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第25話:王国騎士団の城下町

「一度歴史書を確認したいな。“アキラ”についてもっと詳しく調べたいよ。古の時代は記録が少ないから大変だろうけど」

「カイザラード帝国でも、古の時代に関する書物は数が限られていました。“禁忌書物”の棚に少しあるだけでしたので」

「まさか、それも……」

「はい、盗み読みました」

「……やっぱり」


 旅路を進みながらリリアントの知識と照らし合わせ、古代魔法について少しずつ理解が深まってきた。

 古代魔法で転送される魔道具は、“大錬金術師アキラ”と呼ばれる偉大な錬金術師が製作した可能性が高かった。

 各地には、()の人に関する伝承が残っている。

 馬も使わず自動で走る馬車や、高速で空を飛ぶ鳥、超火力の火矢を開発したり、空を覆い尽くすほどの魔族を一夜にして燃やし尽くした……などなど。

 今の時代とはまるで規模が違う話の数々だ。

 本当にいたのか不明ではあるが、実在していた可能性は高い。

 焦げ果てた大地や隕石が衝突したかのようなクレーターも発見されているのだ。


「ドルガ王国で一番書物が多いとなると、王都にあるドルガ図書館だろうな。あそこの蔵書量は国内随一だ。しかし、古の時代の書物は王様の許可がないと見れないけど……」

「先生なら盗み見ることなど容易いと思いますが? 転送魔法や透明魔法を駆使すれば簡単かと」

「い、いや、そこら辺はちゃんとしておきたいというかだな……」


 昔からルールや規則を破るのは緊張する。

 できれば、きちんとした手順に乗っかりたいものだ。


「いずれにせよ、“アキラ”について調べていれば、古代魔法のこともわかりそうですね」

「ああ、旅の途中で王都にも寄ることにしよう。ザベルグの近くだから、道すがら行けるはずだ」

「王都も昔と様変わりしているんでしょうか。今から楽しみです」

「あいつも元気にしているかなぁ……って、覚えてくれているかもわからんが」

「覚えているに決まっています。ロジェ師匠と再会したらビックリするでしょう」


 リリアントが幼かった頃、王都を尋ねたこともある。

 魔法の鍛錬を積んでいたおかげで、当時の皇太子とも知り合いになれた。

 あれから20年近く経つから、彼も立派な男性に成長していることだろう。

 さすがにおいそれと会うことはできないと思うが。


「ロジェ師匠、ザベルグが見えてきましたよ。やはり、騎士団の拠点であるという趣は変わりませんね」

「ほんとだ。時が過ぎても変わるものと変わらないものがある、というのは不思議だな」

「ごもっともです」


 前方に石造りの巨大な壁が見えてきた。

 高さは一般的な建物の二階部分まではあり、カーブを描いて左右に広がる。

 堅牢な鉱石で作られた壁だ。

 ザベルグは王国騎士団の拠点で発展した城下町だが、街の様相から要塞都市なんて呼ばれ方もしていた。

 街の外からでも、壁の向こう側に騎士団の兵舎の屋根が見える。


「実際のところ、ちょっと心配ではあるけどな。また追い払われないか不安だ」

「まぁ……騎士団の方々は、魔法使いに対して独特な考えをお持ちですからね」


 王国騎士団はその名の通り、剣術に秀でた騎士が集まった組織だ。

 どんな敵も剣一本で斬り伏せてきた自信があるためか、魔法使いに対して少々辛辣な態度を取ることも多かった。

 とはいっても、みんな良いヤツだ。

 魔法などに頼らずに国の安全を守る……と真剣に生きてくれているのだから。


「今回も知り合いに会えたら嬉しいな。あの時会った騎士たちはまだザベルグにいるのだろうか」

「どうでしょう。騎士団は異動が激しい仕事ですからね」


 リリアントと、ああだこうだ話していると門に着いた。

 例のごとく検閲を受ける。

 書類やら何やらを渡したいのだが、詰め所ではすでに先客が話していた。

 受付の前に立っているのは……謎の人物だ。

 頭には重そうな金属のフルフェイス、上半身と下半身はこれまた重そうな鎧を着て、背中には自分の身長を超すほどの大剣を担いでいる。

 まるで鎧騎士といった風体だな。


 ――い、いったい、何者だ……。


 明らかに普通ではない鎧騎士を見て、俺もリリアントも怯む。


「ぼ、冒険者の人かな、リリアント」

「お、おそらく、そうだとは思いますが……ザベルグは騎士団の街ですので、武者修行に来た猛者かもしれません」

「なるほど……リリアントは賢いな」

「いえ、それほどでも……」


 小声で話し合っていると、鎧騎士と門番たちがこちらに気づいた。

 

「……来客のようでございますぞ」

「なに? よく来てくれたな、ザベルグにようこそ」


 意外にも、人物は明るい声で対応してくれた。

 こちらを振り向き、両手を広げている。

 どうやら、友好的な人らしくてホッとした。


「すみません、街に入りたいんですけど……」

「うむ、これは失礼した。こちらで手続きを踏んでいただきたい」

「はい、ありがとうございます」


 鎧騎士が道を開けてくれたので、軽く会釈して素通りする……のだが、突然ガバッと肩を掴まれた。


「貴様らは魔法使いだな?」

「え……!? は、はい、そうですが……」


 な、なんだ?

