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 F工場の入口の外に敗者の死体が積みあがる。ぽん太は、十七時間、鎖帷子を編み続けた後、別の仕事を割り当てられた。毎日、何千・何万と大量の敗者の死体が収容所内で出るため、それらをゴミ収集車に乗って回収し、火力発電所に行き火葬すること。収容所の外から見た空に昇っていく煙の数々は、火力発電所の燃料にされる敗者の死体を燃やす煙だった。燃やして流れだしてきた敗者の体からの脂肪も二次利用される。百円ライターに入っていた油は、敗者から搾り取ったものだった。ぽん太は、ゴミ収集車がF工場にやってくる時間には、外で待機し、積み上げられた敗者の死体を二人一組で収集車の荷台に持ち上げ、一日に出たF工場の死体を全部積み上げた後、一緒に収集車に乗せられ、火力発電所―火葬場へと移動した。


 火力発電所は、工場地区に五つあった。その五つで収容所全体の工場の電力をまかなっていた。ぽん太を乗せた収集車は、F・H・K・Q・Y工場の電力を担う火力発電所の前で止まった。発電所自体は、巨大な溶鉱炉のようなものだったが、敗者を焼くためにぽん太が通された焼却炉は、発電所内の近代設備と呼ぶには程遠い蒸気機関車の石炭を燃やす燃焼室のようなしろものだった。その燃焼室内のすすけた焦げた鉄の焼却炉があるので、その鉄の扉の中に、次々と敗者の死体を投げ込むのがぽん太の二つ目の仕事だった。収集車の荷台がその焼却炉の前で荷台を持ち上げ、敗者の死体を落としていった。ぽん太は、山と積まれた敗者の死体を見て・・・・頭を抱えた。そこには、悲しみや怒りといった感情も混ざっていたが・・・・それ以上に、これだけの敗者を燃やさなければいけないという重労働が、緊張に張り詰め続けた十七時間も鎖帷子を縫っていた体と心に重たく圧し掛かった。感情を失いかけているぽん太。冥王星から来た収容歴の長い敗者のオッサンと一緒にチームを組み、積まれた敗者の死体を焼却炉の中に投げ込んだ。燃えて灰になっていく敗者を炎の中に見る・・・・・。絶望に表情を引きつらせながら硬直した死者達の顔が、焦げて果ててこの世から消えていく有様を見つめていると、感情を失いかけている疲れきったぽん太の心が泣き出した。からからに渇ききった体から涙は流れなかったが・・・・心の表面を冷たい儚さの雫が連なり、膜を作る。炎のゆらめきを感じる心の表面で涙はやがて冷汗に代わりぽん太の気持ちをびしょびしょに濡らした。どの敗者にも・・・・ここに積まれたどの死体にも・・・・人生があった筈だった。それが、暴力によって無理矢理失われたと思うと心の底が重たくなった。それが、例え敗者の人生であっても・・・・・・・こうも粗末に扱われていいのだろうか・・・・と疲れ切ったぽん太は、妙に・・・必要以上に・・・ブルーになろうとした。

 「おい、若いの、早く手を貸せよ。そうじゃなきゃ、俺達、睡眠時間が減るぞ」

 冥王星からのベテラン焼却員の敗者パートナーのおっさんが、ぽん太に向かってイライラしながらそう言った。でも、ぽん太の瞳に映る悲しみに気づいた時、態度を変え若者を説得するように教えを口にした。

 「俺も初めてここに来た時は、センチメンタルになったさ。でも、結局、皆、死ぬんだ、いずれな。ここの星を狂わせた月の若き王とかって奴もいずれ死ぬ。遅いか早いかだけ。だから、あんま気にするな。こいつらは、俺らが炎の中に投げ込んでやれば、もう二度とこの苦しみに溢れた月の裏で苦しまなくいいんだ。早く成仏させてやろうぜ」

 ぽん太は、その冥王星のオッサンの言葉に従った。もう何もかもが手遅れなのだ。だからせめて全てを燃やして灰にして二度と苦しまないようにしてやった方がいいのだと思った。ぽん太は、冥王星のオッサンに向かって少し笑った。オッサンもしわだらけの顔をすこしクシャクシャにしてぽん太に微笑み返した。

