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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第六章・嘆きの地、生成
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6-9・謎の男


 ニアはもうずいぶんな距離を歩いていた。

 それどころか、彼に案内されるまま海に繋がる穴を通り、暗い海を抜け、穴から酸素(あふ)れる空間へと体を持ち上げたところだった

 そこはとても幻想的で、目を見開く。ニアのいた海の周辺にはこういったものはなかったから、とても興味深かった。

 光苔が地面を絨毯のように彩り、壁面と天井に白い文字が明滅している。どうやらその白い文字は苔の光に反応して、時折光るようだった。


「……す、ごい……」


 呆然と呟くニアを無視して、男は中心へと歩いていく。ニアは慌てて後を追い、ふと男の側に白い物を見つけ、それが布だと気付く。

 布に近寄るにつれ、そこから伸びた手足と青銀色の髪が見え、ニアは駆け寄った。


「お兄ちゃんっっ!」


 側に駆け寄り、座り込む。()の長い(もり)も落ちている。それは紛れもない兄の姿だった。兄はぐったりと身を折るようにして倒れている。


「お兄ちゃんっ、どうしたの、お兄ちゃんっっ!」


 膝に抱き上げ、揺する。ニアには理解出来なかった。兄には外傷が全く見受けられないのだ。口元に手を翳して息をしていることに安堵する。

 だが体はとても冷えていた。


「ねぇっ、ゼノはどうしたのっ? 教えて?」


 男に聞くが、男は側に立ったまま、何も言わない。


「ねぇ……っ!」


 見上げた男はゆっくりと頭から被っていた布を取る。

 途端にバラリと銀色の髪も落ちる。ニアは呆然と男を見ていた。

 男は頭も包帯だらけで、頭髪すら見えない。ニアは落ちた髪を拾う。それは端を縛った人毛だ。男の手にはいつの間にか銛が握られている。

 白い大きな二又銛(ふたまたもり)だ。それはゼノの側に落ちていたものだ。


「……まさか……」


 ニアが目を見開く。

 男は、銛を振り上げた。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 21:45 予定】

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