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バレンタインデー特別企画番外編②〜フェリクス〜



〜休み時間〜




「よし、レコ君は無事渡せたし、お次は……」


「カーレン!!」


「きゃあ!!」


後ろから急に抱きついてきた人物に、心臓が跳ねあがる。


「フェリクスッ?!」


「カレンちゃん、おはよう」


「び、びっくりした。いきなり飛びついて来ないでよ。いっつも言ってるじゃない」


この男はどうして普通の登場の仕方ができないのかしら。

婚約してからこのかた、いつもこんな調子なのよね。


「しょうがないだろー。カレンを見ると、飛びつきたくなるんだよ。カレンへの俺の愛が強い証かなっ」


軽いノリで言われても、全然説得力ないわ。


「って、どこ触ってるの!――いいから離してっ」


ジタバタしてフェリクスの腕が緩んだすきに、さっと抜け出す。

 

「まったくもう」


対峙して睨みつければ、フェリクスが肩を竦めた。


「あーあ。今日は邪魔が入らないから、もう少し堪能できたのに」


「『邪魔』?」


「イリアスだよ」


『イリアス』 


ドキンと心臓が跳ねる。


「あいつ、いっつも耳引っ張って、カレンから俺を引き剥がすだろ」


「それはフェリクスの日頃の行いが悪いからでしょ」


「婚約者なんだから、これくらい許されると思うんだけどな」


ぼやくのを無視して、さっきの話に戻す。


「ところで、イリアスが今日どうかしたの? いつもならそろそろ来る頃だけど……」


「あー、あいつ、生徒会の引き継ぎとかで、最近忙しいみたいでさ」


「生徒会?」


「そ。ほら、四月になったら俺たちも二年じゃん。二年になったら、生徒会の仕事を受け持つみたいで、その関係で色々忙しいみたい」


「そうなの……」


ゲームでも、イリアスは学年代表だったものね。二年に編入してきたヒロインを学年代表のイリアスが最初にまずは現れて自己紹介してた。桜並木を背景にイリアスの美麗さが際立っていたあのシーン。


「だからあいつに今暇な時間があったら、稀なほう」


「大変そうね」


じゃあ、用があっても捕まえるの難しいかしら。なら、チョコを渡すのは一番最後にしよう。

そう思って、ほっとしている自分に気付いてる。

だって、だって、ここ半年イリアスといると落ち着かないんだもの。改めて婚約を本人の口から聞いて、好かれてるんだってことがわかってからは、なんか、心臓がドキドキするっていうか。イリアスの前だと、普段の自分がどう振る舞っていたか思い出せないくらい。今日だって、本当はチョコを問題なく渡せるか心配してるくらいだし。心の準備は長いほうが良いわ。

この気持ちが何なのか、まだ向き合う勇気がなくて、考えないようにしてるけど。

でも、気付かないふりして、本当はもうとっくに――。


「それより、カレンちゃんは今日何の日か、知ってる?」


飛ばしかけていた意識が、フェリクスの問いで戻ってくる。


「――さあ、知らないけど」


くすりと内心笑って、とぼけたふりをする。


「またまたあ。紳士的で、優しくて、真っ正直で、真面目な俺に渡すものあるでしょ?」


「真面目なひとは急にひとに飛びついたりはしません」


「じゃ、じゃあ、正義感があって、度胸もあって、一途! これなら?」


必死な様子が可笑しくて、堪らず吹き出す。


「はい。これがほしいんでしょ」


私は紫のリボンで包まれた箱を差し出す。


「やった!」


途端に灰色(グレー)の目がきらきら光り出す。

手に渡った箱を頭上に掲げて、眺めるフェリクスの様子は、まるで欲しかったプレゼントをようやく貰えた少年のよう。普段澄ましている顔とは正反対ね。

 

「はあー、良かった。くれるとは思ってたけど、万が一くれなかったらと思ったら、ドキドキした」


「またまた、毎年たくさん貰ってるくせに」


フェリクスがばっと顔をあげる。


「カレンからは別! 今年からは全員断るし。俺からこんなアピールしたのも初めてだし」


「ふーん、そう」


返事は素っ気なくなってしまうのは、照れ隠しのせい。

私は『別』だって! 『初めて』だって!

なんか、恥ずかしっ! 胸の奥がこそばゆくなってくる。

よし、無事に渡せたし、顔が赤くなる前に退散しましょう。そうしましょう。


「はい」


「ん?」


その場を去ろうとする私の目の前に差し出されたのは、あげたはずのショコラブデーの箱。いつの間にか蓋があいて、中身のチョコチップ入りのクッキーが見えている。


「なに?」


「くれたのがカレンなら、食べさせてくれるのもカレンじゃなきゃ。ほら、あーん」


秀麗な顔が口を開けて近づいてくる光景に、思わず顔から火が出そうになる。


「やらないわよ! そんな恥ずかしいこと!」


「知らないの? ショコラブデーは恋人になったら、食べさせてくれるまでがワンセットなのに」


「嘘……」


「ほんと」


「……」


ゲームでは渡すだけで終了だったのに。でも、そうか、あれは両想いになる前だったもんね。今まで恋愛事に縁遠かったせいで、この世界の恋愛常識さえ知らない私。うう、なんか悲しい。

それでも! そんな恥ずかしいことできないわ!

心のなかで葛藤している間に、フェリクスががっくりと肩を下げた。


「そっか、カレンは俺のこと、ほんとは好きじゃないんだ……」


「ええ!? 好きよ! 好きじゃなかったらチョコなんて渡さないわよ!」


今まで見たことがない意気消沈の様子に、私は慌てた。


「いいよ、無理しなくて……」


しょんぼりと肩を落として、その場を去ろうとする。


「わ、わかった! やるわ、やればいいんでしょ!」


「ほんと?!」


ぱっと顔を明るくさせたかと思ったら、次の瞬間にはすでに目の前にいた。


「あーん」


「くっ!」


なんだかいいように扱われているような気がしないでもないが、一度口に出したことは守らないと気持ちが悪い。

私はチョコチップ入りのクッキーを手にすると、フェリクスの口元へと運んだ。

サクッと音を立てて、クッキーが崩れる。


「甘」


唇の端に付いた欠片をフェリクスがこれ見よがしに舐めとる。

その眼差しがあまりに妖艶で、ぞわりと肌があわ立った。


「も、もういいわよねっ。――あっ」


クッキーを半分残したまま下げようとした私の手首を、フェリクスが逆に掴む。

私の焦りをよそに、フェリクスが続けて、クッキーを口に含んだ。最後の一欠片は私の指ごと。

私の指をぺろりと舐めて、呆然と立ち尽くす私に妖しい光を宿した瞳が見つめてくる。


「どっちが甘かったか聞きたい?」

 

な、な、な、この破廉恥男ー!! 


「聞きたくないっ!!」


私は手首を振りほどいて、真っ赤な顔で叫んだのだった。





からかわれて赤くなるのが可愛くて、遊ばれてることに気付いてません(^_^;)

けれど基本色男なので、半分本気。好きな女には抱きつきたいし(触りたい)、色気攻撃(指舐め)も「その気になんないかな」とか思って、アンテナはってカレン見てます。カレンが少しでも『その気』になったら、逃さず捕食されるでしょうね……


箱を包むリボンの色がそれぞれキャラクターカラーに合わせているのは、一応カレンなりの気遣いです。

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