第20話:このトリックは誰にもバレないのだが?(Side:グレゴワール①)
「「グレゴワール様、祈祷の準備が完了しました」」
「よし、今すぐ始めるのだが?」
メンバーを輪のように並べ、いつものように適当な祝詞を捧げる。
“霊視の十芒星”は各地を旅しては、祈祷にかこつけて金をせしめていた。
これが儲かるのだが?
疫病や飢饉に苦しんでいる村や街をみつけては、神に祈りを捧げるシャーマン団という体で乗り込む。
もっともらしい祈祷をし、謝礼を払わせ、稼ぐだけ稼いだら姿がバレぬうちに撤収する。
天才グレゴワールが考えた、リスクもないし元でも必要ない最高の生業だ。
己の頭脳に酔いしれていると、メンバーの一人がそっと話しかけてきた。
「それにしても、火山の噴火による悪天候に目をつけられたグレゴワール様は、やはり我々とは見る目が違いますね」
「私は天才なのだが?」
「ですが、アドームの人間をこのまま騙し通せるでしょうか……?」
「問題ないのだが? あいつらは農業以外は素人なのだが? 万が一にも、気づかれるはずはないのだが?」
二ヶ月ほど前、アドームの近くにある活火山“ベガダウ火山”が噴火した。
規模は大きく、空高くまで噴煙が届いた。
大量の火山灰は雲のようになり、一帯を広範囲に覆う。
結果、数か月もの曇り空となったわけだ。
農業都市ならば日光が届かず困っているだろう。
そこに、私は目をつけた。
――アドームの住民どもは農業以外の知識に疎い。
実は、私は子どもの頃アドームに住んでいたことがある。
だから、どんな街か知っていたのだ。
悪天候の原因は神の怒りと言って騙すのは簡単だった。
神の怒りだの、信仰心が足りないだのと、それらしいことを言うだけで騙せる。
どれも目に見えないが、私たちには聞こえると言えば否定しようがない。
「グレゴワール様についてきて正解でした。この先も一生ついていきます」
「私こそ、この世の真理なのだが? 私に従っていれば約束された人生が手に入るのだが?」
メンバーと笑い合っていたときだ。
「お祈り中失礼するよ~」
図太くて大きい声とともに、声と同じくらい肉体が大きい女が入ってきた。
アドームのギルドマスター、ルイーズだ。
この女は不躾な上に空気を読まないので、非常に不愉快だった。
しかも、小汚いおっさんが来たのだが?
空気が汚れるのだが?
文句を言うと、ルイーズはおっさんについて話した。
「まぁそう言わずに聞いてくれな。彼はロジェ。そこら辺の魔法使いとは比べ物にならないほどの、すごい力を持った魔法使いさ」
ルイーズが言うと、“霊視の十芒星”をどよめきが包んだ。
先ほどのメンバーが、焦り口調で私に相談する。
「グ、グレゴワール様っ! あのおっさんは魔法使いということですよっ!」
「気にする必要もないのだが? きっと、魔法が原因と思ってあれこれ調べるだけだが?」
魔法使いは魔法が使える分、先入観が凝り固まっている。
火山の噴火など気にも留めないだろう。
「し、しかし、もし火山灰などを調べられたらっ……!」
「あのおっさんにそのようなことができると思えないのだが? 見るからにくたびれた、みすぼらしいおっさんなのだが?」
「たしかに……」
仮にこのおっさんが魔法使いだろうが関係ない。
私の方が若いし、実力は上だ。
いつまでも文句を言ってくるようなら、魔法で言うことを聞かせてやる。
今はシャーマンをやっているが、私は元々優秀な魔法使いだ。
とある街の冒険者ギルドでは、Bランクまで登り詰めたほどだが?
これも全て、過去に憧れた魔法使いを目指して鍛錬を積んだ結果だ。
アドームを襲った大鷲のモンスター、<メガファルコン>を見事に追い払った魔法使いに感銘を受けてな。
密かに弟子になろうとも思っているほどだ。
ロ……なんと言ったか忘れてしまったが。
「このおっさんが魔法使いなんてとうてい思えないのだが? 夢を諦めきれない中年にしか見えないのだが?」
おっさんに身の程を弁えさせていたら、軽やかな女の声が聞こえてきた。
なんだ、まだ別の人間がいたのか。
私の計画を邪魔するヤツは……。
「ロジェ師匠を馬鹿にする者は私が許しません」
……素晴らしい美女なのだが?
眩しいほどのブロンドヘアに深い海のような碧眼。
私の人生でも初めて会うような絶世の美女だ。
このグレゴワールが優しく話しかけるも、美女はまるで笑顔を見せない。
クソが。
おまけに、おっさんが横から色々と聞いてくる。
まったく面倒なヤツだ。
「祈祷の邪魔だが? 即刻出て行かなければ、お前たちを生け贄として神に捧げるのだが?」
美女は惜しかったが、話がこじれる前に追い出すことにした。
おっさんがいるとむさ苦しいしな。
ボロが出てもつまらん。
輩たちが教会から出ると、メンバーたちもホッとした様子で祈祷を再開した。
「この調子ならもう少し稼げそうですね」
「元より、何の心配もいらないのだが?」
もちろん、この天候不良は火山灰によるものだ。
神の怒りなどではない。
そんなものあるか。
あと数週間稼いだらとんずらしてやる。
――悪天候の原因は魔法や神の怒りではなく、火山灰……。このトリックは誰にもバレないのだが?
私は天才的な発想に、心の中で勝利の笑い声を上げる。
ハハハハハッ!
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