 「おい、若いの。そっちの足持て。よし、いくぞ。一、二の三、よっ」

 ぽん太は次の敗者の死体をオッサンとともに持ち上げ、焼却炉に放り込んだ。もう神様なんて信じられない・・・・・と思うほど、神様には裏切られてきた気がするけど、それでも心の中で手を合わせることに意味があるのなら、ぽん太はそうせずにはいられなかった。ぽん太は、次々と死体を炎に投げ込み、心で手を合わせた。敗者の死体は、電力を作り、脂は二次製品を作り出した。

 一日の強制労働が終わり、工場地区から出る時に、軍人ウサギから百円ライターを受け取り、闇の中、ぽん太は四十二棟に戻っていた。百円ライターは、敗者の死体から絞り取った脂で闇を照らす。闇の中で小さな炎がゆらゆらと揺れる。


 ぽん太は狭い牢屋に戻り、体を折り曲げ体育座りで眠ろうとした。体も心も溶けてしまいそうに疲れていたのに、なかなか寝付けない。薄い壁の向こうから敗者達のすすり泣きが聞こえる。なんだか、もらい泣きしてしまいそうで・・・・つらくなった。小さな空間で体を折り曲げていると疲労の上に苦痛が圧し掛かって・・・重たくて泣きたくなった。でも、なぜだか涙が瞳を濡らさない。心が渇ききってしまっているから、涙が流れない。泣きたいのに泣けないつらさに、ぽん太は唇を噛んだ。ぽん太はうずくまったまま、身動きも取れないままもがいていた。そんなぽん太の前にいる長い耳のウサギは、既に眠っていて寝息を立てていた。悲しみに押しつぶされて、悲劇を熱烈に演じて酔おうとしている前で・・・・観客が寝ているような感じなのか・・・・。初め、その同居人の寝息を鬱陶しく思ったが、でも次第にその息を吸ったり、吐いたりするリズムが子守唄のように聞こえてきた。誰だか素性もわからない男の寝息に自分の呼吸を合わせ、目を閉じると静かに眠りに落ちることができた。ただ、疲れていただけなのだろう・・・・べつにこの目の前の男の寝息で眠れた訳じゃない・・・このウサギの寝息に特別な意味はないとぽん太は眠りに落ちる寸前で思ったが・・・・なぜだか、その耳の長いウサギと呼吸がシンクロすることによって同じ夢を見ているような気分に・・・・深い眠りの中でなった。



 ガチャンガチャン。常に動き続ける機械は、部品と部品がぶつかり、ぶつかり、ぶつかりあう。

 ガチャンガチャンガチャンガチャン・・・・・・。

 一週間か二週間・・・ぽん太は強制労働を続け、死体を焼き続け、短い眠りの中で眠り続けた。何度眠ったのか覚えていないほどぽん太は寝不足で、どれほどの月日が流れたのかを確認できなくなっている。体の疲れはつのる一方で解消されることはなく、それに連れて感情も疲弊しきって何も感じなくなっていた。過労死という言葉が・・・・敗者を焼却炉に投げ込む時にちらちらと頭をよぎる。自分がこの炎の中に投げ込まれるのはいつだろう・・・とふと思う瞬間がある。ぽん太は磨り減っていく。

 F工場内、蝋燭の火だけを頼りに闇の中で鎖帷子の縫い目を凝視し続けるぽん太の瞳は、劣悪な環境と過酷な労働に苦痛な叫び声をあげる。瞬きすらままならない渇いた目は、少しずつ色覚異常を起こし、真理を見抜く能力が極端に低下していく。もう色彩は目に映らず、白と黒、それだけが薄っすらと見えるだけだった。ただ、やけに暗い色が目につくのは、失明寸前だからだろうか。


