第19話:シャーマンと神の怒り
「謝礼って、たぶん祈祷代のことだよな? もしかして……ふっかけられているのか?」
「いや、きっと適正な価格なんだろうよ。オイラたちが知らないだけで。ただ、少し高いなぁ……と思っただけさ」
シャーマンに限らず魔法使いの中にも、それっぽいことを言っては金をせしめるしょうもない連中がいた。
ルイーズたちが騙されているなんて考えたくもないが……。
「ちなみに教えてほしいのだが、シャーマンたちはどれくらい神に祈りを捧げているんだ?」
「そうだねぇ……一か月半くらいは経っていると思うよ。天気が曇った一週間後に、祈祷がしたいって来たからね」
「「一か月半……」」
祈祷について詳しくはないが、ちょっと……長すぎやしないかね。
そもそも、アドームの住民が神の怒りを買うなんて考えにくいのだがな。
リリアントも同じことを思ったようで、険しい表情でルイーズに聞いた。
「先ほど、この天候不良は神の怒りと言われていましたが、アドームの人達は神様に対して何か悪いことをしたのですか?」
「もちろん、何もしてないに決まっているさ。でも、専門の人が言うのなら、そうなんだろうよ。知らないうちに神様の怒りを買ってしまったのさ」
「ルイーズさん、世の中には人を騙す不届き者もいます。もし、“霊視の十芒星”という組織がそのような類の連中だったら……」
「まさか、騙すなんてありえないさ。みんな良い人たちだしね」
ルイーズやギルドの面々はハハハ……と笑っているが、とうてい見過ごすことはできなかった。
元々、アドームの住民は人が良いのだ。
“来るものは拒まず”という風潮もあるし、彼らの良心に付けこまれている可能性もまた十分にあった。
魔法もまた特別な力だが、本質は論理的だ。
それぞれの魔法に適した魔法陣があり、理解をし、魔力を消費することでようやく発動できる。
無詠唱魔法なんかも、結局は自分にとって不要な部分を省略しているに過ぎない。
神の怒りと言ったって、そんなものは目に見えないし、証明しようがないのだ。
何はともあれ、どんなヤツらか一度確かめた方がいいだろう。
「ルイーズ、俺たちを“霊視の十芒星”とやらに案内してくれないか?」
「私もどんな人が祈っているのか見たいです」
「ああ、いいよ。彼らもロジェとリリアントに会えたら嬉しいだろうさ。シャーマンの皆さんは、近くの礼拝堂で祈りを捧げているよ」
□□□
ルイーズに案内され歩くこと五分。
街の一角にある教会へ着いた。
ここもまた木造建築だ。
中からは低い祈りの声が聞こえてくる。
「お祈り中失礼するよ~」
ルイーズが扉を開けると、一瞬で祈りは止まった。
教会の長椅子は脇にどけられ、中央に人間が輪を描くように並んでいる。
みな白い紋章が描かれた青色のローブに身を包み、フードを目深に被っていた。
ざっと数えると、全部で十人。
組織の名前通りというわけか。
俺たちを見ると、一人の人間が進み出てきた。
「祈祷の間は邪魔しないでくれと、何度も頼んでいたはずだが?」
「すまないね。お前さんたちに紹介したい人がいてね。連れてきたのさ」
声の調子から男だとわかる。
おそらく、彼がリーダーだろう。
男はチラリと俺を見るや否や、馬鹿にしたような顔になった。
フードで隠れているものの、雰囲気で何となくわかったのだ。
「紹介したい人間とは、このくたびれたおっさんか? 私はおっさんに用はないのだが?」
「まぁそう言わずに聞いてくれな。彼はロジェ。そこら辺の魔法使いとは比べ物にならないほどの、すごい力を持った魔法使いさ」
ルイーズがそう言うと、“霊視の十芒星”一同はざわざわとどよめいた。
魔法使いなんて珍しくもなんともないだろうに。
「このおっさんが魔法使いなんてとうてい思えないのだが? 夢を諦めきれない中年にしか見えないのだが?」
