第10話:宴と朗読と昔話
「では、ロジェさんとリリアントさんに……乾杯!」
「「乾杯!」」
サラさんの声に合わせ、盃がぶつかる軽やかな音が響いた。
ここはギルドのロビー。
ラウドボイ君の一件が解決した後、皆さんが宴を開いてくれた。
感謝の印ということだ。
しなくていいと遠慮したのだがな。
宴が始まるや否や、若手の冒険者たちが勢い良く集まってきた。
「ロジェさん! 今だから言いますけど、ラウドボイに負けると思ってました! だって、おっさんなんですもん! でも、あなたはすごいおっさんだったんですね! 馬鹿に思ってすみませんでした!」
「正直こんなおっさんに何ができるんだと思ってたんですけど、間違っていたのは俺でした! あの瞬間の自分をぶん殴りたいです!」
「しょぼい初心者おっさんが来たなと思ってましたがビックリしました! ケイブドラゴンを一撃なんて、誰にでもできる芸当じゃないですよね! 私もロジェさんみたいな冒険者を目指します!」
みんな……結構正直だな。
いや、正直なのはいいことだ。
リリアントは怒りのオーラが醸し出されては消えていた。
きっと、彼らのセリフの後半は反省しているからだろう。
人混みをかき分け、サラさんが盃片手に歩いてきた。
「ロジェさん、本当にお疲れ様でした。ケイブドラゴンという難敵を討伐いただき、改めてお礼申し上げます」
「いえいえ、そんな褒めていただくようなことじゃないですよ。ただ魔法を使っただけなんですから」
「サラさんにもロジェ師匠の魔法を見せてあげたかったです」
ギルドにも相談した結果、ケイブドラゴンの胸部分はいただけることになった。
<エンシェンティア・レーザー>で貫いた部分だ。
これから少しずつ古代魔法の研究も進めよう。
ずっとサボっちゃってたからな。
リリアントもいることだし、倍速で謎が解かされていくと思う。
また世のため人のために還元されたらいいな。
俺がサラさんと話している間も、リリアントはすいすいと酒を飲んでいた。
顔も赤くなっていないし、酔っている素振りだって少しもない。
「リリアントって酒強いんだな」
「まだまだ飲めますよ。なかなか美味しいお酒が揃っていますね」
彼女と別れたときはまだ子どもだったから、酒なんて飲まなかった。
まさか、一緒に酒が飲める日が来るとは……。
しみじみと心の中で泣いていたら、突然リリアントが勢いよく立ち上がった。
「では! 詩の朗読を行います!」
すご、詩の朗読か。
俺にはとうてい不可能な芸当だ。
リリアントはなんでもできるんだな。
弟子の更なる成長を見たようで、さらに嬉しくなった。
「みんな、リリアントさんが詩を読んでくれるってよ! 聞こうぜ!」
「魔法使いの詩なんてなかなか聞けないぞ! これは聞かなきゃ損だ!」
「リリアントさん、いいぞー! 一発いい詩を頼むー!」
ギルドの面々は、わくわくしながら俺たちの周りに集まる。
彼女は鞄から、一冊の本を取り出した。
へぇ、やけに分厚いな。
たくさん書き溜めてあるのだろう……いや、ちょっと待て。
その本には見覚えがあった。
最初に出会ったとき、床に落ちた本だ。
気づいた瞬間、全てを理解した。
まさか、詩の朗読って……!
「〔ああ、ロジェ師匠。あなたに会えない日々は闇の世界にいるようです。私は……私はどうなってしまうのでしょう……〕〔……大丈夫。俺がお前の太陽になってやる。リリアント、お前をずっと照らし続けるよ。すぐ隣で……〕」
「「おおお~!」」
リリアントは声音を変えながら、さらさらと詩を朗読する。
あのクサイ文章を。
俺のときは低い声で、彼女のときは高い声で……朗読の技術自体は本当に素晴らしい。
技術自体は。
あれは交換日記(架空の)でもあり、詩でもあったんだな。
実際のところ、リリアントは酒に弱いんだろう。
顔に出ないだけで。
「〔ロジェ師匠は私の夢……〕〔俺が現実にしてやるさ〕」
「「なんて素晴らしい詩だ!」」
みんな酔っているのか、リリアントが朗読するたび盛大な拍手で応えていた。
それがせめてもの慰めだ。
明日には何も覚えていないことを願う。
リリアントの輝かしい様子を見ていたら、またもや別の可能性に気がついた。
まさか、カイザラード帝国でも朗読してたんじゃ……いや、考えるのはよそう。
予想しても意味がない。
……別にギャグのつもりで言ったわけじゃないぞ。
リリアントの恥ずかしい朗読も終わり、宴は終了となった。
「ロジェさん、リリアントさん。今日はギルドに泊まってください。空き部屋はありますので」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「どうぞどうぞ」
サラさんに案内され、俺たちはギルドの二階に行く。
ここは宿でもあるんだよな。
この辺りは今も変わっていないようだ。
角部屋まで連れられて行くと、サラさんは止まった。
「さあ、着きましたよ。こちらに泊まってください」
ガチャリと中に入ると、まあまあ広い部屋だ。
いいね。
ただベッドが一つしかないことを除けば……。
「あ、あの~サラさん? ベッドが一つしかないような……」
「ご心配なく、私とロジェ師匠は毎日一緒に寝ていましたから」
「そ、そういうことじゃないからね」
こんなうら若き(しかも美人)と同じ部屋なんて、さすがにヤバいでしょう。
社会的に。
「お生憎ですがここしか空いておりませんので、ぐふぐふぐふ……」
「それならば仕方ありませんね。そもそも、師弟関係なのですから、同じベッドで寝ても問題ありません」
結局、サラさんはぐふぐふ笑いながら去ってしまった。
引きずり込むように、リリアントが俺の腕を掴んで部屋に入れる。
お、俺はどうなってしまうのだ。
リリアントはベッドに俺を連れ込むと、告げた。
「ロジェ師匠、昔話をしてください」
「え? む、昔話?」
「はい。旅していたときと同じように。大錬金術師、アキラの話がいいです」
そういえば、彼女が幼いときはほぼ毎日寝つくまで昔話をしていたっけ。
ほとんどが伝説として知られる大錬金術師の話だった。
リリアントのつぶらな瞳を見ていると、俺もあの日々が蘇った。
草原で一緒に寝ている気分で言葉を紡ぐ。
「それは今から三百年前のことでした。混迷を極める世界に一人の錬金術師が現れ……」
旅していた頃を思い出すのはいいものだ。
懐かしさと温かさを感じながら、俺は静かに昔話をしていた。
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