 ガチャンガチャンと鳴り止まない衝突音の向こうに、脱落者を処分する風景が闇を超えて聞こえてくる。

 「F33174、作業中に過労死。捨てろ」

 汗と死の臭いがぽん太の嗅覚を震わせる。過労死する程、汗をかき渇いた敗者の死体が・・・死体処理班のぽん太の想像力に鮮明に描かれる。

 「F33229、続いて過労死。捨てろ」

 F工場の前に死体が積み上げられていく光景が頭に浮ぶ。積まれた敗者の死体を虫や肉食の鳥が食らおうとするだろう。痛んだ死体を収集車に積み上げるのは、ぽん太の仕事。あまり死んで欲しくないというのがぽん太の本音・・・・仕事が増えるから。

 「代わりを入れろ、早く代わりを入れろ。作業を一瞬でも止めるな」

 工場の作業監視員の叫び声が工場内に響き渡り続ける。欠員が次から次へと補充されていった。蝋燭の光が見せた工場の中の風景、小学生くらいに見える幼い女の子が果てた敗者の欠員として鎖帷子を編まされていた。でも、ぽん太は、いちいち何かを感じることを拒否するようになっていた。少女が強制労働に狩り出されていても・・・・・自分とは関係のないこととして片付ける。


 工場の外では、遊び半分に敗者を殺しまわる若い軍人ウサギの奇声が聞こえてくる。敗者の女性を性的に陵辱する笑い声も聞こえてくる。若き月の軍人ウサギは、口々に月の軍部親衛隊の指導者ヒムラーの言葉を叫んだ。

 「いわゆる反敗者主義というものは、人道上の問題ではない。それは、ノミやシラミ退治と同じく衛生上の問題である」

 ぽん太は、ただ鎖帷子の結び目の張り具合を見つめるだけで、周りから耳に届く音を聞いて聞かないフリをする。聞けば・・・・心も体も疲れるから。自分を守るために、音が意識に入り込まないように遮断する。


 「疲れたぁ・・・・・・」

 ぽん太は、鎖帷子を編むノルマを終え、火力発電所の仕事へ向かわなければならない。口から零れ落ちた言葉が疲れきっていて、余韻すら残さず空気の中に消えた。F工場の前の死体を収集車に積み上げ、車の荷台に敗者とともに乗って、火力発電所に辿り着けば、パートナーの冥王星出身のオッサンが、顔を引きつらせて苦い顔をしていた。

 「どうしたの、おっさん?」とぽん太は、聞いた。

 「おおお、坊主か・・・・・。いや、何ね、お前はまだここに来て一ヶ月も経ってないから知らなかっただろうが、月に一度、俺達はガス室の死体の清掃に行かなきゃいけないのさ。毒ガスをつけて、ガス室に転がる死体をここまで積んでくるんだ。他の火力発電所の奴等と当番制なんだが、今日・・・・突然軍人ウサギのやろうから・・・・思ったよりも殺しすぎたんで片付けろと言われちまって。てっきり、来週だと思っていたからよ。この仕事が一番つらいんだ・・・・だから、これが来る前には、いつも体力を体のどこかに隠すために、作業監視員のウサギどもに殴られない程度に仕事の手を抜くんだが、いきなりだ。働きながら、俺は死ぬかもしれん。体力を全部使い切っちまって」

 オッサンは、微かに死への恐怖に震えていた。ぽん太は、何十万という死体を焼いてきたベテランのオッサンが死を恐れる表情を見て、身震いをした。そういえば、工場地区から居住区へと帰っていく時、よく他の敗者が話しているのを耳にした。有毒ガス『チクロンB』を使い、働けない敗者や、使えない敗者、無能な敗者・・・・・ようするに敗者の中でも不良品に分類される物は、いちいち一つずつ殺していくと手間がかかるので、ガス室に閉じ込め一気に大量に虐殺する。ぽん太が百円ライターの火で闇を照らしながら四十二棟までの長い帰り道を背中を丸めて歩いている時、よく闇の向こうから今日は何人、ガス室で死んだ・・・とかいう話が聞こえてきていた。そんな悲劇を小耳にしたところで、疲れ果てていたぽん太は何も感じなかった。他人事だと思っていた。しかし・・・今・・・・その死体を全て片付け、また燃やさなければならないという・・・・究極の徹夜残業が自分の身に降りかかってきた。初めて、悲しいと思った・・・・死んだ敗者達がじゃない・・・・・残酷な残業を命ぜられた自分の運命が。

