7-6・悪夢
ニアがふわりと地面に倒れ伏す。
キリルは銛を捨て、ニアの頬を叩く。
「おいっ、しっかりしろっっ」
彼女の目は硬く閉ざされ、口からは規則正しい呼吸が漏れている。
「ニアっ」
「……うるさいな……」
応えは別の所からした。不機嫌そうな顔をしたゼノが体を起こし、こちらを見る。
「……っ、ニ……つっ」
血だらけのニアに驚いたゼノが慌てて立ち上がろうとして、頭を押さえる。ひどい頭痛に見舞われながら、それでもゼノはニアの血にまみれた姿に我を失っていた。
「ニ、……ニアは……っっ?」
「大丈夫だ、眠っているだけだ」
言われて、ゼノは次第に落ち着きを取り戻していく。彼は手に触れた何かに目をやり、己の目に映る光景に驚く。
「な、なんだ……っ、ここはっ」
「俺が来た時にはこうだった」
虫や小動物だけでなく、大型の死骸も半分腐ったものが転がっている。
「お前たちはそこの銛を中心に立てて、歌っていた。覚えていないのか?」
「銛? 歌って……?」
ゼノは足下に転がる二又銛を拾い、見分を始める。キリルはニアを腕にしたまま、言うべきことを思い出す。
「テオが死んだ」
「え?」
振り返るゼノに、キリルは続ける。
「お前を捜しにやってきていた。頭を押さえて血をあちこちから流し死んだ」
「……っ」
キリルは自分の部下がそうであったなら知りたいと思うであろう死への流れについて、なるべく事細かに説明してやる。ゼノは無言で聞いていた。
「……そうか、だったら、テオを殺したのは僕たちだ……」
キリルは何も言わなかった。驚きもない。
歌っていた二人を見て以来、予想していたことだった。
◆◇◆
ニアは夢を見ていた。
そこには、包帯を巻いた男が大量にいる。
男達を生み出しているのは九つの灰色の塊だった。
灰色の塊は始終火山のように、地鳴りと震えを起こして、溶岩を吐き出すように灰色の液体を吐き出すのだ。
液体は、包帯男が包帯を巻いていき人型に整形されていく。
新たに出来上がった包帯男たちは自分の手の部分で両手と両足の包帯を引き千切る。するとそこにはしっかりとした人間の手足が出来ており、彼らは最後に左の目の位置の包帯に手を掛けて破る。
そこには赤い色の目が光っていた。
(……す、スキアーっ)
ニアは悲鳴を上げかけた。いや実際、悲鳴をあげる。その瞬間、大量のスキアーたちがニアを振り返った。
固まるニアに彼らが耳を劈き、脳を揺さぶる高音を放つ。
ニアは耳を押さえ、身を縮める。
音が頭の中で反響している。
(出ていってっ、出ていってーーっ)
「ニアっっ」
大きな声がして、ニアはハッと我に返る。目の前には見慣れた琥珀色の瞳がある。
鋭い目はニアを睨み付けているかに見える。ニアは慌てて、弁解をした。
「ご、ごめんっ! ゼノが大変かもってなってて、それで……だからっ、あ、いや、最初はゼノの知り合いだって思ったとこが始まりなんだけどっ」
キリルは大きく息をつく。微かにうなだれてさえいるようだ。彼の向こうにはゼノがいる。ニアは声を掛けようとして、彼の手に握られた白い棒を見つけ、一気に記憶が蘇ってきた。
「そだ……あたし……殴られて……」
思い出してみれば、同時に背中がズキズキと痛む。現金な体に、ニアはそれでもホッとしていた。
「あー良かった……死んでないや、あたし」
キリルと兄の冷たい視線を受けて、ニアは首を傾げる。
「え、何?」
「馬鹿じゃないのか、お前は。僕を助けにって、身のほどを知るべきだぞ」
苦虫を噛みつぶした渋い顔でゼノは皮肉混じりの説教を始める。
自分は海底王国で王子としての教育を受けており、武芸の授業も受けていて、ニアのような非力で凡庸で愚かな巫女に助けられることなどあるはずがないのだと、切々と語る。
ニアは文句を言わず黙って兄の言葉をニコニコと聞いていた。
なんといっても、あの時、静かに横たわった兄を見た瞬間の恐怖をニアは一生、忘れられそうもない。しばらくは何を言われても元気にしているだけで嬉しいと思えた。
「……ったく。とにかく、僕のことより自分の身の危険も、その……もっと考えなさい」
少しだけいつもよりも優しい声を出すゼノに、ニアは大きく頷く。
「うんっ。ゼノも無事で良かったよねっ」
「……だ、だいたいお前は感覚が鈍いんじゃない? 双子の超感覚はどうしたのさっ、僕が危険だったら分かるはずだろ」
「あ、ごめん。忘れてた」
ゼノは口をパクパクさせて黙ってしまった。
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【次話公開 → 本日 19:40 予告】
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