8-4・手紙
「そうそう、ニア様にお手紙が届いております」
部屋につくと、アンナが思い出したように机の木箱に駆け寄る。縦長の、掌からははみ出るほどの大きさだ。
「あたしに?」
「はい、これを渡すよう仰せつかっております」
箱を開けてみれば、丸めた紙に青いリボンが彩りを添えていた。
ニアにはそれが誰からのものかすぐに分かった。
(ネストル様っ、……ネストル様だ!)
子供の頃、ネストルがどこかに行った時に旅先からいつも送ってくれた時のリボンと同じだった。
(でも、どうして……あたしがテルマにいるって分かったの?)
ニアは手紙を受け取り、ついでにアンナをギュッと抱きしめる。
「アンナっ、ありがとうっっ」
不思議ではあるが、嬉しいことだ。急いでリボンを解き、中を見る。
胸が詰まる。
まるで匂いまでもを閉じこめていたかのように、神殿の空気を感じることができた。ニアは微かに涙ぐむ。
だが、紙は大きさの割に短い文が数行書いてあるだけだった。
『この手紙を受け取ったあなたは、恐らく驚いているでしょうね。ドーラがどこまでを見通していたのかは分かりませんが、どこにいようともあなたの幸福を祈っています。以下、ドーラからのお告げです』
簡潔にして明瞭なネストルの文字。
微かに緩んだ頬は先に続く文面に強張る。
「これって……、まさか託宣?」
純粋な驚きが心を占めた。
『 海に愛されし乙女
抱かれ祈れば
白き涙は全てを流し給う 』
愕然とする。
「アンゲロス……って」
最初の一節は自分の事だとニアも分かる。
次の一節に出てくる天使――アンゲロスとは、全ての神に仕える者であり、また人が死の淵にある時に現れるという存在だ。神話にアンゲロスの翼に乗り祈るという表現があるが、それは魂が天使の翼に乗り神の断罪を待つ間の期間を差している。
最後の一説はニアにも全く分からない。
(あたし、もしかして……死ぬ、の?)
ニアは震える手で紙を胸に抱きしめる。
「ニア様?」
「あ、……アンナ、ありがと。あー……そ、そうだ、あたしキリルに用があるから……っ」
不思議そうなアンナを置き去りにし、ニアはキリルを捜す。
他国人であり、同盟者であるキリルの消息はすぐに知れる。忙しく立ち働く従僕たちに礼を言い、ミルティアデスの執務室へと向かう。
石造りの建物の壁はどこも臙脂色のタペストリーや絨毯で彩られている。テルマはあらゆる意味で潤っていた。
だが今のニアにとって、それらの素晴らしさも美しささえ足を止める動機にはならなかった。
読んでくださってありがとうございます。
【次話公開 → 本日 12:40 予告】
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