 鎧騎士は俺の肩を掴んだまま手を離さない。

 それどころか徐々に力が入り、ミシミシミシ……と骨が軋んでいく。

 い、痛いんですけど……。

 フルフェイスで顔は見えないものの、俺とリリアントをきつく睨んでいることが雰囲気で伝わってきた。


「ザベルグにやってくるとは良い度胸をしている。騎士団がどんな人間か、貴様らも知らないわけではないだろう」

「え、ええ、まぁ……あまり好きではないじゃないということは……」

「貴様ら魔法使いは気に食わない。どんなことも汗水垂らさず、超常現象でひょいっと解決してしまうからだ。一方、我らは物理的に解決せざるを得ない。この差がわかるか?」

「あ……はぃ……」


 そんなことを言われましても……とは思ったが、威圧感がすごくて言えなかった。

 鎧越しでも圧というか、オーラが凄まじいのだ。

 まさしく、ただ者じゃない。


「魔法を扱うには生まれ持った才が必要だ。魔法には生まれつき、向き不向きがある。努力しても超えられない壁がある。貴様らは選民思想がある上にずるいのだ」

「すみません……」


 お説教は終わったかと思ったらまだ続いてた。

 魔法使いに当たりが厳しい風潮は、今もあまり変わっていないようだ。

 こういうところは変わっていただいていいんだけどな。


「ちょっと待て。もしかして、貴様は……ロジェか?」

「はぃ……俺はロジェそのものです」


 鎧騎士の厳しい声が刺さる。

 地味な名前だとか、また嫌味を言われるのだろうか。

 どこにでもいそうだもんな……って、なぜ俺の名前を。

 疑問に思っていたら、鎧騎士は言葉を続けた。


「この顔に見覚えはないか? 忘れたとは言わせないぞ」

「か、兜で見えないのですが……」


 フルフェイスの兜を被られているので、顔が完全に隠れていて見えない。

 鎧騎士はそっと兜を外す。

 燃えるような赤く美しい髪がはらりと出てきた。

 わずかに首にかかるくらいの短さで、爽やかで快活な印象を受ける。

 瞳もまたルビーの如く光り輝き、見る者を吸い込んで離さなかった。

 リリアントとはまた違うタイプの美しい女性だ。

 しかし、俺はこの人と知り合いではない。

 会ったことさえないと思うんだけど……。


「忘れたとは言わせない。あの時から我は貴様のことばかり考えていた」

「い、いや、しかしですね。俺はあなたに会ったことがなくて……」

「な……んだとっ……」


 正直に伝えると、女性は絶句する。

 な、なんだ?

 俺の知り合いなのか?


「すみません、どうしても思い出せなくて……」

「……ぅぅぅ! 我はエカテリナだ! エカテリナ! 覚えてないはずはないだろう!」

「お、俺たちはいつ会ったのでしょうか?」

「今から20年前だ!」


 ということは、この人が少女の頃に出会ったことになるわけか。

 成長し過ぎていて、さすがにわからないんじゃ……。

 エカテリナと名乗った女性も察したのか、ため息交じりに言葉を続けた。


「さすがに20年前と今とでは我も変わり過ぎているか……。わからないのも無理はない。だが、“熾天使五連星”という名には聞き覚えがあるはずだ」

「え、ええ、それはもちろん知っています」


 ――“熾天使(してんし)五連星(ごれんせい)”。


 昔、伝説上の存在として知られる熾天使の如く強い五人の剣士がいたのだ。

 彼らはどんな高ランクの魔物も剣一本で斬り伏せ、王国の安定に寄与した。

 その功績は今でも語り継がれているほどだ。


「我はエカテリナ。“熾天五後連星”の第三席、モードレッドの娘だ」

「「え……!」」


 俺とリリアントは同時に驚きの声を出す。

 モードレッドと言えば、国内一巨大な長剣の使い手。

 その剣圧は岩をも砕いたという。

 この女性がそんな大物だなんて……。

 懸命に思い出しながら赤い髪と瞳を見ていると、朧げな記憶が蘇ってきた。


「もしかして、君は…………あのエカテリナか!?」

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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