第2話:また一緒に旅をしよう(スローライフなやつ)
「で、でも、本当にいいのか? こんなしょぼいおっさんとの二人旅なんて」
リリアントは笑ってくれたが、自分で提案しておいて不安になった。
彼女みたいな美人は、もっとイケイケの若い男と旅したいんじゃなかろうか。
「ロジェ師匠は全然しょぼくありません。ロジェ師匠だからいいんです。私にとっては……カッコいいオジサマですよ」
リリアントは顔を赤くし、照れながら告げた。
ロジェ師匠だからいい……カッコいいオジサマ……。
彼女の言葉が俺の頭を反響する。
正直に言って泣きそうになったな。
マジで。
心の中で涙を拭い、リリアントにお礼を伝える。
「ありがとう、リリアント。そんな嬉しいことを言ってくれて」
「いえいえ、私にとってロジェ師匠は誰よりも大切な人ですから。別れてからも、心の中でずっとお慕いしていました。そう、心の中で……」
「リリアント……」
本当によくできた弟子だ。
お世辞でも嬉しい……。
感慨深く思っていたら、椅子にかけた彼女の鞄からどさりと何かが落ちた。
一冊の本だ。
やたらと分厚いな。
よいしょ、と持ち上げると、リリアントの顔が一変した。
眼球が飛び出そうなほど大きく目を見開き、口を開け、化け物でも見たかのような表情だ。
そ、それほど大事な本なのか。
急いで返そうとしたら、リリアントが激しく叫んだ。
「ロジェ師匠、早く返してください! 決して中身を見ないで! 見てませんよね!? 中身! 見てませんよね!?」
「み、見てないよ! 見れるわけないでしょうが! 今返すから……うわっ!」
彼女の勢いに慌ててしまい手が滑り、本がばさりと机に落ちた。
衝撃でページが開かれる。
目を背けようとしたが、書かれている文章がうっかり目に飛び込んできた。
『ロジェ師匠、離れ離れになってからもう10年ですね。でも、私は一時も忘れたことはありません。鳥になってロジェ師匠のところに行きたいな。 リリアント』
『俺もお前のことが忘れられないよ。リリアント……愛している。お前のことを考えると、心の中でマグマがたぎるようだ。 ロジェ』
……なんだこれは。
ポエムが書かれているのだが。
文末には俺たちの名前が記されているけど、俺はこんなクサイ文章を書いた覚えはない。
ページの上には日付があった。
それに気づいた瞬間、この本の正体がわかったような気がする。
もしかして……架空の交換日記?
「あぁぁああああああ!」
「ど、どうした、リリアント!?」
リリアントは本を奪い取ると雄叫びを上げた。
そして部屋の片隅に座り込む。
こんな彼女を見たことはない。
異常事態に大慌てで駆け寄った。
リリアントはなおも叫びまくる。
「見られたぁあぁああ!」
「だ、大丈夫! 何も見てないよ! 何も見てないから! 鳥になりたいとか見てないから!」
「やっぱり見られたぁぁぁあ!」
とにかく、叫ぶリリアントを必死になだめる。
数分もすると、彼女は平常運転に戻ってくれた。
例の本を鞄にしまい、咳払いをする。
「こほんっ……申し訳ありません、少々取り乱しました」
「あ、いや……俺もすまん」
鞄の中には他にも同じような本が何冊も見えたような気がするが、きっと気のせいだ。
しかし、まさかリリアントにあんな一面が……。
「ロジェ師匠」
「あっ、はい! すみません!」
突然、リリアントに話しかけられ、背筋が伸びた。
やや緊張していたら、彼女は静かに告げる。
「さっそくですが、旅の行き先はどういたしましょうか」
「ああ、行き先かぁ……」
当てがない旅というのもおつなものだが、最終目的地くらいは決めておいた方がいいかもしれない。
いや、決めない方がいいのか?
まずいな。
冒険以外の旅行なんてしたことがないのでわからん。
引退した後はずっと引きこもってたし、森に。
「もしよろしければ、私の希望をお伝えしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ。リリアントのために行くんだから。行きたいところがあったら言ってくれ」
「でしたら……ロジェ師匠と出会ってからの道をまた一緒に旅したいです」
「……なるほど」
リリアントとの旅をもう一度か。
へぇ、いいじゃん。
普通に諸国を回るよりずっと楽しそうだ。
「どうでしょうか、ロジェ師匠」
「すごくいい旅じゃないか。たしか、俺たちが最初に会ったのはゴスラケ火山だったよな」
「はい。私はあの日を忘れたことはありません。私の命が救われた……新しい人生が始まった場所です」
彼女と話した結果、最初の目的地はリリアントを襲うバハムートを倒した火山となった。
火山までは転送魔法で行き、そこからは昔のように徒歩メインで旅する。
なんか想像しただけで楽しくなってきた。
「では、さっそく行きますか、ロジェ師匠?」
「待ってくれ。その前に……」
よっこらせ、と椅子から立ち上がり、壁際に向かう。
適当に立てかけてあった愛用の杖を取った。
久しぶりに触ったな。
埃被ってたもん。
すまん、杖。
「どうしましたか?」
「ちょっくら第二皇子と公爵令嬢を叱ってくるわ。うちの愛弟子になんてことしてくれたんだ、ってな」
師匠としてひとこと言ってやらんと。
俺が転送魔法を使おうとすると、リリアントの顔から血の気が引いた。
かと思いきや、例の本のときと同じくらい、いや、それ以上の勢いで飛びついてくる。
「おやめください! ロジェ師匠! 叱るなんてやめてくださいませ! ロジェ師匠に叱られたら、彼らは死んでしまいます!」
「ほんのちょっぴり本気を出すだけだよ」
「ロジェ師匠が本気出したら国が壊滅します! 私は大丈夫ですから! どうか、杖をお納めください!」
師匠としては釈然とせんかったが、あまりにも止められるので叱るのはやめた。
リリアントのホッとした表情が印象的だったな。
何はともあれ……。
「じゃあ、今度こそ行くか」
「はい」
リリアントも荷物を整え、俺の横に立つ。
彼女を見ると自然に笑顔になった。
「懐かしいな、この感じ。10年ぶりか」
「ロジェ師匠の転送魔法がまた体験できるなんて、私とても嬉しいです」
「それは俺のセリフだよ。まさか、またリリアントと転送魔法が使えるなんてな」
普通ならば転送なんて大掛かりな魔法には、これまた大掛かりな魔法陣が必要だ。
だが、俺は独自に開発した理論を理解したので省略できた。
呪文を唱えるだけでいいのだ。
リリアントを見る。
彼女は薄っすら笑いながら応えてくれた。
「<テレポーテーション>」
久しく唱えていなかった転送魔法を唱える。
白い光が俺たちを包んだ。
徐々にリリアントの顔が見えなくなっていく。
――彼女の心が癒やされる、スローライフな旅にしよう。
心の中で静かに決心する。
そして、俺たちは初めて出会った場所――ゴスラケ火山へと向かって行った。
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