第28話:訓練と……
「おっさん、対魔法訓練に付き合ってくれてありがとな。おかげで、良い修行ができているよ」
「俺たちはいつも剣術の訓練しかしてませんから、魔法が相手だと大変勉強になります」
「魔法使いに勝には、まず魔法のことを知らないといけないことにようやく気づいたよ」
午後一の訓練が終わると、騎士たちが俺を囲み礼を言ってくれた。
「いやいや、お役に立てて何よりだよ。お疲れ、みんな」
「「お疲れ様でしたっ」」
騎士たちに挨拶を交わし、一旦訓練場から引き上げる。
エカテリナとの勝負後、俺とリリアントは数日間ザベルグに滞在していた。
魔法の腕が認められたためか、しばらく騎士たちの訓練に協力してほしいと頼まれたのだ。
「リリアントさん、今日もありがとうございました! あなたみたいな人に訓練をつけてもらって恐悦至極でございます!」
「あなたも凄腕の魔法使いでいらしたんですね! ロジェさんのお弟子さんと聞いて納得しましたよ!」
「やっぱり、術者で魔法の質って変わるんですね! お二人がいらしてから、毎日実感しています!」
リリアントもまた、騎士の訓練に参加している。
美人な魔法使いと知り合えて、みな嬉しいようだ。
ぶっちゃけ俺と訓練しているときより、彼らの顔は輝いていた。
……魔法使いのこと嫌いなんじゃなかったっけ?
歩きながら、リリアントが静かに話しかけてくる。
「ロジェ師匠、そろそろ立ち去っていいんじゃないでしょうか。騎士たちの腕も一段と向上しているようですし。十分務めは果たしたかと」
「う~ん、でもエカテリナはもうちょっといてほしいみたいだから……」
「……ロジェ師匠は彼女がお気に入りですよね。昔から」
「そうじゃなくてねっ。それに、昔って何年も前でしょうっ」
つねられることはなくなったものの、このところリリアントは不機嫌な日が続いている。
な、なぜだ……。
いや、何となくわかるような気がした。
原因はたぶん……。
「おい、ロジェ。今度は我との訓練に付き合え」
訓練場横の兵舎から、エカテリナが歩いてきた。
初対面のときと同じように、重そうな鎧に身を包み、大剣を背負っている。
それが彼女の通常スタイルらしかった。
「い、いや、少し休ませてくれよ。さすがに連戦は身体に堪えるんだから」
「気持ちが老いたらおしまいだぞ。身体の健康は気の持ちようで変わるのだ。我は死ぬまで全盛期でいるつもりだぞ」
「まぁ、そうなんだけどさ。いやぁ、団長閣下の言うことは的を得ているな、ははははは」
話ながらも、エカテリナはすいすいと鎧を外す。
彼女にも個別の訓練をつけることがあった。
騎士団長として、魔法に対する理解をさらに深めたいのことだ。
体力が極めて豊富ならしく、一般の騎士ではへばるような訓練の後でさえ、まだ訓練をしていた。
「ロジェ師匠はエカテリナと話していると楽しそうですよね。私と話すのは飽きてしまいましたか?」
「だ、だから、そうじゃなくっ! ただ、冗談に笑っただけなんだっ」
いや、やっぱりまだ彼女の不機嫌は続いていた。
そのまま、くどくどといくつか文句を言われる。
「一緒にいる時間が長すぎましたかね。いわゆる倦怠期というものでしょうか。朝も昼も夜も一緒にいますものね。もっと刺激的な日々を送れるよう努力しなければならないと感じます」
「リ、リリアント、頼む。今晩、新しい神話の話をするからそれで勘弁してくれ」
「……しょうがないですね」
新しい昔話を約束すると、機嫌を直してくれるのが幸いだった。
……旅の合間にネタを仕入れていかなければ。
今度いつまた彼女の機嫌が悪くなるかわからん。
悩む俺に構わず、エカテリナが腕を引いていく。
「早く訓練に行くぞ、ロジェ~。準備はとうにできてるんだ」
「わ、わかったから、ちょっと待ってくれ。リリアントも訓練に手伝ってくれないか?」
「ええ、もちろんいいですよ。エカテリナに力の差を見せつける良い機会です」
とはいっても、リリアントも何だかんだ言って付き合ってくれているから、内心ホッとする。
実のところ、彼女らは気が合う仲なのだ。
「貴様などロジェの前では蝿同然だ。叩き潰してくれよう」
「実力がロジェ師匠より劣ることは認めますが、蝿とはいったいどう意味でしょうか」
「そのままの意味だ。虫のようにチラチラ飛び回りおって。我の剣術で潰されてしまうがいい」
「ふむ、少々遠慮し過ぎてしまったようですね。いいでしょう、灰も残らないほどの攻撃をお見舞いして差し上げます」
二人とも……仲良いよね?
視線の間でバチバチ鳴っているのは火花じゃないよね?
おじさん、心配になっちゃうよ。
「おい、ロジェ。こいつより我の方が強いよな。どうなんだ? ハッキリ言え」
「ロジェ師匠、この人より私の方が強くて魅力的ですよね。どうなんですか? 忌憚なき意見を述べてください」
「えっ!?」
俺!?
いきなり話を振られたのですが……なぜ?
右からはリリアントが、左からはエカテリナが詰め寄ってくる。
二大美女に詰問されている様子を見て、周りの騎士たちが冷やかしてきた。
「いやぁ、ロジェ殿はおっさんなのにモテますなぁ。羨ましい限り」
「俺も美女に囲まれてぇ~」
「なるほど、最近はイケてるおっさんが流行ってるのか。俺にもワンチャンあるな」
だから、そうじゃないんだって!
色々と圧の強い二人に迫られ、心なしか呼吸まで苦しくなってきた気がする。
どうやってこの場を切り抜けようか考えていたら、不意に訓練場の入り口が慌ただしくなった。
数人の騎士たちが慌てた様子で駆けてくる。
「「団長! 偵察部隊より緊急連絡!」」
「なんだ、どうした」
エカテリナは即座に団長モードに戻り、騎士たちと向き合う。
彼らは息を整えるのも大変なようで、はぁはぁ……と浅い呼吸を繰り返していたが、衝撃的な一言を放った。
「「しょ、瘴気をまき散らす異常な魔物が……ザベルグに向かって猛進しているとの情報が入りました!」」
訓練場を緊迫した空気が覆う。
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