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第30話:宴といつものアレ……

「では、我々の勝利を祝い盃を合わせよう……勝利の美酒を!」

「「勝利の美酒を!」」


 兵舎の大食堂で、盃のぶつかる音が響く。

 エンシェン・サイクロプスを倒した後、街を挙げての宴が開かれた。

 騎士だけでなく住民たちも参加している。

 戦闘の様子はあっという間に街中を駆け巡り、ぜひ直接お礼を! ということだった。


「ロジェさん、私は街一番の肉料理屋なんですけどね、今日はとっておきの料理を作ってきました」

「一口食べるだけで活力が溢れること間違いなしです。僕たちはいつも肉ばかり食べているんですよ」

「ロジェ殿、遠慮することはない。男たるもの、食事で明日の英気を養うのだ」


 猪の丸焼きにバターがたっぷりかかった茹でポテト、分厚いステーキに大きな鶏のから揚げ。

 次から次へと重そうな(胃に)料理が運ばれてくる。

 ザベルグは騎士団の街なので、肉だとか芋だとか力が出そうな料理が有名なのだろう。

 騎士と住民の皆さんが輝く瞳でぐいぐいと進めてくる、肉を。


「「さあ、どうぞ! 思う存分食べてください!」」

「ま、まずは野菜から食べようかなと……」

「「何をおっしゃいますか! まずは肉からでしょう!」」


 皿の隅にあったわずかな緑も回収され、目の前に三段重ねの分厚いミディアムレアのステーキが置かれた。

 とろりとした濃厚なソースが肉いっぱいにかかり、大変に食欲をそそる料理だ。

 二十代の俺ならば、喜んでかじりついていただろう。

 そう、二十代ならば……な。

 しかし、俺は今40歳なのだ。

 こんなもたれそうな肉を食べた暁には、俺の老体がどうなってしまうか用意に想像つく。


「ロジェ師匠はナイフも握れないほどお疲れなんですよね? でしたら、私が食べさせて差し上げます」

「待て、なぜ貴様がその役目を担うんだ。そこは騎士団長がやるべきだろう」

「「おおお~! ロジェ殿はモテモテだ~!」」

「自分で食べるからっ!」


 左右からあ~ん、が迫ってきたので、慌ててステーキを切り頬張った。

 あっつ!