 ぽん太は、オッサンの隣り腰を下ろし、ぐったりした。オッサンは、優しくぽん太の頭を撫でてくれた。

 「俺らみたいなまともな敗者が・・・・よく働くお陰で、ここの収容所はもってんだ。誇りたくもねーが、それが事実だぜ、坊主。こんな糞収容所なんてすぐつぶれちまえばいいんだ。俺は、昔よ・・・・飲んだくれでアル中で女房、子供に暴力振るったろくでなしさ。だから、敗者であることになんら異存はないが・・・それにしても月はひでー惑星になっちまったな。昔は、こんな俺でも救ってくれようとした美しい星だったんだがな・・・・・もし、それでもこんな人道外れたことでもやってれば、いつかまた月が太陽を追っ払って、美しく輝いてくれやしねーかってたまに思ったりもするんだがよ。そんな夢見るだけ無駄か・・・・俺も老いぼれたな。全ては終わりに向かってんだなぁー」

 オッサンは、自分が背負ってきたものを一つ一つ地面に下ろすようにして語った。身を軽くしてガス室に行く心構えを少しずつ練っているようだった。

 「もうすぐ来るぜ、ガス室行きの収集車が・・・・。徹夜仕事だ。死ぬなよ、坊主。死体が一体増えれば、俺の仕事が増えるからよ。死ぬなよ」

 オッサンは、優しくぽん太の右肩を右手でもんだ。ぶ厚い手だった。眠ることができないことへのショックが大きかったが・・・・ぽん太の中では、疲れきった心にオッサンのぐったりとした逞しさがしみた。この疲れと徹夜残業を乗越えられなければ・・・・死ぬ。生き残るためには、乗越えるしかぽん太に残された選択肢はなかった。

 「仕事は増やさないよ、オッサン」

 ぽん太は、大声が出ない疲労が詰った喉元から小さくオッサンの目を見てそう言った。オッサンは、疲れた顔で少しだけ笑った。


 ぽん太とオッサンは、ガス室行き収集車に乗り、闇の中、車のヘッドライトが照らす先を見つめた。それは、収容所入口から右側に入ったあの道の奥にあった。車を降りると、軍人ウサギ達に毒ガスマスクを渡された。

 「キレイにしろよ」と、一列に並ばされた敗者清掃員達は、冷たい命令口調で言われた。

 ぽん太達は、お決まりの文句で、軍人ウサギ達にお言葉を返す。

 「はい、お仕事を頂きありがとうございます。毒ガスマスクありがたく頂戴いたします」

  ぽん太も慣れた口調でウサギに媚びるようなイントネーションで叫んだ。

 ガス室の重たい鉄の扉を開き、ガスマスクをつけたぽん太は中へと入っていった。残存ガスが行き場を失って建物内に充満していた。霧のようなもやがぽん太の弱った視界をさえぎる。ぽん太は、もやを振り切るようにして前に進もうとしたが、その瞬間何かに躓いて転んだ。ぽん太は硬くてゴツゴツしたもの上に倒れこんだ。老婆の死体だった。床一面、死体がぎっしりと埋め尽くされていた。どの死体も目が見開いたまま・・・・・まるで時間が止まったかのような姿で皆、裸で倒れこんでいた。シューシューシューとぽん太の息がガスマスクから漏れる。あまりの光景に、口から出てくるのは、息だけだった。言葉は出てこない。背骨の間の軟骨部分が冷えて凍っていくような寒気を感じた。

