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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第七章・分かたれた者と作られた者
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7-1・影


 ニアは咄嗟(とっさ)()けていた。

 危うく頭を打たれる所で地面にめり込んだ白い(もり)を見つめ、血の気の引く思いだった。


「な、何、するのっ……あ、あなた、誰……?」


 ニアの質問に初めて男が答える。


(スキアー)……」

「すきあー……」


 海の者の名でないと気付き、ニアは愕然とする。

 大抵、海の者は二文字の名と共に、本意(ほんい)を持った名がある。ニアならばニフィクスリーアで真実の乙女という意味だ。大抵、本意の名は正式な場でしか使用しないのだ。ニアは単純に長くて面倒だからだろうと見ているが、ゼノや母だってそうだ。

 そのため、ニアはネロに一度、本意の名を尋ねている。当然、彼は『何言ってるんですか』とキョトンとした顔で答えたのだが――。


 スキアーは陸の者だ。

 ニアは唐突に自分が(だま)されて連れて来られたのだと知った。


「酷いっ、何でっ、一体、何のつもりっ?」


 彼は更にニアに向かって銛を振り上げてくる。ニアは慌てて走る。スキアーは兄には見向きもせず、動くニアを狙ってきている。


(……っ、何、何なのっっ)


 ニアは混乱の中、必死に銛を避けるため、広場を駆け回った。だが、今までの行程からすでに疲れているニアは、次第に足がもつれ始める。

 ついに、ニアは転ぶ。

 スキアーが彼女の背に向けて銛を振り下ろした。

 ニアは地面に叩き付けられ、息が詰まる。

 痛みに意識が遠のいていく。


 スキアーは意識を失っていくニアを上から見下ろした。完全に意識を失ったのを確認すると足を掴み、ズルズルと引きずって双子の片割れの側まで移動する。

 彼は二人を並べて横たえると、その間に、二又銛を突き立てた。

 そして、もはや二人には見向きもせずに広場を後にする。


 残されたニア達は眠るように深い息をしている。

 棒が白く光り、壁の文字が一際(ひときわ)激しく明滅(めいめつ)を始める。

 ニアとゼノはうっすらと目を開くと、立ち上がり、鏡のように両手を合わせる。二人の口からはとても美しい旋律(せんりつ)が流れ出した。



読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 22:40 予定】

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