6-4・内情と打算
ミルティアデスの執務室は祖父が使っていたままで、重厚感溢れる作りになっている。
朝食を終えたばかりの彼はソファに座り、朝から迎えた訪問者を前にしている。
ミルティアデスはきっぱりと言う。
「俺はアレをただとだけ呼ぶ。そして倒す。そう決めたんだ、ロムルス」
ロムルスは父の重臣であり、大貴族でもある。
そもそもテルマの王政は遙か昔に滅んでいる。数年前まで、本来は王を補佐するべき議会によって政経が運営されていた。
議会は貴族により構成された長老会と市民により構成された民会に分けられ、どちらも同じだけの発言権を持っている。
だが王というトップの不在により発言権の強きを持った長老会は、次第にその中にさえ優劣を付け始めた。王なきテルマは大貴族による不正がはびこり、本来あるべき貴族達の結束は薄れ、他都市と戦うくらいなら金で解決という状態にまで落ちていた。
そしてそれはテルマだけでなく、周辺ポリスも同様だった。
他国に対する結束力はすでに消え、ポリス戦争に明け暮れるミナスは空洞化しつつある。
権力の統合により政経の方針を一本化し、富国強兵に勤しまねば、ミナスは侵略されるだろう、そう考えたのが当時の大貴族で、王族の血を何十分の一かで継いでいる祖父だった。
祖父はテルマに新たな王政を築こうとして果たせず、父は祖父が築いた地盤を守ることに尽くし、この男もそれに尽力したのだ。
だが父が死に、祖父は病んだ。
ミルティアデスは若くして、武力により王となる。最初こそ王政に反対する者は数知れなかったが、今や声高に言うこともできなくなっている。
テルマはすでに周辺の八都市を手中に治め、発展を遂げている。領地は増え、誰もが支配による安定を望んでいる。
「ギガース、ですか。まるでおとぎ話のような話でにわかには信じがたいですな」
口髭を蓄えた黒髪の男は父とそう代わらない年だ。大きな籐編みの長椅子に座り、盃を片手に考え込む仕草を見るたび、ミルティアデスは亡き父を思い起こす。
「だろうな。だが、俺はギガースを討伐する。どちらにしろ、戦わねばならん相手なら、早めに決着をつけるに限る」
「……本当に倒せるとお思いか?」
茶色の、探るような目つきで見る壮年の男に、ミルティアデスの眉は跳ね上がる。
「どういう意味だ?」
「あなたは力を欲しておられる。その力を手に入れて、覇者足り得ようとしておられるのではありませんか? あなたは神になりたいのだと思っておりました」
ミルティアデスは丁寧な口調のロムルスに笑みで答える。
「当然だ。俺は神になるだろう。この人の力のみでなっ。俺は覇者だ、神をも倒し、己の欲望を遂げていく」
「熱い火は薪が炭になるまで止まりませぬ。炭になって、なお奥底で燻ぶっているものです」
「あぁ、俺は新たな火を産むために火を付けて回っているのやも知れんな」
分かっていたことだった。
「……赤々と燃える火に、水を掛けても止まりはしません。油の方が良いくらいだ。それ故、私は何も申しません。あなた様がそう決めたなら決定を議会にも通達致しましょう。しかし、そのオデラの者とタラッサの眷属たちは、あなたにいらぬ風を与えてしまったようですね」
しっかり釘をさして、ロムルスは部屋を出ていった。
ミルティアデスは窓辺で見える領地を見下ろす。己の領地を強い瞳で睨む。
十八でミルティアデスは王になった。
当時の有力貴族であったコルネリウムを殺すことで、手に入れた王座だ。コルネリウムは他国にテルマの内情を売って私設軍隊よろしくこの町を仕切っていたのだ。
ミルティアデスはコルネリウムのした全てをアゴラで明らかにし、公開処刑とした。
「俺は誰にも何も奪わせない。そして一片の後悔さえしない。……この血塗れた手に更に神の血が加わるならば、むしろ価値も出ようと言うものだ」
口元には覇者たる笑みを浮かべ、ミルティアデスは赤いマントを翻し、町に背を向けた。
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【次話公開→12:30】
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