第14話:取り繕い(Side:トラッシュ②)
「だから、君のせいでペルヴィス大臣は怪我したんだ!」
「トラッシュ様だって、とっさに庇おうとしなかったではありませんか!」
俺たちは毎日のように喧嘩をする日々を送っている。
格納庫での事故から十数日経ったが、ペルヴィスから連絡はない。
謝罪するとこちらが完全に悪者になってしまう気がして、手紙などを送ることもなかった。
互いに責任を擦り付ける毎日だ。
「国防魔道具くらいきちんと扱え! お前は筆頭宮廷魔導師だろうが!」
「トラッシュ様が代わりに突き飛ばされれば良かったんです!」
「いい加減にしろ! 元はと言えば……」
……いや、待て。
一旦落ち着け、トラッシュ。
イザベルはリリアントの追放を知っている。
こいつが裏切って俺を売ったら大変だ。
だとすると、機嫌を損ねないよう立ち回った方が良いな。
「ごほんっ。さあ、イザベル。喧嘩はやめて、今日は庭園の散歩に行こう」
「散歩……でございますか」
「僕の私用の庭さ。二人だけの秘密の花園で愛を深めよう」
とっておきのスマイルでイザベルを見つめる。
こんな女を落とすなど造作もない。
「そういうことなら……ぜひお供させてもらいますわ、トラッシュ様」
いいぞ。
イザベルの手を取り立ち上がる。
これから向かう花園は侍女との密会にも使った場所だが、こいつが知る由もない。
いちいち場所を探すのは面倒なのだ。
やれやれ、婚約者のご機嫌取りも大変だな。
そう思いながら扉を開けたときだ。
使用人が慌ただしく走り回っているのに気が付いた。
「おい、騒がしいぞ。静かにしろ。埃がたつだろうが」
「「も、申し訳ございません、トラッシュ様。ですが、シアリアス様がお帰りになられたのです」」
「なん……だと……?」
その言葉に心臓が冷たく脈打つ。
シアリアス・カイザラード。
この国の第一皇子だ。
非情に厳格かつ公正な人物で、俺とは正反対の真面目な性格。
実の兄弟なのに、昔から苦手だった。
使用人の一人を捕まえて問いただす。
「まだ外遊の日程だろうが。どうして兄貴……兄さんが帰ってくるんだ」
「予定より早く終わったようです。申し訳ございません、トラッシュ様。お出迎えの準備がありますので、失礼いたします」
帝位継承権は兄貴の方が上なので、使用人たちもあいつを優先しやがる。
チッ、まずいぞ。
兄貴が国にあまりいないから、俺は宮廷魔導師を管理する立場となり自由に行動できていたのに。
真面目なあいつが帰ってきたら面倒だ。
リリアントの追放は隠し通さなければ。
考えていると、イザベルがさりげなく抱き着いてきた。
「トラッシュ様、あたくしたちもお出迎えに行かなくてよろしいのですか?」
「あ、ああ、そうだったな。大広間に行こう」
とりあえず、俺たちも兄貴を出迎える。
怪しまれるようなことは避けるべきだ。
大広間には宮廷魔導師の面々も勢ぞろいしていた。
ケッ、ご苦労なこったな。
待つこと数分、あいつがやってきた。
「「お帰りなさいませ、シアリアス様!」」
「うむ、出迎えご苦労」
兄貴は護衛を引き連れ、悠々と歩いてくる。
カイザラード家特有の銀髪は長く垂らし、緋色の目はルビーのような煌めきを誇っていた。
こいつさえいなければ、俺が国一番の美男子だったのによ。
「トラッシュ。何も問題を起こしてないだろうな?」
「え、ええ、何も……」
魔法の火遊びで火事未遂を起こして以来、兄貴は必ずこの質問をしてくる。
その度に俺はストレスを感じていた。
「国防大臣。我が国の平和に異常はないか?」
「はっ! 問題ありません! 国防魔道具も……また問題ありません!」
大臣にはリリアントの件を言ったらクビにすると脅してある。
これでしばらくは誤魔化せるだろう。
「……リリアント嬢はどこにいる?」
クソが。
気づきやがった。
追放したなどといったら、何を言われるかわかったもんじゃない。
だが、問題ない。
きちんと理由は用意してある。
「彼女は宮廷魔導師を辞職いたしました」
「……なに? 辞職だと?」
「はい。病気が見つかってしまったようです」
これだ。
リリアントは病気により辞職。
ちっともおかしくない。
兄貴も考え込むような仕草だ。
「病気か……心配だな」
「ええ、リリアント嬢は国のため必死に働いていましたから、きっと疲れが溜まっていたのでしょう。私も休むように何度も言ったのですが……これからは田舎で静かに過ごすと言っていました」
「見舞いの品をいくらか送ってやれ」
「承知しました」
俺は昔から嘘が得意だからな。
今回も騙し通してやるぞ。
「今後、国防魔道具の筆頭管理者は誰が行うのだ?」
「こちらにいる私の婚約者、イザベル嬢です。」
「そうか。君も宮廷魔導師の一人だったな。これからも精進を重ね、国のために働いてくれ」
イザベルは静々と礼をする。
そういえば、ペルヴィスの一件が過ぎても、こいつが国防魔道具を触っているところを見たことないな。
……本当に大丈夫か?
「私はすぐにまた外遊へ出なければならないが、国防魔道具の管理はきちんと行うように。繊細なメンテナンスが必要だ。些細な調整ミスで暴走してしまうことは、君たちもよく知っているだろう」
「「はい、わかっております」」
「特にゴーレムは魔力波を飛ばし、遠方のゴーレムを起動させる機能がある。有事の際、迅速な行動をするためだ。扱いには十分気をつけなさい。国境の<スーパーラージ>が暴れでもしたら手がつけられない」
少し話すと兄貴はすぐに王宮から出て、馬車に乗り込み去っていく。
やはり忙しいのだろう。
逆に好都合だ。
あんたがいない間、自由にやらせてもらうよ。
兄貴が去るや否や、宮廷魔導師のヤツらが俺とイザベルの周りに集まってくる。
「「トラッシュ様、イザベル様。さっそくですが、国防魔道具のメンテナンスをお願いいたします。最後は筆頭宮廷魔導師の方に魔法陣を調整いただく決まりでして……」」
「はいはい、わかってるよ。ほら、行くぞ、イザベル」
「言われなくても承知しておりますわ」
「「ゴーレムの他に、地対空大砲の方もお願いします」」
イザベルと一緒に王都の格納庫を巡る。
見栄っ張りな婚約者が各種魔法陣を調整するのを見届けると、ようやく今日の仕事が終わった。
ふと思う。
結局、リリアントの追放もペルヴィスの一件も隠したままだったな……。
だが、何も問題ないだろ。
国防魔道具の暴走なんて、カイザラード帝国始まって以来一度も起きていない。
つまり、今後も起きることは絶対にありえないというわけだ。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!