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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第一章・難破船にお詫びの鯨を
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1-4・鯨

「へ? あ、この子は(くじら)だよっ。まだ子供だけど、岸まで連れてってくれるから、攻撃しないでっ。あたしは……ほら、覚えてない? 神殿の巫女っ。ニアって言うの。ほら、あなたの託宣した者ですっ。とにかく、怪しい者じゃないからっ」


(充分、怪しい……)


 娘は必死で鯨を守るように両手を広げて訴える。

 意味が分からないを通り越した状況に、恐慌状態に(おちい)る者もいる中、キリルは自分のクラミスを脱ぎ、娘に放った。娘がクラミスを受け取ったのを見て、デニスに縄梯子を降ろすよう言う。彼は恐慌(きょうこう)状態の一人になっていたが、胸ぐらを掴んで揺さぶってやると我に返り、指示を(まっと)うした。


 娘は苦もなく縄梯子に足をかけ上ってきた。

 甲板に降りたった娘を見て、やっとキリルも記憶の照合が上手く行く。頭一つ分低い巫女は確かにこんな髪色をしていた。

 滅多に見ない色合いの髪だからよく覚えている。


「バシレイオス神殿の巫女ニアです。さっきのお詫びに岸までの移動を手伝います」


 一礼しての巫女の言葉にキリルは聞き返す。


「詫び?」

「あ……えーっと……」


 明らかに目を泳がせた巫女を見ていた時、少し遠くで大きな水音がした。反射的にみれば黒い尾が海に埋没(まいぼつ)する所だった。そう、キリルたちの船から少し離れた位置だ。そしてそれは別々の場所で続けざまに二度起こる。

 キリルは愕然(がくぜん)とする。鯨はこの下の一頭だけではなかったのだ。

 ニアが今度は大きく頭を下げた。


「ごめんなさーいっ。さっきの最後の、嘘です」

「……は?」

「えっと、だから、託宣の最後のとってつけた部分、嘘です。だからお詫びに岸まで案内して、船、守りますね」


 ニッコリする巫女に、キリルは引きつる。

 鯨に意識を取られていたキリルは完全に不意を()かれていた。かろうじて詳しく説明しろと言えば、彼女はスラスラと託宣の嘘の部分を答えた。それ以外の託宣は神懸かっている時の事だから記憶にないので本当だと太鼓判を押す姿には、反省らしきものの欠片(かけら)すら見えない。


「き……さまっ! 何だその、全く悪びれていない(さま)はっ、ソレが人に謝罪する態度かっ」


 怒鳴るキリルに、ニアはキョトンとして首を傾げる。


「んー、だから、お詫びに鯨」


(このっ、頭が弱いんじゃないか、この女っ。大体、鯨だなどとっ……? 鯨……鯨!)


 キリルは慌てて、海を見る。すっかり彼女のペースに飲まれていたが、鯨の上に船は乗っているのだ。


「一体、なぜ……」


 状況の異常性にニアの方に意識が向いていたが、よくよく考えれば鯨の方が大きな問題だった。確かにこのまま岸まで連行されるのは有り難い。だが、そもそも鯨にそんな義理はないはずだと、キリルは銛を持つ手に力を入れる。


「だからー、岸まで連れてってくれるように頼んだの。(わん)近くまで行って、そしたら、あたしが岸まで泳いで、船(もら)ってくるから、それで積み荷? とか色々移動したら?」

「……待て待てっ、お前、そもそもどうやって、海に?」


 常識で考えれば、ここは泳いで来れる距離ではない。


「あ、うん。散歩」

「……さん……ぽ?」

「あ、遊泳? まーとにかく、散歩みたいな感じで泳いでて」

「……もういい、考えるだけ無駄だな。デニスっ、今のうちに船底の穴を塞がせろ! 水をかき出して、鯨が消えても平気なように各自持ち場に付けろ!」


 考えることを放棄して命令するキリルに、皆、やっと我に返り、行動を開始する。とりあえずの死の危険から逃れた乗組員たちは鯨の上だということを海神の慈悲とでも考えたらしく、忙しく動き回る。

 怪しい巫女を無視して、キリルも積み荷の損傷(そんしょう)を確かめるべく、船倉(ふなぐら)へと移動した。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 20:15 予定】

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニアとキリル、二人のチグハグなやり取りがかわいくて好き!
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