表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第八章・嘆きの叫びと歓喜の響き
64/67

8-10・双子の歌


 体が引き上げられる。

 明るい日差しがニアに降り注ぎ、ニアは激しく咳き込む。


「ゲ……っ、ガハッガホッ……ッッ」


 背を叩く相手を見上げればキリルだった。


「ハ……ッ、き、り……ハッ、きり……っ」

「黙ってろっ」


 なんとか息を整えるニアの横を大きな白い蛇が通りすぎる。


「ッ……ッ」


 高波に流されながら、ニアはゼノを捜す。キリルはニアを腕にしたまま、船へと泳いで移動し、縄梯子に取りつくと登り始めた。


「……ぜ、ゼノはっっ?」

「前にいる」


 甲板に上るとキリルはニアを降ろし、顎で後ろをしゃくる。そちらにはネロに支えられ同じく咳き込んでいる兄の姿がある。

 ホッとしたのも柄の間、まだギガースの頭と両足が存在している事実に愕然とした。


「なん……っ」

「大丈夫だっ」


 キリルが指さす。

 ニアはそちらを見て、目を丸くする。あと二十分ほどの距離に十隻以上の船団が見える。


「オデラからの援軍だ。発つ前に同盟についての通知書を出したからな。滅ぼされるよりは味方した方が(えき)があると見越したのだろう」


 キリルは口元に笑みを浮かべる。


「さぁ、歌え、ニア!」


 キリルにニアが頷く。

 もう奈落への扉は消えている。海は平常通りの青い海。ギガースはその全体像を(あらわ)にしている。


 骨だけでできた胴体と、攻撃を受けてすでに半分以上の肉がこそげ落ちた両腕、そしてやはり骨だらけの頭部に光る異様なほど赤い目と、蛇の両足。

 まるでそれは灰色の神そのもののようにさえ見える。灰色の涙だったスキアーたちは海に溶けて消えて行く。

 灰色の神のアンゲロスがタラッサに許可なく侵入した結果だ。


 ニアは先ほどまで手にしていた銛を探す。


「キリル、銛は?」

「あぁ、アレか。大した金になりそうもないが持ってきたぞ」

「はーっ? 何言ってるのっ、とってもすごいモノのよっ、キリルの罰当たりっっ!」

「言ってろ」


 ちっとも反省してなさそうなキリルを無視して、ゼノを見る。


「お兄ちゃん、歌おう!」

「……過重労働すぎるよ……」


 文句を言いつつも、兄はニアの手を取る。


「ではキリルさん、あなたはオデラの方をお願いしますね。僕はこっちの船団を(まと)めますんで」


 言いおいてネロは去っていく。

 彼女がイルカを呼ぶとキリルも心得たようには海に飛び込み、イルカの背に(またが)る。ニアはその背に呼びかけた。


「キリル、長いことは止められないからね」

「あぁ!」


 彼は晴れやかに笑った。目を見張るニア。


「ニア、聞いているからな」

「……キリルっ」


 去っていくキリルを呆然と見送る。ゼノに服を引っ張られても尚、少しの間、ニアは自失していた。

 頬が熱かった。


「ニア! さっさとやるよっ」


 兄に急かされ、聖銛(せいせん)に目を移す。


「あたしの血に宿るタラッサテオス様、どうか、……どうか、お力をお貸しくださいませ」


 ドーラに仕込まれた神への挨拶をすませると、兄に渡す。彼は甲板に銛を突き立て、ニアの手を取った。

 双子は片側の手をギガースに向ける。

 呼吸。

 呼吸。

 呼吸が合う。

 一度視線を絡ませ合った二人は、海に向かって声を発す。


「 神の名の下に我らは進軍す

  正しきはタラッサの御心ひとつ

  全てを飲み込む波となり

  神の敵と相対す 」


 初めてギガースに会った時に歌った歌をゼノとニアは口にする。言葉で話さなくても兄の考えもニアの考えもお互いに目を見れば大体分かってしまうのだ。


「 我は神の槍となり

  我らは血を流すであろう

  だが我の血は神への賛美を刻み

  神の敵を焼くだろう 」


 二人の歌はまっすぐにギガースに直撃する。


「 我らには加護がある

  タラッサテオスに守られし民

  海に愛されし民  」


 ギガースはニアたちの歌によってのけぞる。

 この歌はもっとも攻撃的な歌でもある。大抵は敵を失神させるものだが、今は増幅装置の力を借りて凶悪なまでの破壊力を持っているのだ。


「 我らはなにものをも恐れぬ

  全てはタラッサテオスに捧げよう

  いずれは我らも波となる

  神の御許(みもと)にゆくまで

  立ち止まるな

  我らが友よ 」


 歌に集中するニアたちの後ろで、ミルティアデスの船団がまとまりを見せ始めた。

 足りない水夫を他船から呼び寄せて乗り移らせていく。船速をあげる手筈(てはず)を整えたネロは、死体に埋もれているミルティアデスの側に行き、おもむろに死体を退け始めた。

 胸に刺さった白刃を見つめ(ひざまず)くと、その(やいば)を慎重に、かつ素早く抜き放つ。細く薄い刃は組織に毛ほどの傷も付けず、引き抜かれた。

 表面の組織から血が漏れ、同時にミルティアデスの目がカッと開かれる。


「お早うございます、ミルティアデス様」


 ナイフを差した時と同じテンションで告げる男を、ミルティアデスはじっと見つめる。ネロは止血措置として自分のクラミスを破り包帯に変えて縛り上げている。

 痛みが走るものの、血に濡れた体が自分の自由になると気付き、立ち上がる。

 視界の端では双子が歌を歌っているのが見えて、ミルティアデスは辺りを見回した。


 すぐ近くまで迫ってくるオデラの旗を掲げた船団を見つめ、彼はニヤリと笑うと号令を発した。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 22:30 予定】

ブクマ・★評価、嬉しいです♪


「面白かった!」

「今後の展開は?」

と思われた方は下の☆☆☆☆☆から(★数はお好みで!w)作品への応援お願いします。

ブックマークやイイネも励みになります!


よろしくお願いします(* . .)⁾⁾

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