 とてもあっつあつなので、口の中を軽く火傷した気がするぞ。

 モグモグと食べていると、住民と騎士たちがドガッと身を乗り出してきた。


「「どうでしょうか!?」」

「……おいしいです」

「「うおおおお! ロジェ殿がおいしいと言ってくださったぞー!」」


 湧き上がる皆さん。

 結論から言うと、ステーキは非常に美味だった。

 表面はカリッとしているのに、中は柔らかくて歯ごたえ十分。

 一口食べただけで肉汁と一緒に満腹感があふれる。

 ソースは甘くてしょっぱい味付けで、肉と相性抜群だ。

 その代わり、代償は大きそうだな。

 胃もたれの。

 まぁ、とはいってもこれくらいなら平気か。

 リリアントとエカテリナと分ければいいし。


「「もっと肉を持ってこーい! 全然足りねえぞー!」」


 淡い希望が砕け散ったところで、エカテリナが真剣な表情で呟いた。


「それにしても、古代魔獣とは不気味な魔物だった……。瘴気もそうだが、一般的な魔物より強い禍々しさを感じた」

「ああ、凶暴なだけじゃなくて、何というか異常な殺意を感じるんだよな。きっと、人間がめちゃくちゃ嫌いなんだろう」

「私も身に染みて感じました。彼らは普通ではありません」

「二人がいてくれて我ら騎士団も助かったな。しかし、よく調べられないのが残念だ」


 騎士団は未知なる敵の襲来を受けたわけだが、エンシェン・サイクロプスは灰になってしまった。

 死体が残らなければ詳しい調査も難しい。

 特にエカテリナは、分析できないことを悔しがっていた。


「リリアントと話し合ったんだが、王都で古の時代に関する資料を探してみようと思う。ドルガ図書館なら何かしら情報があるはずだ」

「古代魔獣に関する情報がわかったら、エカテリナにも教えますね」

「それは心強い。よろしく頼む。我はザベルグを離れるわけにはいかないからな」


 王都で調べた情報を伝えることを約束するとエカテリナは喜んでくれた。

 三人で昔話に花を咲かせていると、宴の時間もおしまいとなった。

 さてと、もう寝るかな。

 だが、寝室へ引き上げる前に、屈強な騎士たちに取り囲まれてしまった。


「な、なんですかね?」


 皆さん、何やら興奮されているような……。

 と、思った瞬間、ガバッと肩に手を回された。


「さあ、ロジェ殿。食事の後と言えば風呂ですな! 今日はいつにも増してとっておきのお湯ですぞ!」

「リリアントさんと団長もどうぞ! ぜひ皆さんで親睦を深めてください!」

「美女二人と混浴なんて羨ましいですぞ、ロジェ殿! 我々のことは気にせず!」

「え! あ、いや、ちょっと……!」


 騎士の面々は俺とリリアント、そしてエカテリナの背中を力強く押し、浴場へと連れていく。

 ま、まずいぞ、この流れはだな……。


「さあ、ロジェ師匠。お風呂に入りましょう。そういえば、このところ一緒に入っていなかったですよね」

「我も汗をかいた。流せ」

「待て待て待て! 待って! どうしてこうなるんだ! あ~れ~!」


 有無を言わさず脱衣場に押し込まれてしまった。

 騎士たちもまた、ぐふぐふ笑いながら去っていく。

 どこかで聞いたような笑い方なんだがな。

 ポツンと残されたのは俺だけ。

 いや、女湯の方にはリリアントとエカテリナもいるか。

 いちゃいけないんだけどな。

 まぁ、とはいっても別に問題はない。

 浴室は分かれているから。

 余裕な気持ちでガラッと扉を開けた瞬間、目を閉じて洗い場に向かう。


「ロジェ師匠、どうしたのですか? 目が痛いのですか?」

「まだ石鹸すら泡立てていないぞ」

「そういうことではないんだ」


 賢者の心境でどうにか入浴を終える。

 この段階になると、目を開ける必要すらないな。

 帰室し、二人に挟まれながら賢者の心境で眠りに就いた。



□□□


「ロジェ、リリアント。本当にもう行ってしまうのか?」

「ああ、王都で古代魔獣のことも調べないといけないしな。国王にも出現を知らせた方がいいだろう……うっぷ」

「お世話になりました。久しぶりの再会は楽しかったです」


 翌朝、俺たちはエカテリナに別れの挨拶を交わしていた。

 周りにはザベルグの騎士たち。

 爽やかな気分で挨拶したいところだったが、胃もたれが辛くてそれどころじゃなかった。

 これもまた老化の証だな。


「ちくしょうっ! もうロジェ殿とお別れの時間かよっ。もっと訓練をつけてほしかったのにっ」

「無理言うなっ。ロジェ殿はお忙しいんだから。あまり引き留めてしまってはいけないだろっ」

「あぁ、リリアントさんっ。俺は次いつあなたに会えるんでしょうっ」


 胃もたれに苦しんでいる間にも、男泣きの声が空に響く。

 やっぱり、騎士の皆さんは熱い性格をされているようだ。

 エカテリナも泣き叫ぶことはないものの、悲しそうな微笑みを浮かべていた。


「じゃあな。古代魔獣の情報、待っているぞ」

「ああ、あまり訓練に打ち込み過ぎるなよ」

「たまには休んでくださいね」


 街を守る偉大な騎士たちに手を振り、俺たちはザベルグを後にする。

 エカテリナたちもまた、姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。

 ぐ~っと背伸びすると、骨がポキポキと鳴る。

 疲れが溜まっているのかもしれないなぁ。

 古代魔獣についての情報を得るため、俺たちは王都へと歩を進める。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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