが……」」
「ちょっと! あたくしのせいだと言うの!」
「「い、いえ、そういうわけではなくて……」」
イザベルもまた、責任を取るまいと必死だ。
いいぞ、このまま魔導師の間で共倒れしろ。
「「トラッシュ様、かつてないほどの非常事態です! どうにかしてくださいませ! 今この国の最高権力者はトラッシュ様ですから!」」
クソが。
さっそく俺にすがってきやがった。
というより……。
「お前らは魔導師だろ! いつも管理しているんだから暴走を止められるはずだ! 早くどうにかしろ!」
「「それが……魔法陣が見たこともないほど複雑に変化しており、解除はおろか解読さえできないのです……」」
「な……に……?」
魔術師どもはみな暗い顔で下を向いている。
とても嘘だとは思えない。
いや、事実に決まっている。
こいつらも命の危機にあるのだから。
「だ、だったら全て破壊しろ! 壊してしまえ!」
「「それもできません……。」」
……そうだ。
国防魔道具はどれも非常に強力な兵器だ。
敵からの攻撃を防ぐため、ゴーレムも大砲も対魔法技術が詰め込まれている。
もちろん、物理的な強度も国内最高峰。
破壊は相当大変だろう。
クソッ……こうなったら……。
「イザベルゥ! 貴様、何をしたんだ! 責任とれぇ!」
「だから、あたくしは魔法陣の確認をしただけでございます! 何も間違いはしておりません!」
全てイザベルの責任にしてやれ。
だが、この女も抵抗しやがる。
二人で揉め合っていると、格納庫の屋根から地対空大砲が現れた。
「おい、イザベル! 今度は何を始める気だ!」
「し、知りませんわ! 始めるも何も、私は何もしておりません!」
あろうことか、ドンッ! と一斉に空高く魔弾を射出する。
王都に備えつけられているのは、いずれも超長距離砲だ。
隣国の全域を射程距離に収めている。
し、しかも、あの方角は……ドルガ王国じゃないか。
あろうことか、同盟国に向けて魔弾が発射されてしまった。
これはもう宣戦布告と捉えられてもおかしくない。
「トラッシュ様、今すぐカイザラード帝国に連絡を取ってください! 大砲は誤射だとお伝えください!」
「イザベル様! 筆頭宮廷魔導師としての力をお見せください! 早くしないと国が壊滅しますよ!」
「私たちでは力不足で避難を誘導することしかできません! 助けてください!」
使用人や魔導師たちに体を揺らされるも、まったく動けないでいた。
思考回路も壊れてしまったように、何も考えが浮かばない。
もの凄い焦燥感だけが俺の全身を支配していた。
――まずい、まずい、まずい! これはさすがにまずい!
下手したら帝国は壊滅…いや、隣国と戦争になりかねない。
心臓は壊れそうなほどバクンバクンと鼓動し、不気味な冷たい汗がいつまでも全身を流れ落ちていた。
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