第12話:村と異変
「リリアントは俺と別れた後、どんな日々を送っていたんだ?」
「はい、まずはカイザラ-ド帝国の冒険者ギルドで研鑽を積みSランク冒険者となりました。その後は帝国の魔導師団の試験を受け、運よく宮廷魔導師にまでなった……という形です」
「ふむ……すげえ」
パリムスの街を出た後、俺たちは次の目的地――ワコノ村へと向かっていた。
温かい湯が豊富な村で、疲れた身体を癒してもらった記憶がある。
転送魔法を使えば一瞬で街から街へと移動できるが、そんな物を旅行とは言わない。
昔と同じように、徒歩でのんびりと移動することにしていた。
元々スローライフの予定だしな。
歩きながら、リリアントの人生を聞いていた。
やはり、彼女は大変優秀な日々を送ってきたらしい。
各地を放浪していた俺とは偉い違いだ。
「カイザラード帝国では軍備拡張の背景もあり、複数属性の魔力を混ぜる魔法論理を開発しました」
「へぇ~、複数の属性をね。一昔前とは考え方がだいぶ違うんだな」
「ええ、以前は魔力の消費量が激しいということで嫌厭されていましたが、より威力の強さを求める傾向に変わりつつあります。“複属魔法”と呼ばれています」
最近の魔法事情についても、リリアントから話を聞いていた。
俺が旅していたときと、だいぶ流行というか魔法に対する考え方が変わっているようだ。
まぁ、そりゃそうか。
いつまでも変わらない物なんてないからな。
ついでに、新しい魔法論理を教えてもらってもいた。
今までの知識と組み合わせて、頭の中で魔法陣を組み立てる。
なんか……いけそうな気がするぞ。
「火と雷属性の魔力は……こんな具合でいいのかな? <ファイアー・サンダー・ボール>っと」
虚空に向けて発動させる。
バチバチと雷がまとわりついた拳大の火球が現れた。
なるほど、こんな感じか。
新しい発見をした気分で感心しながら眺めていると、リリアントが呆れた様子で呟いた。
「帝国の宮廷魔導師でも、そのレベルの魔法は習得に数か月は要するのですが……」
「そうなのか? すぐできちゃったな」
「彼らが聞いたら心が折れますよ。まったく、ロジェ師匠の才能には呆れてしまいます」
「もっと教えてくれ、リリアント」
話していると、魔法に対する探究心というか好奇心がぶり返してきた。
やっぱり、元々魔法が好きなんだろうな、俺は。
何となくその場の雰囲気に押されて引退してしまったが、ちょっと早すぎたかもしれん。
もっと早く賢者を再開すればよかった。
“複属魔法”をしばらく堪能していると森が見えてきた。
“レードウの森”だ。
木の実や果物が豊富で、村人たちの大事な食糧源だった。
「ここを通過するとワコノ村だな。この辺りで一度休憩するか」
「ロジェ師匠、ついでに食事もしますか?」
「いいね」
道端に生えている木の影に座る。
いやぁ、結構歩いたな。
運動不足をしみじみと実感する。
「今、お弁当を出しますね」
「えっ、ベ、弁当?」
「はい。ギルドの厨房を借りて作ったきたんです。<スペース・ストレイジ>」
座るや否や、リリアントが時空間魔法で空中から色んな物を取り出す。
さらりとSランクの魔法を使うのは、さすがの(元)宮廷魔導師だ。
シーツやら食器やらが出され、瞬く間に即席の華やかな食堂が作られてしまった。
俺一人だったら、めっちゃ地味な絵面になっていただろう。
「リリアントは相変わらず準備がいいなぁ」
「ええ、いつロジェ師匠と食事をすることになるかわかりませんから。日頃からあらゆる装備を整えています」
「な、なるほど……」
リリアントはさらりと言うが、あまり深くは聞かないことにした。
そのまま、彼女は時空間からパンを取り出す。
「こちらがギルドで焼いてきたパンです。どうぞ、ロジェ師匠」
「おぉ、おいしそうじゃないか。ありが……! とう、リリアント……」
「特製ロジェパンという名前をつけました」
突き出されたのは、丸くて平べったいパン。
至って普通のパンだ。
普通も普通。
たぶんチョコレートで俺の顔が描かれている以外は。
もちろん、慕ってくれるのは嬉しいけど……。
「リ、リリアント……これは? ずいぶんと再現性が高いのだが」
「ここ最近の自信作です。ロジェ師匠の顔は脳裏に焼き付いていますので、目をつぶってでも描けますよ」
「へ、へぇ……」
リリアントはこれ以上ないほど、自信満々にどどんっ! と胸を張っている。
無論、師匠たるもの彼女の気持ちをないがしろにすることはできない。
ロジェパンを持ち、思い切って齧ってみた。
食べた瞬間、リリアントが凄まじい勢いで迫りくる。
「どうですか、ロジェ師匠! ロジェパンの味は! おいしいですか!?」
「め、めちゃくちゃうまいよ。こんなうまいパンは食べたことがない。リリアントは昔から料理がうまかったからなぁ」
「ありがとうございます! 頑張って作った甲斐がありました! では、私も一口……くぅぅ、ロジェ師匠の味がします!」
リリアントは満足気にうなずく。
それはパンの味だと思うが……。
たしかにロジェパンはうまい。
しかしだな、おいしいのだけど、共食いしている気分だ。
当事者からすると。
何はともあれ、なんかピクニックみたいで普通に楽しい。
食事もそこそこに、俺たちは森へ入る。
「また知り合いに再会できたらいいのだが……クラウスとアンナは元気かな」
「ああ、懐かしいですねぇ」
ワコノ村に宿屋はなく、村人の空き部屋に泊まる形式だった。
当時お世話になったのがクラウス夫妻だ。
田舎っぽい口調が特徴的な二人は、温かく快活に迎えてくれたな。
「俺たちのこと覚えているだろうか……いや、さすがにもう忘れてるかな」
「みなさん、覚えていると思いますよ。ロジェ師匠の存在感は抜群ですから」
悪い意味じゃないよな……? と、己の立ち居振る舞いを思い出しながら森を進む。
木々にすら懐かしさを感じるのだが、よく見ると様子がおかしい。
葉っぱや幹は黒ずんだり、ひび割れていた。
街道に沿った木々の異変は一部だけだったが、森の奥へ行くに連れて枯れ木が目立つ。
ほとんどがひび割れ、朽ち果てていた。
リリアントもおかしいと気づいたようだ。
「何かの病気でしょうか。このような森は私も初めて見ました」
「ワコノ村が心配になるな。村に急ごう」
森を抜けると村が見えた。
だが、俺たちは安堵する間もなく走る。
これは……かなりまずい。
「急いで結界を展開しろ! これ以上被害を広げるな! 魔道具の配置は終わったのか!?」
「八割方完了しました! ですが、村人たちは本当に見捨てるのですか!?」
「やむを得ん! こんな呪いは私も見たことがない! 犠牲者の数を最小限に抑えることを最優先にしろ!」
村全体は黒いもやで覆われ、周囲をたくさんの医術師が走り回っていた。
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