第22話:そんなことありえないのだが……?(Side:グレゴワール②)
「さあ、グレゴワール、“霊視の十芒星”。どういうことか、きっちり説明してもらおうかねぇ?」
「うっ……」
気がついたら、私は見知らぬ床に横たわっていた。
……いや、ここがどこか知っている。
ギルドのロビーだ。
“霊視の十芒星”として神の怒りについて演説した場所だから、よく覚えている。
目の前にはルイーズやアドームの住民ども。
私やメンバーを囲むように立っていた。
「神の怒り、だなんて嘘っぱちだったんだろ? よくもまぁ、そんなしょうもないことを考えつくね」
「う、嘘じゃないのだが? 本当に神の怒りはあるのだが?」
「オイラがあんたに怒りの鉄槌を下してやろうか?」
「あ……」
ゴキリ……という骨が鳴る音を聞き、抵抗する気力は完全になくなってしまった。
杖も没収されているようだ。
魔法で強行突破も難しいだろう。
「ロジェとリリアントがいなかったらと思うとゾッとするよ。あんたらにずっと騙され続けていた、ってことだからね」
ルイーズたちの後ろには、ブロンドヘアの美女が立っていた。
天才的な素質がある私の攻撃をいとも簡単に防いだ女だ。
呪文詠唱もせずに魔法を発動させるとは……。
彼女の隣には、みすぼらしいおっさん。
美女はまだしも、あのおっさんまで強力な魔法が使えるとは思わなかった。
あんな魔法は見たことがないし、聞いたことすらない。
しかも、おっさんも無詠唱で魔法を発動させた。
……ずるいのだが?
こいつらはいったい何者なのだ。
「わ、私はお前たちのためを思って祈祷を捧げていたのだが? 神の怒りを鎮めるため、懸命に祈っていたのだが?」
「それがそもそも嘘だったんじゃないか。何がオイラたちのためだか……聞いて呆れるね」
「だ、だから、神の怒りは本当にあるのだが……」
「あるわけないだろ。もういい加減にしな。オイラたちも目が覚めたんだ」
ルイーズを初め、住民どもは私をキツく睨んでいる。
今まで騙し通せていたが、もう無理のようだ。
せっかく楽に荒稼ぎできると思っていたのに……。
金の卵を逃したような悔しさを感じていると、おっさんが目に入った。
くたびれた顔を見るだけで怒りが湧いてくるのだが?
――これも全て、あのおっさんがやってきたせいなのだが? あいつが来るまではうまくいっていたのだが?
おっさんに恨みを募らせていると、名案が思い浮かんだ。
……そうだ。
全部こいつのせいにしてやれ。
火山灰も何も、あのおっさんが嘘を吐いていることにしてしまえばいいのだが?
「騙しているのは、あのおっさんなのだが!? 粉が石の粒というのも、あいつが作り出した幻の可能性があるのだが!?」
「この人がそんなことするわけないだろ。あんたとはそもそも信用が違うんだよ」
なんだ、それは。
そんなのずるいではないか。
私は絶対に認めないのだが?
「ふざけるな! なのだが? そもそも、このおっさんは何者なのか知らないのだが!?」
「この人はロジェ。古の魔法さえ司る稀代の大賢者さ」
「だから誰なのだが!? 聞いたこともない名前……え?」
「今から20年前、アドームを襲った<メガファルコン>を追い払ってくれた大賢者様だよ」
ルイーズの放った言葉は、遅れて私の頭に入ってきた。
ロ、ロジェ……だと……?
おっさんの名前が頭の中で木霊する。
強力なSランクモンスター、<メガファルコン>を撃退し、街中の称賛を得た大賢者…………ロジェ。
まさしく、私が憧れた魔法使いじゃないか。
こ、このおっさんが?
呆然としながらその顔を見る。
「グレゴワール、もういいだろ。罪を認めて謝罪するんだ。金もちゃんと返せばそれでいいと、アドームの人たちも言ってくれているぞ」
「言い逃れなどしないで、皆さんに謝ってください。それがあなたのためでもあるのですから」
おっさんの横にいるのは、あの美女。
年齢は二十代半ばだろうか。
男女の組み合わせを見ていたら、微かな記憶が蘇った。
<メガファルコン>を追い払った男の傍には幼女がいたような……。
その光景を思い出したとき、電流のような衝撃が全身を襲った。
――20年の時を経て、あの二人が戻ってきた……? 目の前にいるおっさんと美女は、あの魔法使いと幼女の20年後の姿……?
その可能性に気づくや否や、私は風化しそうになっていく。
――あのときの感動を伝えるだけじゃなく、弟子になるチャンスまで失ったのだが……?
そんなこと、ありえないのだが……?
遅すぎる後悔に、私の心はビリッと張り裂けた。
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