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タラッサの歌姫―巫女ですが偽装結婚しました―  作者: ムツキ
第三章・怪音波とキタラの音色
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3-1・発熱の意味


 鯨の背に乗って二日が経過している。

 船はミルティアデスの指揮の元、船に乗っている大工たちの手によって修復がほぼ完了しようとしていた。


 ミルティアデスはニアたちを拉致監禁(らちかんきん)しているが、意外に物わかりのいい男でもあった。キリルの要請を待たずに船の修復を許し、船員たちには捕虜ではないと明言した上で自由にさせている。また修理の手が足りない時は自分の部下を派遣するほどに度量(どりょう)も大きかった。

 自船の心配をしているだろうキリルのために彼の部下のデニスに行き来を許しさえしたのだ。


 キリル側はもともと船の修理があと少しという所にまでなっていたこともあり、昨日の昼には修理を終えている。おかげで差し迫った心配事も消えている。


 それに対し、ニアには心配事が山積みだった。

 鯨は何頭かで交代していると言えど、船を乗せているのだから疲労しているだろうし、神殿の皆はニアがどうしているか知るはずもないのだから心配しているだろう。もしかしたら家出だと思って怒ってるかもしれないのだ。


 二日前に来た、あの暗殺男も部屋で食事をとったりと生活を共にしていて、落ち着かない原因になっている。


 そもそも巫女として閉鎖された空間で育ったニアはこんなに近くに人がいた試しがない。ドーラや巫女たちだって、同じ部屋で寝食(しんしょく)を共にすることはなかった。うんと小さい頃は確かにあったのだが、それも父やドーラだったりしたのだ。

 だが今や、夫という名目でキリルが同じ部屋にいる。

 キリルが悪い人でないことくらいニアにも分かっている。


(でも……落ち着かないものは、落ち着かないんだよね)


 何より一番落ち着かない原因は、海に触れていないことだった。部屋は狭く窓はない。船の下層部を移動することは許されているが、甲板(かんぱん)には出られないのだ。

 どうにも昨日から熱っぽいことも問題に拍車(はくしゃ)をかけていた。


「どうした?」


 キリルの声に顔をあげる。

 甲板にでることを許された彼は今朝方、自船の様子を見に出かけて行ったきりだった。ニアは許されていないのでここにいる。


「キリル、鯨……どうだった?」

「元気そうだったが、俺には正直分からん」

「……そうだよね……」


 ニアはふぅと息を吐く。やはり、体の中に熱気(ねっき)()もっている。ぼうっとした頭で考えるのは鯨の体調だった。

 背中が乾くほどに海上には出ていないとのことだが、心配なのに変わりはない。


「おいっ!」


 体を揺らされ、目の前にキリルの顔を見て初めて、ニアは意識を飛ばしてしまっていたことに気付いた。


「あ……なに?」

「大丈夫なのか?」

「うーん……寝てたらきっと……」


 目を閉じるニア。なおもキリルは体を揺らす。


「んー……なに……?」


 返事さえも億劫(おっくう)だ。

 こんな事は初めてだった。息をするのも苦しいほどに体が熱くて(たま)らない。


「ニアっ、おいっっ!」


 キリルの声を聞きながら、ニアは意識を手放した。


 キリルは力無く横たわった体を起こし、額に触れる。

 そこは火のように熱かった。


「な……っ、このバカっ、何故もっと早く言わないっ」


 昨日からだるそうにしていたニアをキリルは見ていた。だが女には色々事情もあるだろうと、詰まるところ月の物か何かだろうと思って放っておいたのだが、これは明らかに流感(りゅうかん)で済む範囲を超えていた。


「ネロっ、ネロっっ」


 大声で呼ぶとどこからともなく返事が返ってきた。


「はーい。少々お待ちを」


 そして、今度は真後ろから声がする。


「どーしましたー? おや、奥方、どうなさったんです?」


 相変わらずの茶化した口調に、キリルは苛々しながら答える。


「熱が酷いっ、医者を頼むっ」


 当然どこの船でも医者は乗せている。何より軍船であるこの船に医者がいないわけがない。早くしなければ命に関わると声を荒げるが、相手はやはりのんびりした調子だった。


「熱? 風邪ですか?」

「いや、そんな程度じゃないっ」


 抱く体は発火するのではないかというほどに熱くなっている。


「……くじ……」

「バカっ、今は鯨どころではないだろうがっ」


 ニアのにキリルは怒鳴る。ニアはそれでも『鯨』と繰り返した。

 キリルは舌打ちする。


「ネロっ、至急ミルティアデス殿に会わせてくれっ」

「……はぁ……まぁいいですけど」

「急いでくれっ」


 出ていくネロを見送りもせず、ニアを見る。脂汗(あぶらあせ)の浮いた額に浅い息、体は熱でうっすらと赤く染まっている。


「……み……」


 またニアが呻く。


「水? 水か?」

「……う……」

「……うみ……海かっ?」


 言葉に釣られるように彼女はうっすらと目を開いた。そして微笑を浮かべる。

 それはとても幸せそうな笑顔で、キリルはその瞬間、(はじ)かれたようにニアを揺さぶった。


「おいっ、お前、今まで海に入らないことはあったのかっ? おいっっ」


 返答のないニアに、キリルは彼女を抱き上げ、部屋から飛び出た。


読んでくださってありがとうございます。

【次話公開 → 本日 PM 12:30 予定】

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