3・不満の王子
正門が近づいてきた時、人の声がした。
濡れそぼった巫女の姿など見られてはまたドーラ婆の怒声が飛ぶと、岩陰に体を寄せてる。人が行き過ぎるのを待つニアの耳に声が届く。
「冗談ではないっ。たかが占いを聞くのに待たされたあげく、大金までせしめる神殿に、なぜそのような礼を払わねばならんっ」
「殿下、そのような物言いはこの場ではお控えください。恐れ多いことですからっ」
「何を言うか! 神だ何だのと、バシレイオスの名を出せば何でも丸く収まると思ったら大間違いだ。大体、占いなんぞに大金払う神経が理解できんっ」
「キリル様っ。どうか、ここでは……お控えくださいませっ」
必死に侍従らしき男が宥める声が聞こえた。説得するも主人の男は怒り心頭らしく、言葉の止まる気配がない。
「バシレイオス、バシレイオス。全く名前を出すだけで金を取ることができるのだから、いい商売だな。だいたい託宣自体、無駄の極みだ。明日のことは明日知ればいいものをっ。すぐにでも定期的献金を取り止めるべきだぞ」
(なっ、なんですってーっ)
思わず顔をひょこりと出す。向こうはこちらに全く気付かず、インチキ商法呼ばわりを続けていた。
男の年は十八、九。堅そうな金灰色の短髪にきつい眼差しの琥珀色の瞳、端整な顔立ちをしている。服装は紺色のキトンに金鎖の腰帯、臙脂色の外套、腰には刃渡り六十センチの一般的な剣を帯びている。
スタスタと奥へ行く男を追う侍従の後ろ姿を見ながら、ニアは憤然と漏らす。
「なんなの、アレ!」
ニアは五年前に病で父を亡くしている。神殿にいる人は皆が皆、愛すべき家族だった。口うるさいドーラも、尊敬する神官長ネストルも大好きなのだ。
最近ではすっかり、内紛だらけのここミナス王国にあって、託宣を聞きにくる者は後を絶たない。だが、同時に焼け出された農民たちが保護を求めてやってきて、そちらも後を絶たない。
神殿は二十四時間、難民を受け入れ、麓近くには仮設テントで暮らす人々が溢れている。当然献金のほとんどは難民の食事や医療費に消えていき、神殿は火の車だった。だからニアは自分のもう一つの血に頼り、海の者たちから恵みを分けて貰っているのだ。
それを何も知らないで、好き勝手なことを言ったあのキリルという男に腹が立って堪らなかった。
また彼のような者が増えれば、途端に神殿も難民も生活が成り立たなくなるのだ。休息日に無駄な労力を使うことは避けたかったが、致し方ない。
ニアは彼らが正門を潜る所までを見届け、裏口付近へと取って返す。
縦にまっすぐ上れば二十分ほどで神殿内部だ。慣れていても岩場を上ることは厳しい道のりだが、キリルの先回りをしなければならない以上、他に道はなかった。
読んでくださってありがとうございます。
【序章は後1話 → 次話 17:50前後 予定】
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