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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第七章・分かたれた者と作られた者
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7-3・覚悟の一歩


 テオは早速、足早に出ていこうとする。キリルは彼を呼び止める。


「テオ殿」

「何でしょうか?」

「ニアは浜で泳いでるかも知れない。俺も途中まで同行していいだろうか?」

「えぇ……構いませんよ」


 テオと二人、町を出てニアと朝方に行った海へと向かう。キリルは多少の高を括っている。すなわちニアは海恋しさに、海水浴をしているのではないかと。それなら、この男に例の超音波か何かで呼びかけて貰った方が早いのではないか、と。

 キリルがミルティアデスの前でその話しをしなかったのは、ニアの失踪を軽く考え、捜す手間を省かれる事を避けるためだった。

 町の外に出たキリルはテオに聞く。


「ニアを知っていると言ったな?」

「はい、まぁ……ゼノ様を通してですが」

「ニアは約束を破るのか?」

「は?」

「……ゼノは時間に厳しいと言っていたな? ニアはどうなんだ?」

「……そう、ですね……」


 テオは少し考え込み、大きく頷く。


「確かにニア様は奔放なところがおありだと聞いております。ただ、基本的にはお二人ともよく似ておられるので、意味もなく約束を破る方ではないと考えますが」

「そうか」


 キリルは考える。

 彼の言ったことは大方、キリルも同意見だった。ただ、そうであるなら何故、今回行方不明になったかが問題だった。

 ニアは陸では珍しい青銀色の豊かな髪を持ち、見た目もキリルとしては素直に認める気はないが、美しい部類に入るのだ。


(やはり、人浚(ひとさら)いの方面で考えた方がいいのか)


 憂鬱(ゆううつ)な気持ちでため息をつく。

 ニアに会って以来、要らぬ面倒事ばかりが関わって来ている気がする。だが、キリルは託宣にあった言葉を少しだけ信じ始めていた。


『汝の財産となるであろう』


 それは確かに、現在財産になりそうな所まできている。ミルティアデスとの同盟は間違いなく財産となるだろう。ゼノとの同盟もおそらくそうだ。

 だがやはり納得がいかない。

 なぜならニアの嘘予言もそこそこには当たって見えるからだ。


所詮(しょせん)、予言など気の持ちよう。考え方次第というわけだ)


 ふいにテオが立ち止まる。


「おい?」


 テオはふらりと地面に膝をつく。

 キリルは後ろから彼を見る。彼は平衡(へいこう)感覚を失ったかのように、完全に地面に倒れ込んだ。


「……っ」


 咄嗟(とっさ)にニアの歌を思い出す。超音波を相手にぶつけて失神させるのだと彼女は言っていたが、周囲に人影はない。剣に手を掛け、ゆっくりと彼の側に移動する。

 彼は気を失っているわけではなかった。頭を抱え、押さえている。


「テオ殿っ?」

「う、ぁぁっ!」

「テオど……っっ!」


 彼の顔から鼻血が滴り落ちる。

 キリルは愕然(がくぜん)とした。

 彼の皮膚は血を吹き出している。目から、耳から口から血を流し、悲鳴をあげて白い砂の上に血を振りまきながら、もだえ苦しんでいる。


「テオ殿っっ! 一体、何がっ」

「ぜ……の……っ」


 彼はバタリと手で砂を()きむしり、事切(ことき)れた。


「……っ」


 キリルの耳には何の音も聞こえない。

 だがふと違和感を感じる。

 そう、鳥の声も、潮騒すら聞こえないのだ。歌神の末裔(まつえい)として音楽の教育を受けているキリルはとても良い耳に育っている。

 未だかつてキリルはこれほどの無音の世界を見た事はない。テオが手を伸ばしていた方向を見る。


 そこには林があった。


 今朝方キリルも見た林だ。

 どれほど役に立つとも思えないが、キリルはクラミスの端を切り裂いて、耳に詰めると歩き始めた。

 林の中を見て、キリルは愕然とする。そこは赤かった。緑の木々は中心から腐り枯れている物がほとんどで、鳥や虫の死骸がそこかしこに散らばっている。それらは一様に穴と言う穴から血を吹き出し、地面を赤く染め上げている。


「……これは……まさか嘆きの地か……っ?」


 確かに海で見た物によく似ていると言える。どこが中心であるかは火を見るより明らかだった。

 死体は中心に近づくに連れて増えている。

 そしてついに赤く染まった奇岩(きがん)を見つけたキリルは立ち止まる。奇岩には穴があり、暗い洞穴がぽっかりと口を開けている。

 テオの突然死とこの死体の山から考えて、ここは間違いなく嘆きの地だった。


(なぜ俺は平気なんだ? これは耳栓の効果だろうか? ともかくミルティアデス殿に報告すべきだろう)


 この先に何があるとも分からない以上、深追いは危険と言えた。

 だが去ろうとした時、耳栓ごしに音が聞こえてくる。それは美しい旋律の音で、神への賛歌に近い、優しく(おごそ)かな音楽だった。


「 我らは神のしもべ

  海の子よ

  海の長はいつしも

  深い愛で我らを包み

  我らを導かん  」


「ニア?」


 キリルは思わず似ても似つかない音痴のニアを思い出す。だが声には聞き覚えがあり、洞窟からしているのは間違いない。


「……くそっ」


 キリルが洞窟に近づくと音も近くなる。洞窟を覗き込み、大声を出す。


「ニアっっ!」


 呼ぶが返事はない。

 もう一人いればミルティアデスへの言伝(ことづ)てを頼めたものを、と返す返すもテオが死んだことを痛手(いたで)に思うキリルだった。


 だが彼は中に足を踏み入れる。

 ゼノの話では嘆きの地は一つではないと聞いている。ここが嘆きの地なら、ギガースが現れる事もあり得る。ましてテオの死因は謎だ。


(この歌が危険だとしても、……この先にっ)


 キリルはニアのことを見捨てられるほど合理主義に徹する事が出来ないでいる。この奥にいるのがニアかどうかは分からないが、心は決まっている。


「くそ……っ、妻だし、な」


 キリルは中へと進んでいった。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 6/7 PM 12:15 予告】

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