 「坊主、いつまでもここにいる敗者達にこの毒ガスを吸わせるな。早く、弔ってやるぞ。これ以上、苦しませるな」

 そう言って、オッサンはぽん太の放心状態の心に語りかけた。

 「俺達がやらなきゃ、こいつらどこにも行けずにここで腐ってくんだ。煙にして、自由に空を泳げるようにしてやろうぜ。ほら、そっちの足を持て」

 オッサンは、そう言って死後硬直した老婆の見開いた瞳の瞼を閉じてやり両脇に腕を突っ込んだ。ぽん太は、両足を持ち、収集車まで二人でガスを吸って果てた運命の残骸を運んだ。火力発電所で働く敗者、二百人体制でガス室の死体を全て焼切るまでに八時間以上掛かった。ぽん太の腰はひんまがり、下半身はがくがく震え、腕の筋肉は張り裂けそうだった。ぽん太もオッサンも仕事を終えた後、過労で、その場に倒れこんだ。そして、その倒れこんだ二人を軍人ウサギは、蹴り飛ばし、生きているのかどうかを確認する。

 「おい、生きてるんだったら、とっとと職場戻れ。お前ら、まだ工場での今日のノルマ一つもやれてないんだからよ」

 ぽん太とオッサンは、蹴り飛ばされて意識を取り戻した。このままここで寝込んでいたら殺される。薄れゆく生への執着心を二人は掴むようにして起き上がった。何も感じるな・・・何も感じるな・・・・ロボットになって・・・意識を眠らせたままとりあえず最低限の仕事でノルマだけ達成して、はやく牢屋に戻って眠るんだ、とぽん太は自分に言い聞かせた。

 ロボットに成りきろうとするぽん太は、鎖帷子の縫い目を何度も間違え作業監視員に木刀で何度も殴られた。もう死にたいと何度も思ったが、成仏したであろうガス室で死んだ敗者の魂のヴェールみたいなものが、ぽん太の心臓のまわりをコーティングして、最低限の命の鼓動を守ろうとしていた。



 色んな噂を聞く。敗者を人体実験に使って、細菌兵器を作ったり、敗者女に子供を宿し生きたまま腹を切り胎児を取り出し、馬鹿騒ぎする軍人ウサギの狂態話など・・・・・などなどなど。聞けば聞くほど、何も感じなくなる。幼女レイプ趣味の軍人もいれば、雄の肛門好きの軍人もいる。奴等にとってここは天国だろう・・・・・。でも、これが今、ぽん太の生きている現実なのだ。いくらぽん太の常識では考えられないことが起きようと、信じない訳にはいかない。もう嘆けないほど、慣れてしまうほどにそんな噂耳にしてきた。ぽん太は、敗者収容所内を照らす百円ライターの何万、何十万の炎の揺らめきを力なく弱りきった網膜に映す。生へ絶望し、毎日、何人もの敗者が、バリケードである有刺鉄線に向かって走っていった。見慣れた光景。はじめは、脱走するために走り出したのかと思っていたが、違った。収容所での狂気に耐え切れなくなり敗者達は、走ってくる電車の前に身を投げ出すようにして、380Vの電流が流れる有刺鉄線に向かって突っ込み、感電死した。監視塔で収容所を見張る軍人ウサギ達は、一見脱走兵のように見えるこれらの敗者に銃口を向けることすらない。弾の無駄遣いな上に脱走なんてできやしないと思っている。よく軍人ウサギは、逃げ出そうとする敗者を見つけては、「NO WAY BACK、NO WAY OUT(もうどこにも逃げられやしないんだぜ)」と言って笑った。そう言って、笑われることで敗者は皆、逃げる戦意を喪失する。ぽん太より少し若い殺されずに生き残っている十代の少年、少女達は何もかもに絶望していた。夢や希望なんてありやしないと暗闇の中、小さな火を見つめながらすすり泣く。神様なんていやしないと発狂する。ぽん太は、それらの嘆きを耳にするが、何一つ言葉をかけようとはしない。慰めてやろうともしない。これが現実だ・・・・・と静かに呟き、疲労に溺れる体をなんとか狭い牢屋まで運ぶ。とにかく寝たい・・・・ただそれだけ。

 「自分が癒されるの場所は、やはり眠りの中にしかないんだ・・・」

 ぽん太は、そう呟き、小さな牢屋で身を屈めて、目を閉じて醜い現実から唯一逃げられる短い眠りの中に癒しを求めた。


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