3-8・歌
「キリルっ」
「騒ぐな、大丈夫だっ」
答えるキリルの顔色は良くない。
ニアは巨人を見る。
キリルの普通にしろと言った声が蘇ってくる。人間らしくと言った彼は、きっとこの化け物を見た時のような目で自分を見るだろうと思う。
それでもこのまま全滅することは避けなければと思う。
今になってニアはキリルにした予言を深く反省していた。
(あんな予言しなければ良かったっ。災いなんて……そんなインチキ予言はインチキのまま終わらせなきゃいけないっ)
ニアは船の舳先へ走る。
「ニアっっ」
キリルの声を無視して、大きく突き出た舳先までたどり着き上る。
グラグラと揺れる中、しっかりと舳先に立つ。船は初めてだが、波はよく知っているから平気だった。
「ニア、何をしているっ。さっさと降りろっ」
キリルが揺れる船上を必死で追いかけてくる。彼女は振り返らなかった。それでも伝えるべきことを口にした。
「……あんな予言、嘘なんだから、嘘にしなきゃ」
「……何を、いきなり……」
ニアは真っ直ぐに巨人を見たまま、大音量で叫ぶ。
「ミルティアデス様っ、動きを止めてみます! 隙を見逃さないでっ」
「……わかった」
ニアは巨人が声をあげようと、また口を開いた瞬間、同じく口を開けた。
「あーーーーっっ」
ニアの音が駆け抜ける。
「……オォ、ウォーーォォ……」
巨人の声。
ニアは確信する。
(大丈夫、できる!}
息を大きく吸い込み、知っている歌を紡ぐ覚悟をした。
(普通を演じて、できないフリをして、見なかったコトにして……なんて、あたしにはできないよ。ごめん、キリル)
歌を歌うのだ。
それは海の民のもう一つの特技でもある。
深い呼吸を繰り返し、ニアは放つ――歌という名の武器を。
「ぅうみぃぃのかみぃぃの、なのもとにぃぃ! わぁれらはぁあぁ、しんぐんすうぅううっっ」
巨人の途切れた声に被せ、更にニアは声を上げる。かなり不安定な音程の音がニアの口から飛び出て、二つの音波が宙でぶつかり合い、ニアの音だけが宙に残された。
◆◇◆
キリルは愕然とした。
あまりの音痴な音色は慰謝料を取りたいほどだが、確かに効果は絶大だった。
ミルティアデスの指揮の元、大型魚類に使う銛や敵船との交戦に使うであろう槍が幾つも巨人の体に打ち込まれる。
青緑の液体が傷から流れ出る中、ニアは更に歌う。
「ただぁしきはぁぁ、たらっさぁの、みこころぉおひとつうぅぅーーーっっ! すべてぇをぉ、のみこぉむぅぅ、なみとなぁりぃぃ! かみのぉぉ、てきとぉおっ、あいたいすぅうぅうう」
巨人は完全に停止している。
縄をつけた大槍が命中すると、それを伝って船員たちが剣を片手に巨体へと飛び移っていく。
キリルはその鮮やかな手並みに感心していた。
ニアの声は鳴りやまない。
だがその時、キリルは巨人の目が光るのを見た。
止めようもない。海から大きな鰭が飛び出たかと思うと、同時にニアを船から叩き落としていた。
読んでくださってありがとうございます。
【次話公開 → 本日 19:40 予定】
ブクマ・★評価、最高に嬉しいです♪
「面白かった!」
「今後の展開は?」
と思われた方は下の☆☆☆☆☆から(★数はお好みで!w)作品への応援お願いします。
ブックマークやイイネも励みになります!
よろしくお願いします(* . .)⁾⁾




