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第21話:魔法勝負

「みんな、聞いてくれ。この悪天候の原因がわかったんだ」

「順を追ってご説明しますので、ぜひ聞いてください」


 ここはギルドのロビー。

 広い室内がいっぱいになるほど、アドームの住民が集まっている。

 グレゴワールの教会から出た後、俺とリリアントはルイーズの協力の元、彼らに集まってもらったのだ。

 みな、真剣な表情で俺の話を聞いてくれていた。


「結論から言うと、空を覆っている雲は単なる雲ではない。“ベガダウ火山”の噴火により放たれた火山灰……小さな石の粒によるものだ。空中に浮遊している粉もまた、その火山灰だ」


 火山灰だと告げると、住民たちをざわざわとしたどよめきが包み込んだ。

 今まで神の怒りだのなんだの散々言われていたのだから、すぐには信じられないのだろう。

 ただ口で説明するだけでは説得力がない。

 そこで、リリアントの協力を得ることになっていた。


「私の手の平にある球は、灰色の粉を集めたものです。これを今からロジェ師匠に拡大してもらいます」

「みんな、これを見てくれ……<エンシェンティア・マイクロスコープ>」


 リリアントが持っている球体に杖をかざす。

 先ほど彼女やルイーズに見せたように、微細な石の姿が明らかとなった。


「ほ、本当に火山灰なのか。粉の正体が石の粒だったなんて初めて知ったぞ……」

「ずっと神様のお怒りかと思っていたわ。空は曇るし変な粉が降ってくるしで、初めての異常気象だったから」

「火山灰なんて想像もしなかったな。さすがは魔法使い様だよ」


 住民たちはみな、はぁ~と驚いている。

 やはり、“霊視の十芒星”は火山灰について隠し通していたようだ。

 神の怒りとはよく言ったもんだな。


「二か月前、大きな地震があったと聞いた。おそらく、“ベガダウ火山”の噴火による地震だ」

「たしかに、ずいぶん揺れたよな」

「今でもあの嫌な感覚は覚えているわ」

「あの地震は噴火が原因だったのか」


 地震については強い印象が残っているようで、すぐに理解を得ることができた。

 “ベガダウ火山”からの距離を考えると、かなり大規模な噴火と考えられる。


「二か月間の天候不良も、それだけ噴火の規模が大きかったからだと考えられる。風が吹いても流れ切らないんだろう」

「「つ、つまり、神の怒りというのは……」」

「そんなものはないというわけだ」


 そう言うと、アドームの住民たちは悲しげに目を伏せた。


「俺たちは騙されていたってことか……まさかなぁ……」

「お怒りを鎮めていただけるよう、毎日祈っていたのに……」

「ただの自然現象だったのかよ……それじゃあ、祈っても意味がないわな……」


 みんな、騙されていたことにショックを受けている。

 善人な人ばかりだから、グレゴワールたちを真剣に信じていたのだろう。


「俺とリリアント、そしてルイーズはこれから“霊視の十芒星”の元へ行くが……みんなはどうする?」

「「頼む、俺たちも一緒に連れて行ってくれ。面と向かって話したい」」

「ああ、もちろんだ」

「みんなで行きましょう」


 住民たちを連れ、例の教会に戻る。

 祈祷の声が漏れ聞こえるが、今となってはもう意味のない言葉にしか聞こえなかった。

 扉を開けて中に入る。

 “霊視の十芒星”は輪になって祈りを捧げていた。

 まったく、誰に向かっての祈りだろうな。

 俺が何か言う前に、ルイーズが言葉を発した。


「グレゴワールさん、ちょっと話をしてもいいかね?」

「また貴様らが来るとは思わなかったのだが? 今は祈祷の最中なのだが? 邪魔されると祈祷は最初からやり直しになるのだが?」


 今度は、グレゴワールはフードを外していた。

 リリアントがいるからだろう。


「火山灰による悪天候を神の怒りにしてしまうとはな。うまいことを考えたのだろうが、俺たちを騙すことはできないぞ」

「素直に認めてください。アドームの人々からお金を騙し取っていたことを。神の怒りなんて嘘なんですよね? この悪天候は“ベガダウ火山”の噴火による火山灰が原因です」

「なっ……にっ……!?」


 俺とリリアントが火山灰と言うと、グレゴワールはじめ“霊視の十芒星”はビクリと体が震えた。

 小声でながらも、狼狽した様子で相談していることがわかる。

 ギルドで説明したように、拡大した火山灰を見せながら話す。


「グレゴワール、見てわかるように、これは微細な石の粒だ。二か月前、大きな地震もあったとルイーズたちから聞いた。空がずっと曇っているのは、神の怒りなんかじゃないんだ」

「あなたたちの祈りの言葉も、本当は意味なんてないのでしょう。アドームの人から貰ったお金を返してください」

「あっ……ぐっ……」


 “霊視の十芒星”の輪も乱れ、メンバーたちはグレゴワールの後ろに隠れていた。

 俺たちが進むと彼らは後ずさる。


「どうなんだ、グレゴワール」

「……ああ、そうのだが!? そのおっさんの言う通りなのだが!? 神の怒りなんて知るわけないのだが!?」

「「やっぱり、俺たちを騙していたんだな!」」

「「私たちはあなたのことを信じていたのに!」」

「騙される方が悪いのだが!? 俺を信じたお前たちが悪いのだが!?」


 

「街の人たちにしっかり謝罪して、金を全部返すんだ」

「俺は悪くないから、謝るわけないのだが!? 死にたくなかったら、そこをどけなんだが!?」


 突然、グレゴワールはローブから杖を取り出した。

 服の中に隠し持っていたのだろう。

 魔法を使って強行突破するつもりだ。


「抵抗なんてするなよ。ただ自分の行いを反省すればいいんだ」

「うるさいのだが!? 水の精霊よ、我に力を与えよ……我に仇なす者どもを流動なる牙と爪にて切り裂け……<アクア・アサルトウルフ>! ……を食らえ! なのだが!?」


 グレゴワールが呪文を詠唱すると、水の狼が俺たち目がけて何匹も突っ込んできた。

 素人、というわけではないようだ。


「ロジェ師匠、ここは私が……! <プラント・シールド>!」


 床から植物のツタが現れ、壁となって水の狼たちを防ぐ。

 ぐんぐん水を吸込み、瞬く間に全ての狼を消してしまった。


「そ、そんな……これは私の一番得意な魔法なのだが……?」

「グレゴワール、ちょっと痛いが耐えてくれ。<エンシェンティア・スタン>」


 魔法勝負で住民たちが危ない目に遭うと心配なので、一度気絶してもらうことにした。

 グレゴワール目掛けて、杖から電流を発する。

 逃げる彼を追い、すぐに直撃した。


「な、何をす……ぐおおおおお…………なのだが?」


 強力だが気絶する程度の電流だ。

 グレゴワールはだが言葉を残し、ばたりと倒れた。

 残りのメンバーは、あわあわと中央に集まる。

 周囲からアドームの人々が囲い出したからだ。


「まったく、人を騙してお金を取るなんてしょうもないヤツらだね」

「「あ……あ……あ……」」


 ルイーズがゴキゴキと指を鳴らすと、とりわけ屈強な住民たちが“霊視の十芒星”を取り囲む。

 グレゴワール初め、もう彼らに逃げ場などなかった。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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ロジェは様々な魔法修めてるわりに、使う魔法は古代魔法のみなの? 結局強い魔法のみで、リリアントから教わった複合魔法も、色んな強弱魔法を工夫した使い方とかはしないの?
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