表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/38

第19話:シャーマンと神の怒り

「謝礼って、たぶん祈祷代のことだよな? もしかして……ふっかけられているのか?」

「いや、きっと適正な価格なんだろうよ。オイラたちが知らないだけで。ただ、少し高いなぁ……と思っただけさ」


 シャーマンに限らず魔法使いの中にも、それっぽいことを言っては金をせしめるしょうもない連中がいた。

 ルイーズたちが騙されているなんて考えたくもないが……。


「ちなみに教えてほしいのだが、シャーマンたちはどれくらい神に祈りを捧げているんだ?」

「そうだねぇ……一か月半くらいは経っていると思うよ。天気が曇った一週間後に、祈祷がしたいって来たからね」

「「一か月半……」」


 祈祷について詳しくはないが、ちょっと……長すぎやしないかね。

 そもそも、アドームの住民が神の怒りを買うなんて考えにくいのだがな。

 リリアントも同じことを思ったようで、険しい表情でルイーズに聞いた。


「先ほど、この天候不良は神の怒りと言われていましたが、アドームの人達は神様に対して何か悪いことをしたのですか?」

「もちろん、何もしてないに決まっているさ。でも、専門の人が言うのなら、そうなんだろうよ。知らないうちに神様の怒りを買ってしまったのさ」

「ルイーズさん、世の中には人を騙す不届き者もいます。もし、“霊視の十芒星”という組織がそのような類の連中だったら……」

「まさか、騙すなんてありえないさ。みんな良い人たちだしね」


 ルイーズやギルドの面々はハハハ……と笑っているが、とうてい見過ごすことはできなかった。

 元々、アドームの住民は人が良いのだ。

 “来るものは拒まず”という風潮もあるし、彼らの良心に付けこまれている可能性もまた十分にあった。

 魔法もまた特別な力だが、本質は論理的だ。

 それぞれの魔法に適した魔法陣があり、理解をし、魔力を消費することでようやく発動できる。

 無詠唱魔法なんかも、結局は自分にとって不要な部分を省略しているに過ぎない。

 神の怒りと言ったって、そんなものは目に見えないし、証明しようがないのだ。

 何はともあれ、どんなヤツらか一度確かめた方がいいだろう。


「ルイーズ、俺たちを“霊視の十芒星”とやらに案内してくれないか?」

「私もどんな人が祈っているのか見たいです」

「ああ、いいよ。彼らもロジェとリリアントに会えたら嬉しいだろうさ。シャーマンの皆さんは、近くの礼拝堂で祈りを捧げているよ」


□□□


 ルイーズに案内され歩くこと五分。

 街の一角にある教会へ着いた。

 ここもまた木造建築だ。

 中からは低い祈りの声が聞こえてくる。


「お祈り中失礼するよ~」


 ルイーズが扉を開けると、一瞬で祈りは止まった。

 教会の長椅子は脇にどけられ、中央に人間が輪を描くように並んでいる。

 みな白い紋章が描かれた青色のローブに身を包み、フードを目深に被っていた。

 ざっと数えると、全部で十人。

 組織の名前通りというわけか。

 俺たちを見ると、一人の人間が進み出てきた。


「祈祷の間は邪魔しないでくれと、何度も頼んでいたはずだが?」

「すまないね。お前さんたちに紹介したい人がいてね。連れてきたのさ」


 声の調子から男だとわかる。

 おそらく、彼がリーダーだろう。

 男はチラリと俺を見るや否や、馬鹿にしたような顔になった。

 フードで隠れているものの、雰囲気で何となくわかったのだ。


「紹介したい人間とは、このくたびれたおっさんか? 私はおっさんに用はないのだが?」

「まぁそう言わずに聞いてくれな。彼はロジェ。そこら辺の魔法使いとは比べ物にならないほどの、すごい力を持った魔法使いさ」


 ルイーズがそう言うと、“霊視の十芒星”一同はざわざわとどよめいた。

 魔法使いなんて珍しくもなんともないだろうに。


「このおっさんが魔法使いなんてとうてい思えないのだが? 夢を諦めきれない中年にしか見えないのだが?」

「ロジェ師匠を馬鹿にする者は私が許しません」


 男はリリアントに気づくとフードを外した。

