3-2・海へ
自分の考えが合っているか間違っているかは分からない。またこの行動によって如何に心の広いミルティアデスとて、勘気するやもしれない。それでも目の前の娘は死にかけかもしれないのだ。
甲板まで飛び出ると、そこにはミルティアデスとネロが立っていた。恐らくは報告をしている所のようだ。
「あー、ダメですヨ」
ネロが手を自分の腰に回して極上の笑みを浮かべた。その顔にキリルは寒気を感じる。
彼の瞳は全く笑っておらず、むしろ冷たい光が宿っている。
一歩を踏み出したネロを止めたのはミルティアデスの声だった。
「いい、控えろ」
「……リョーカイです」
ネロは後ろ手を出して肩を竦める。その手には刃渡り三十センチほどの刃物が握られていた。
ミルティアデスが近寄ってきて、ニアを見る。彼はニアの額に触れ、熱のほどを確認すると、医者をやるから部屋に行ってろと言った。
「ミルティアデス殿っ、長い鎖で俺たちを縛ってくれていい。だから、海に降ろしてくれ」
「え? 身重なんでしょ?」
ツッコミを入れるネロに内心舌打ちする。嘘の設定と彼女の特殊な事情を説明するには時間も状況も、全てが不適切だ。
何も言わずじっと見つめてくるミルティアデスに、頭を下げた。
「頼むっ」
「……ネロ」
名を呼ばれたネロは一礼して、梯子を降ろすと、さっさと下に降りていった。
ミルティアデスは顎をしゃくる。キリルは短く礼を言い、ニアを肩に担ぎなおして、しっかりとした梯子に足をかけ、降りていく。
硬い鯨の背に降り立つと、朝と同じく海水が足首までを満たした。
ネロは不思議そうに船にもたれかかっている。キリルは上からの視線を感じながら、ニアを鯨の背に降ろした。
ニアの髪が海水と同化して見える。キリルは海水を手で拾い、顔に掛けてやった。
これが真実、病ならば病人にむち打つ所行だ。そう思いながらもきっと、これが正しいのだと彼は感じていた。
陽光に煌めく水、白いキトンの乙女。
海に濡れる彼女は、確かに『海巫女』という言葉がふさわしい。
「伏せろっ」
ミルティアデスの声にキリルは顔をあげる。
刹那、大きな波がニアのみならずキリルをも飲み込んだ。
キリルはもがく。
暗い海の中、どちらが上か下かも分からず、体は宙ぶらりだった。落ちているのか沈んでいるのかも分からない。
息が苦しくて、彼は必死に辺りを見回す。水流は激しく目を開け続けることが難しい。
その時、目の端で何かが光った。
「……っ」
ニアの髪だ。
必死に目を開けて彼女に手を伸ばす。白いキトンがふわりと舞い、彼女が振り向いた。
二人の目がかち合う。
彼女は目をパッチリと開けていた。虹彩が丸く光るアクアマリンの瞳は驚いたようにキリルを見つめている。
それは海の中にあって、夜闇に瞬く星のように静謐な厳かさを湛えていた。
意識が遠のく。
ここが限界だった。
(あぁやはりな……海に連れてきて正解だったか……)
ガパリと口から空気が漏れた。
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【次話公開 → 本日 13:30 予定】
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