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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第七章・分かたれた者と作られた者
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7-2・捜索への道


 キリルは苛々していた。

 ミルティアデスは今、海の者との会見中だった。

 議会に出席するはずだったゼノは結局姿を見せず、僅差(きんさ)で彼の側近を名乗る男が中に入ったっきり、すでに三十分が経過している。


 やっとのことで閉ざされた扉は開き、キリルを中へと招き入れる。

 開口一番、ミルティアデスが言った。


「ゼノが行方不明らしい」


 キリルも言い返す。


「ニアが行方不明だ」


 二人は顔を合わせて、逡巡(しゅんじゅん)する。真ん中に立つ海の者は神妙な顔をしている。年の頃なら二十代後半。水色の髪と瞳の青年はテオと名乗ると経緯を説明し始めた。


 テオの話によると、先日帰ったゼノは部屋に()もり調べものをしていたと言う。

 昨晩、彼は『パイオンの神殿を探す』と残し出て行ったらしい。今日の議会には同盟者として参列するため、エンポリウムの港で待ち合わせをしていたのだとか。しかし、彼はどれほど待っても現れなかったので、こうしてテオはミルティアデスに説明に上がったというわけだ。


「ゼノ様は時間に厳しくあらせられますので、遅れるなど……まして忘れるなどありえません。御身に何かあったとしか思えないのです」


 テオの言葉に、キリルはふとニアの『知り合い』がやはりゼノだったのではないかと至り、口を挟む。テオは首を横に振った。


「ニア様のことでしたら、私もゼノ様に聞いておりますが、ゼノ様が約束の時間を過ごしてまでニア様を優先されるとは思えません」


(……どうなんだ、それ……)


 キリルはニアの最低兄貴発言を思い出し納得した。

 ミルティアデスは肩を竦める。


「だがニアも行方不明とはな。双子が同じ場所で消息を絶つなど、偶然とは思えんな」

「兄の方は神殿を捜しに出たのだろう? だったら行き場所の当たりはつくんじゃないか? 先にゼノを見つけ、ニアを捜させた方が効率が良さそうだな」


 キリルの言葉にテオが頷くも、ミルティアデスが待ったをかけた。


「おいおい、妻を放置してていいのか?」

「……それはまぁ、心配だが……どこに消えたかもしれないんだ。俺よりゼノの方が双子な分、見つけやすいだろう」


 キョトンとしてキリルは言う。そしてミルティアデスの不審げな表情にやっと気付いた。


(そうだっ。俺は今、新婚だったっ! 新婚の妻を後回しにする夫というものは非人道的に見えるに決まっているっ。いや、そもそもミルティアデスにそんな感情はないだろう。ならば、あの表情はなんだ? まさかっ、偽装夫婦である疑いを?)


 キリルは相変わらずの無表情のまま、内心焦っていた。ミルティアデスはそれもそうだなと言い、話を打ちきると、ゼノの言った神殿とはどこかと尋ねる。


「さぁ、分かりかねます。ただ、ゼノ様の部屋に残っていた資料からこの辺りの海底地図を持って行かれたことは確かですが……」

「海の中の地図かっ?」


 ミルティアデスが興味深そうに声をあげる。テオは困ったように見せることはできないとの旨を丁寧に伝えた。未練を残しつつも、ミルティアデスは頷く。すでに憲兵隊に指示を出し、ゼノを捜しているのだと言う。


「ニアも捜すとして、見た目はよく似ているからゼノの捜索の網にすでに掛かっている可能性もある。まぁ海底だとしたら手の打ちようもないないがな。そっちで分かるか?」


 ミルティアデスの言葉にテオは困ったように目を彷徨(さまよ)わせる。


「分からないんです。なにぶん古い地図ですので、地形も変わっておりますし……抜けたページから、だいたいの位置ならば割り出せるかも知れませんが……この辺りの海岸線沿いだとは思うのですが……」


 なんとも歯切れの悪い言葉にキリルはため息を付く。

 結局一から捜すのと、そう労力は変わらない。


「すぐに当たれ。俺はこちらでニアとゼノの捕獲情報を待っていよう」

「ミルティアデス殿、お手数をかける」


 キリルは形ばかりの挨拶をし、テオとともに部屋を辞した。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 23:20 予告】

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