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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第八章・嘆きの叫びと歓喜の響き
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8-1・不器用な男


 神殿を後にしたニアとキリルは洞窟に戻って来ている。

 キリルが壁に矢印を書いていたため、それを頼りに二人は洞窟からも無事脱出する事に成功した。

 だが、その森はもはや元の森とは言えない。木々は枯れ果て、死骸(しがい)で溢れている。


「……ひどい……」


 ニアは呟く。キリルはニアに言うべきか迷っていたが、意を決して彼女に向き直る。


「ニア、俺はこういったことをよくは知らない。だが、これらはテオを含め、お前とゼノの歌声で死んだようだ」

「……え?」


 ニアは何のことを言われたのかよく分からなかった。キリルは落ち着いてもう一度言う。


「共振作用とでも言うのか、お前たちの歌によって、血を流し死んでいったのだと思う」

「そ、そんな……だって、あたし……そんな……っ」

「死因はお前たちの歌だが、俺の腰の剣に罪がないように、お前にも罪はないと思う」


 いきなりの展開にニアは混乱する。彼の言葉の全てが頭を素通りしていく。

 ニアには分からなかった。そもそもニアは音痴で人前で歌う事は(まれ)なのだ。連絡をとるための手段や防御のための手段としての歌であって、何かを死に(いた)らしめるような歌をニアは知らない。

 その自分の歌が人や動物を殺したなど、ニアには信じられない。


「お、音痴、だからとかじゃ……ないよね……? やっぱり……」

「あぁ。それに歌はとてもお前のものとは思えないほどに美しかった」

「……っ」


 歌を誉められたなら、本来なら喜ぶはずのところだったが、今回に限ってはニアに苦痛をもたらした。


「ニア」

「……なに?」


 まだ何かあるのかと、顔をあげる。


「俺は率直にものを言う。何故か分かるか?」

「え? いや……全然……」

「無駄だからだ。言葉を飾り立てれば飾るほどに嘘が増えていく。真実は言葉の海に覆い隠されてしまう。俺は、あるがままを言う。お前は剣と同じだ。使う者による。今回、お前は『剣』でしかなかった」


 彼が言わんとすることは分かる。だが、納得できるかは別の問題だった。人だけではなく、色々なものをニアの歌が壊したのだ。

 キリルははっきりと告げる。


「気にするなとは言わん。好きなだけ、気にしろ。だが、事実は変わらん」

「き、りる……」

「本題は、ここからだろ? 繰り返させるな」


 ニアは呆然と、差し出された手を見つめた。

 慰めているつもりなら失敗の言葉の連続だが、なぜか心は少しだけ上を向いている。


「剣にした奴を捕縛し償わせる。行くぞ」


 再度急かす男に、ニアは微笑む。


(優しい……ね、キリル)


 不器用な言葉を受け入れ、手を取る。

 二人は再び歩き始めた。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 21:20 予定】

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