第1話:予期せぬ形での再会
「ロジェ師匠……私、追放されてしまいました」
そんな一言から、10年ぶりの再会は始まった。
目の前にいる女性は俯いている。
煌びやかなブロンズ髪から覗くのは、深い海のような碧眼、触ると壊れてしまいそうな儚げな雰囲気。
それでいて、芯の力強さを感じる。
端的にいうと非常に美しい女性だ。
普通に生きていれば、俺みたいなしょぼいおっさんが話せるようなタイプではない。
だが、歴とした知り合いだった。
彼女の名はリリアント。
他でもない、俺の……愛弟子だ。
◆◆◆
リリアントと出会ったのは、今から20年前。
俺が20歳で彼女が5歳のときだ。
巨大なバハムートに襲われているところを救った。
「い、今のは……なんですか……? 空からたくさんの隕石が降ってきましたが……? 怖いドラゴンがあっという間に気絶してしまいました」
「ん? ただの魔法だよ。Sランク魔法の<メテオシューター>さ」
天涯孤独だった俺は、生きるため必死に努力を積んだ。
結果、習得したのは全属性の魔法。
その甲斐あってか、青臭いガキにもかかわらず賢者と呼んでくれる人までいた。
「あ、あの……! 私にも魔法を教えてください……!」
リリアントも俺と同じ孤児と聞いて、彼女を見捨てることはできなかった。
――この先一人でも生きていけるよう、この子に魔法を教えよう。
たしか、そんな思いがきっかけだったと思う。
俺たちが出会ってから10年後。
リリアントは立派な魔法使いに成長した。
呼び捨てでいいと言っていたのに、ずっとロジェ師匠と呼んでくれたな。
「人々の役に立つことで……師匠に恩返ししたいんです……!」
リリアントが涙ながらに告げた言葉を、俺は今でも覚えている。
その日、俺たちは別れた。
後に、風の噂でリリアントは巨大な帝国、カイザラ-ド帝国の宮廷魔導師になったと聞いた。
自分事のように嬉しかったなぁ。
彼女と別れた後も、俺はしばらく冒険者の活動を続けた。
ここドルガ王国で封印された遺跡の調査を手伝い、遺物として保管されていた“古代の魔導書”の解読にも成功。
世界で初めて古代魔法を習得した。
魔族の群れを撃退し、名実ともに賢者となれた。
その後は国の平和とともに円満なお役ご免となり、年齢もあったし引退。
俺も表舞台に立つような性格じゃないしな。
まぁ、今では俺のことなど誰も覚えていないだろう。
現在はカイザラ-ド帝国の隣にある小さな国、ドルガ王国の辺境にある森で細々と暮らしている……。
◆◆◆
彼女の声を聞いただけで、懐かしい思い出が怒涛の如く押し寄せた。
だが、次の瞬間には現実に戻る。
聞き捨てならないセリフを言われたからだ。
「追放ってどういうことだよ。リリアントは宮廷魔導師じゃないのか? カイザラ-ド帝国の宮廷魔導師と言ったら、めちゃくちゃ大事なポジションだよな。国防魔道具を管理してるんじゃなかったっけ?」
「ええ、そうなのですが……もう用済みだから出ていけと、トラッシュ第二皇子に言われてしまいました」
「用済み!? リリアントを!?」
「……はい」
マジか。
リリアントは俺なんかが霞むくらい優秀なんだが。
そんな彼女を追放するなんて、カイザラ-ド帝国にいったい何があったんだ。
「ち、ちなみにだけど、宮廷魔導師は?」
「クビにされました」
……マジか。
追放にクビ。
俺が彼女だったら心がへし折れただろうな。
ゴクリと唾を飲み、彼女に尋ねる。
「い、いったい、どうしてそんなことになってしまったんだ?」
「わかりません……」
「……え?」
リリアントはわからないと言った……のだが、追放理由がわからない、なんてことあるのだろうか。
正当な理由もなく、いきなり追放されるの?
そんなの理不尽の塊みたいじゃないか。
「いや……心当たりはあります。私がトラッシュ皇子の浮気現場を見てしまったからです」
「な、なに?」
なんで第二皇子? の浮気なんかが、リリアントの追放に関係あるのだ。
う~んと唸っていたら、リリアントは詳細を話してくれた。
帝国のトラッシュ第二皇子は、公爵令嬢の娘Aと婚約していた。
だが、皇子は浮気しており、リリアントがその現場を見る。
結果、口封じのため追放、さらには解雇を宣告。
娘Aもまた宮廷魔導師であり、リリアントが邪魔だったらしい。
私の追放は、きっと娘Aのご機嫌取りも兼ねていたのでしょう……ということだった。
……なんだそれは。
そんな私的な理由で追放しちゃうのか?
「リ、リリアントがいなくなった後は、誰が国防魔道具の管理をするんだ?」
「一応、その公爵令嬢が担当するようです」
「ふーん。リリアントを追い出すくらいだから、その人はすごく優秀なんだろうな」
「いえ……それが……」
突然、リリアントは言い淀む。
な、なんだ?
次は何を言われるのだろうと、緊張して言葉を待つ。
「国防魔道具を触ったことすらないのです」
俺はもう驚かなくなってしまった。
触ったことすらない……のに、いったいどうやって管理するんだ。
国の大事な防衛設備を。
「……もう一度聞くが、カイザラ-ド帝国はなぜリリアントを追放したんだろうか」
「わからないんです……明確な理由があれば私も納得できますが、そうでもなくて……。それがまた……悔しくて悲しい気持ちになります」
リリアントの頬を一滴の涙が伝う。
辛い目に遭った彼女を見て、俺も心が激しく痛んだ。
もしかして……。
――最近の国ってこうなのか?
俺は世間から隔絶されて久しい。
知らないうちに国家形態に異変が起きていたのかも。
いや、そんなことはどうでもいいのだ。
このままリリアントを放っておけるわけがない。
何年経っても、彼女は俺の大事な弟子なのだ。
弟子が辛い目に遭っているのなら、師匠が解決するべきだ。
なんとかしてあげたい。
そう思ったとき、自然と言葉が口から出た。
「また昔みたいに……一緒に旅でもするか?」
ともに冒険しているとき、リリアントはよく笑っていた。
だから、また一緒に旅すれば元気が出るのかな、と思ったのだ。
しかし、俺が告げたあと、部屋は静かになった……マジで。
リリアントはポカンと俺の顔を見ている。
しまった!
つい何の気なしに告げたが、出過ぎたことを言っちゃった。
こんなくたびれた雑巾のおっさんと二人旅なんて何を考えている。
ちなみに、俺は今40歳だから、彼女は25歳。
……ヤバいだろ。
普通に考えて。
とんでもない大失言に冷や汗をかく。
遅すぎる後悔だ。
彼女は何も言わない。
責任を取り灰になって消えるか……と思った、その時。
「……はい、ぜひ……私もロジェ師匠ともう一度旅がしたいです。あの……輝かしい日々をもう一度……」
リリアントは涙ながらにうなずいた。
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