「ロジェ師匠を馬鹿にする者は私が許しません」
男はリリアントに気づくとフードを外した。
縁が細い眼鏡をかけ、両の頬はこけている。
黒い目は細長でやたらと眉間に皺が寄り、全体的に気難しそうな印象だった。
年はたぶん、三十代前半だろうか。
眼鏡をくいくい動かしながら、男は名乗る。
「私はグレゴワールだが? “霊視の十芒星”で団長を務めている者だが? 私は目まぐるしいほど忙しいが、お前の頼みなら聞いてやらないこともないのだが?」
だがだが、うるせえ。
グレゴワールは俺のことなど眼中にないように、リリアントに向かって話している。
「アドームを襲っている天候不良の原因が、神の怒りとは少々考えにくいと思います」
「我々“霊視の十芒星”は神の声を聞くことができるのだが? 神はアドームの住民たちに怒っているのだが? 信仰心の足りないこいつらの代わりに祈祷をしているのだが?」
だがだがと言っているが、結局は中身のない内容だった。
どれも裏付けができないような話だ。
「そもそも、この粉が何なのかわかっているのか?」
「祈祷の邪魔だが? 即刻出て行かなければ、お前たちを生け贄として神に捧げるのだが?」
話していても埒が明かなそうだな。
一旦ギルドに戻るか。
ルイーズにも伝え、教会から出る。
「ありがとう、ルイーズ。もう大丈夫だ」
「次貴様らが来たら神の怒りが倍増されるのだが?」
グレゴワールのだが言葉(今名付けた)を残し、俺たちはギルドに戻ってきた。
「とまぁ、あんな感じの人たちだよ。祈祷で忙しくて気が立っているのさ」
「俺もそう思いたいけど、まずは粉の正体をもっと詳しく調べた方がいいだろう」
「でしたら、ロジェ師匠。私が空気中に浮いている物を集めます……<ダスト・コレクト>」
リリアントが魔法を使うと、彼女の手に空中の粉が集まっていく。
ものの数分で灰色の球体が現れた。
「こんな感じでいかがでしょうか」
「ありがとう、十分すぎるほどだよ。<エンシェンティア・マイクロスコープ>」
リリアントの手にある球体に杖をかざす。
一段階二段階と拡大され、粉の正体が明らかになった。
調べるまでは予想もしなかった物だ。
「ロジェ師匠、何かわかりましたか?」
「ああ、粉の正体がわかったよ。これは……石だな。超微細な石の粒だ」
「「石……の粒……?」」
リリアントとルイーズにも杖で拡大した粉の状態を見せる。
三角形に尖ったり、片や丸くなったり……色んな形をした石の粒が集まっていた。
「はぁ~、本当に石みたいだねぇ。ロジェに言われるまで想像もしなかったよ。まさか、石の粒だったなんて」
「これだけ細かい石は私も初めて見ました。帝国でも報告されていなかったと思います。どうしてこんな物が浮遊しているのでしょう?」
リリアントの疑問には心当たりが一つあった。
「……ルイーズ、この辺りの地図はあるか?」
「はいはい、これだよ」
ルイーズはカウンターにかけてあった地図を取ってくれた。
ギルドの周辺にある山を探す。
「少し離れた場所に大きな山があるな。火山か?」
「それはベカダウ火山だよ。地下にはたくさんのマグマがあるみたいでね。うちの風呂はそこからひいたお湯を使っているのさ」
やはり、火山があった。
となれば……。
「天気が悪くなり始めた二か月前、大きな地震はなかったか?」
「地震? ……ああ、そういえばあったね。やたらと大きく揺れたからよく覚えているよ」
「ふむ……」
俺の予想は的中したってことか。
「どうして、そんなことを聞くんだい?」
「ルイーズ、この天候不良や粉の浮遊は神の怒りでも何でもない。ただ単に、火山灰によるものだよ」
グレゴワールたちは、自然現象を利用してアドームの住民を騙していたのだ。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!