6-7・穴
「へ……?」
呆然とするニアを余所に男は歩く。人一人を担ぎ上げているにも関わらず、変わらぬ速度で男は進む。
ニアは体温を感じさせない布ごしで、彼の肩にお腹をのせて後ろ向きのまま、過ぎゆく景色を見ることになった。
「……ちょ、ちょっと待ってっ……あたしっ……双子で、だから、ダメって……」
さっきとは違い、揺られるせいで途切れ途切れに状況説明をする。ニアは何度も舌を噛みそうになりながら何とか自分の立場――『ゼノの双子』で『陸で育てられ海底王国にはいないことになっている人間』で『海底王国に関連する場所にはいけない』のだと――正直に告げる。
事情を話すことには不安もあった。
だが、兄は不吉な双子など悪しき風習だと公言しており、それどころかニアの存在をほのめかしているそうだ。
(お兄ちゃん、あたしを海底神殿に連れて行こうなんて……流石に問題!)
男は聞いていないのか、反応もないままひたすら歩く。ニアはもう説明することを放棄して、黙って揺られるに任せた。
それから彼が止まったのはキリルと来た朝の浜が見える場所だった。いつの間にか男は門も通らずに外に出ていた。
ふいにキリルの声が蘇ってくる。
『偽装夫婦だとバレぬよう、お前は一般的な貴人の妻らしく侍女の側で静かにしていろ。少なくとも俺が戻るまで、いいな?』
(やばいっ……町から出ちゃったよっ)
ニアは途端、不安に駆られる。
神殿育ちでポリスを知らないニアは、どうやってさっきのアンナとの場所に戻ればいいのか、どうやって町に入ればいいのかすら分からないのだ。方向音痴なわけではないが、下手な行動をしてキリルの迷惑になるわけにはいかない事情がある。
元の場所に戻らねばならないとニアは分かっているが、男はどんどん林に向かう。
「え、なに? 海はあっちだけど……」
男からの反応はやはりないまま、林の中を歩くこと二十分ほど。
「ねぇっ、戻る時、連れてってくれる?」
やっと止まった男に聞く。ニア自身は歩いてないにも係わらず揺られた疲労感から騒ぐ元気はない。
男はニアを降ろし、奇岩の張り出した所にある穴を指さす。
「コ、来イ」
「……ゼノ、そっちなの?」
男はニアに手を差しのばす。
「……早ク」
ニアは首を傾げる。彼は急いでいるようだった。
「ゼノ……、どうかしたの?」
ニアは急にゼノが心配になる。ニアを呼ぶほど悪いのかと。
だが、違和感もある。兄の緊急信号をニアは受けていないのだ。
(……まぁ……ポリスにいたし、……もしかして、声も出せないくらい悪いのっ?)
ニアは意を決して、穴の前に立つとごくりと唾を飲み込む。
中は暗い。
海中でもない普通の闇に、ニアは一瞬だけ躊躇った。だが、奥からは潮の匂いがする。
「ゼノ?」
ニアは奥へと歩き出した。
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【次話公開 → 本日 19:40 予定】
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