6-2・初めての経験
「今は妻ということになっているんだ。我慢しろ。一段落したら、すぐに連絡をする」
「うん……」
捕虜の身分から解放されただけでも有り難く思うところだとニアとて分かってはいる。だが、やはりドーラやネストルたちのことを想えば胸が苦しくなる。
兄は昨晩、帰ってしまった。話では海底王国の記録を確認して、巨人を倒す手がかりを探すとのことだが、ニアにとってはどうでもいい話だった。
そもそもニアは巨人退治には反対の立場である。曲がりなりにも神を殺そうなど、正気の沙汰とは思えない。
「ねぇ、キリル。ホントのホントに神様と戦うの?」
「あぁ」
食事を終えたキリルは絞りたての葡萄ジュースを飲んでいる。
同盟者として与えられた部屋はエンポリウムでも最上級の部屋だった。部屋の外にも召使いが何人もいて、忙しく立ち働いている。キリルは彼らを下がらせる。
慣れた態度だ。
「相手は神様だよ? どーして倒そうとか思えちゃうの?」
「お前と違って、神など信じない」
「だけど、それでもあんなにおっきくて、強そうってだけでも、戦うの止めようっとか思わないの?」
「ニア。今戦わずともいつか戦うことになる。お前だって分かってるはずだ」
ニアは頬を膨らませ、ジュースの入ったコップを揺らす。
まるであの海のようだと思った。
「分かんないよ」
「ゼノも言ってただろ。あれはここ一年ほどでいきなり起きたことだと。少なくともここ数百年、こんなことはなかったと」
「……そうだけど……神様なのに……っ」
神を倒すなど恐れ多いことだった。
相手は神なのだ。ニアの仕える英雄バシレイオスが協力を仰いだ神なのだ。相手どるのが神であるという事実だけでも神の巫女として生きてきたニアには納得できるものではない。
「また、狂信者だのなんだの言うつもりはないがお前にとっても悪い話じゃないだろう」
「どこがっ」
「俺はな、急に動き出したのには訳があると思っている」
キリルは赤紫の液体を見つめながら、重々しく言った。
「老朽化だ」
「は?」
「封印だかなんだか知らないが、要は戸が壊れ、修理する技術者もいないんだろ? だったら遅かれ早かれ倒すしかない。共存といっても何の利益も感じなかったしな」
「……なるほど。でも、それがあたしにとってどこが悪い話じゃないの?」
「神殿の体面を保つためにもバシレイオスの協力者が人を殺してるなんて現実は、ありがたくないだろ?もちろん、巫女のお前にとってもな」
それには感情面で素直に頷きたくはなかった。だが、言い分は分かる。
(神殿の威信が……ってのは分かるけど……でも、神だ。相手は神様で、元バシレイオス様の協力をした偉い神様で、でも……神殿の体面がってのもわかるのよね)
「……でも、キリルって……変」
しかし彼女は釘を差すことを忘れなかった。
「倒したことがある人も、もういないんだよ? で、倒した、ですらないんだからね」
「ニア」
「何?」
キリルが立ち上がって、ニアに顔を近づける。
琥珀色の瞳が間近に迫り、心臓が跳ねた。
「初めては誰にでもある。お前のキスと同じだ」
「……っ」
彼はちょっと笑って部屋から出ていった。
ニアは思いっきり顔を顰めて、ジュースを飲み干すと後を追う。
「だからって、それが良かったかどうかは別だよね」
ぶつぶつ言いながらキリルに追いつくと一緒に朝の散歩に出掛けた。
すみません、更新が遅くなってしまいました!
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【次話公開 → 本日 23:10 予定】
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