1-5・全生物平等精神
船倉は上甲板の下にあり、その下には乗組員の部屋がある。
船倉には山の斜面で作ったオレンジが袋詰めにして積んでいた。幸い、海水もそこまで浸水していなかったおかげで損害を出さずに済みそうだった。
安堵したキリルは同時に怪しい巫女の事を思い出す。
数分後、キリルは怪しい巫女を連れ、自分の船室にいた。
唯一甲板上にある船長室は簡単な木でできた机と椅子、壁には作りつけの本棚、扉付近には長椅子がある。机も本棚もびっしりと本が整頓されて置いてある。
キリルは小窓を閉めると椅子に座り、口を開いた。
「説明して貰おうか」
彼女はキョトンとして首を傾げる。
「へ? 何を? もう話したよ? 嘘ついちゃったお詫びにー」
「その話じゃない。鯨だっ」
「鯨?」
全く何のことか分からないとばかりに彼女は大きな目を、さらに開いている。
「鯨がなぜ、俺たちを助けるっ」
「え? ……話したでしょ? 鯨に頼んでって。大体、鯨って良い子が多いんだよ? 船乗せるくらいならなんとかこなしてくれるって。ずーっと一人でってわけにはいかないから、途中、他の子に代わって貰うけど」
どうにも会話が噛み合わないと気付き、キリルは聞き方を変えた。
「……鯨にどう頼んだんだ?」
「え? 陸まで船、乗せてって……」
「そうではないっ。……まさか飼っているのか?」
「はぁ?」
違うらしいと分かり、キリルは考える。
(俺が知らないだけで鯨はしゃべるのか? いやいや、流されてどうするっ。そもそも異種族だぞ。犬は猫の言葉が分からないだろうが! 基本異種族の言葉は分からないのが普通だ。鯨と人間は異種族だぞっ)
「ねぇ、大丈夫?」
「……鯨は……いつから人語を解すようになったんだ?」
「……解さないと思うけど?」
「……だろうな。それを聞いて安心した」
「あのぅ……、何なの?」
不審そうにこちらを見る女を見つめる。船員たちはこの巫女のことを海神の使いだと思っている。それにはある程度の理由があった。
まず第一に、彼女の現れた場所だ。
あそこは丁度、海神に通行料とばかりに酒樽を捧げる場所だったのだ。キリルが酒樽を買い忘れたせいで船員たちは引き返せと喧々囂々だったが、結局数分と立たず船体に穴が空いていることに気付き、沈没騒ぎに突入した。そしてそこに現れた故に神の慈悲だと盛り上がっている。
もちろんキリルは信じないが、この女が普通でないことは確かだった。
「泳いできたと言ったな? 船と同じ早さでか?」
「え? えーっと……」
明らかに目を泳がせる女に、更に質問を浴びせかける。
「鮫は?」
「え?」
「よく襲われなかったな」
「ん? サメだって意味もなく殺人事件なんて起こさないよ」
これぞ決定的とも言える理由だった。
辺りに全く島影はない。だが人はそんな距離を泳げない。まして、ニアはか弱い部類に入る若い娘なのだ。おまけにこの強運と、まるで鯨を意のままに操っているかのような言動。
よって船員たちは彼女を天使か何かだと勘違いしている。
「……お前にかかると鯨も鮫もまるで人間だな」
「や、だって……そんな違わないし」
(そんな違わない、か。どこが違わないんだ。巫女特有の全生物平等精神か?)
「質問の答えは? お前は船と同じかそれ以上の速さで泳げるのか? 何時間も?」
「……」
女は口を閉ざした。
「嘘の次は沈黙か、定番だな」
「ちょっと、人を犯罪者みたいに言わないで。嘘のことは悪かったって言ってるでしょ。だって、神殿を助けたかったんだもんっ」
「優しい嘘で世界を救うとでも言いたいのか、お前は。ご立派な巫女だな」
「残念でした、仕返しもちょっと入ってますっ。だって、酷い暴言吐いてたもん」
ツンと澄ます女に、キリルは引きつった。
「何だとっ? なお悪いだろっ」
巫女の癖に巫女らしからぬ女はそれでも、あの託宣の間ではそれなりに巫女だったのだ。あまりの詐欺商法にキリルは怒鳴っていた。
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【次話公開 → 本日 20:45 予定】
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