 縁が細い眼鏡をかけ、両の頬はこけている。

 黒い目は細長でやたらと眉間に皺が寄り、全体的に気難しそうな印象だった。

 年はたぶん、三十代前半だろうか。

 眼鏡をくいくい動かしながら、男は名乗る。


「私はグレゴワールだが? “霊視の十芒星”で団長を務めている者だが? 私は目まぐるしいほど忙しいが、お前の頼みなら聞いてやらないこともないのだが?」


 だがだが、うるせえ。

 グレゴワールは俺のことなど眼中にないように、リリアントに向かって話している。


「アドームを襲っている天候不良の原因が、神の怒りとは少々考えにくいと思います」

「我々“霊視の十芒星”は神の声を聞くことができるのだが? 神はアドームの住民たちに怒っているのだが? 信仰心の足りないこいつらの代わりに祈祷をしているのだが?」


 だがだがと言っているが、結局は中身のない内容だった。

 どれも裏付けができないような話だ。


「そもそも、この粉が何なのかわかっているのか?」

「祈祷の邪魔だが? 即刻出て行かなければ、お前たちを生け贄として神に捧げるのだが?」


 話していても埒が明かなそうだな。

 一旦ギルドに戻るか。

 ルイーズにも伝え、教会から出る。


「ありがとう、ルイーズ。もう大丈夫だ」

「次貴様らが来たら神の怒りが倍増されるのだが?」


 グレゴワールのだが言葉(今名付けた)を残し、俺たちはギルドに戻ってきた。


「とまぁ、あんな感じの人たちだよ。祈祷で忙しくて気が立っているのさ」

「俺もそう思いたいけど、まずは粉の正体をもっと詳しく調べた方がいいだろう」

「でしたら、ロジェ師匠。私が空気中に浮いている物を集めます……<ダスト・コレクト>」


 リリアントが魔法を使うと、彼女の手に空中の粉が集まっていく。

 ものの数分で灰色の球体が現れた。


「こんな感じでいかがでしょうか」

「ありがとう、十分すぎるほどだよ。<エンシェンティア・マイクロスコープ>」


 リリアントの手にある球体に杖をかざす。

 一段階二段階と拡大され、粉の正体が明らかになった。

 調べるまでは予想もしなかった物だ。


「ロジェ師匠、何かわかりましたか?」

「ああ、粉の正体がわかったよ。これは……石だな。超微細な石の粒だ」

「「石……の粒……?」」


 リリアントとルイーズにも杖で拡大した粉の状態を見せる。

 三角形に尖ったり、片や丸くなったり……色んな形をした石の粒が集まっていた。


「はぁ~、本当に石みたいだねぇ。ロジェに言われるまで想像もしなかったよ。まさか、石の粒だったなんて」

「これだけ細かい石は私も初めて見ました。帝国でも報告されていなかったと思います。どうしてこんな物が浮遊しているのでしょう?」


 リリアントの疑問には心当たりが一つあった。


「……ルイーズ、この辺りの地図はあるか?」

「はいはい、これだよ」


 ルイーズはカウンターにかけてあった地図を取ってくれた。

 ギルドの周辺にある山を探す。


「少し離れた場所に大きな山があるな。火山か?」

「それはベカダウ火山だよ。地下にはたくさんのマグマがあるみたいでね。うちの風呂はそこからひいたお湯を使っているのさ」


 やはり、火山があった。

 となれば……。


「天気が悪くなり始めた二か月前、大きな地震はなかったか?」

「地震? ……ああ、そういえばあったね。やたらと大きく揺れたからよく覚えているよ」

「ふむ……」


 俺の予想は的中したってことか。


「どうして、そんなことを聞くんだい?」

「ルイーズ、この天候不良や粉の浮遊は神の怒りでも何でもない。ただ単に、火山灰によるものだよ」


 グレゴワールたちは、自然現象を利用してアドームの住民を騙していたのだ。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。

★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!

ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