92、魔王復活②
白い光を瞼に感じて恐る恐る目を見開くと、黒い円に触れた私のつま先、そこから光が始まるように黒い円の縁を白い光が走り始め、ぱあっと輝き始めた。
同時に私の胸も白い光で光り始める。神様から貰った白い球体が入っていった場所。
胸が白い光に包まれ、それが一際強く輝いた途端七つに分かれ光線になり一直線になって飛んでいった。
ひとつはイリアスの胸に。
ふたつめはユーリウスの胸に。
三つめはフェリクスの胸に。
四つめはエーリックの胸に。
五つめはラインハルトの胸に。
あとの六つめと七つめは遠くへと飛んでいく。でも誰に向かったかは、考えなくともわかった。彼らの胸に収まるようにして私を通して光が入っていく。しばらく繋がれていた光線はすべて入り終わったのか、光を窄めて消えていく。
「なんだ、今のは?」
その場にいる五人が唖然となって、立ち尽くす。驚きを味わってる暇もなく、彼らが持っている剣が光り始めた。
イリアスの剣は青く、ユーリウスの剣は赤く、フェリクスの剣は紫に、エーリックの剣はオレンジに、ラインハルトの剣は緑色に。
私のつま先から始まった光も収まっていた。今は黒い円を取り囲むように、縁の部分が白い微光を放っている。
もう魔界への扉が広がる様子はない。これが神様からもらった力? ならもう大丈夫かしらと思って、つま先を離した途端、白い縁が消えてしまった。途端に魔界への扉が広がる気配がする。
慌てて、黒い縁を踏むと、再び私の足先から縁の周りを走るように白い光が出て、黒い円を取り囲んだ。
ここから離れられないじゃない。神様の力も万能じゃないのね。
呆然としていた攻略対象者たちも、襲いかかってくる魔獣たちに正気を取り戻し、剣を振るい始めた。けれど、斬りつけた切り口からそれぞれの剣と同じ光が放たれ、魔獣たちが断末魔の叫びをあげて倒れていく。
「なんだ、さっきより随分、簡単にやられるな。それにこの光はなんだ」
ユーリウスが眉をあげる。
「ちょっと斬っただけだったのに。剣が切り裂いたところから光が溢れるね」
エーリックも不思議そうに呟く。
「どうやらこの剣から出てくる光が原因みたいだな。こいつら、この剣からの攻撃に弱いようだぜ」
フェリクスが剣を眺める。
「こうなったのは恐らく、先程の光のせいじゃないかな」
ラインハルトも頷く。
「俺たちの体の中に光が入っていった。ということはつまり、俺たちがこの剣を光らせているということか」
イリアスが確信めいた顔つきで言う。
「え!? マジ!? 剣がすごいんじゃなくて?」
フェリクスが目を広げる。
「そう考えるほうが筋が通ってるだろ。俺たちの胸に光が消えた途端、剣が輝きだしたんだから。順番的に考えてそうだろう」
「へえ、マジか。すげえ」
「だが倒しやすくなっても、次から次へと化け物が出てくるから、終わりが見えないな」
イリアスがため息を吐いたあと、ちょうど近くに来た魔物をなにかのついでのように斬り伏せた。他の四人も光る剣を片手に、魔物たちを相手取っていく。
その時、「カレンさーん!」と呼ぶ声が聞こえた。
「レコ君!」
レコが逃げ惑う生徒たちの間をぬいつつやってくる。途中、行きあう魔獣が眼の前にくると、手にしていた剣をぐっと握った。その刀身は藍色に輝いている。レコは強い目でにらみ据えると、恐れることなく魔物に立ち向かっていく。
あんなに気弱で自信なさげだったレコが……。彼も立派な七剣士のひとりなんだと胸が熱くなった。
見事魔物を討ち果たすと、レコが眼の前までやってきた。
「はあはあ。僕も一緒に戦います! こんな大事になってるとは知りませんでした。さっき白い光が僕のところに来て、そしたら、なんだが呼ばれてる気がして――。どうしてもここに来なきゃいけない気がして」
「うん、ありがとう。レコ君」
「俺も戦うぜ」
「バルタザール!」
突然割って入った声に振り返れば、バルタザールが木の枝の上に乗っていた。そこへ蝙蝠集団が襲いかかる。バルタザールの剣が黄色い光を放ちながら、幾度も鋭い光線を描いた。バルタザールが木の上から飛び降りる。奇麗に着地すると、そのあとを追うように蝙蝠の死体がばたばたと落ちてきた。
不安定な足場でも彼の腕前は衰えない。あんな高い木に上り下りするなんて、相変わらずの身のこなしね。どうやら塀を超えてやってきたみたい。
バルタザールが黄色く光る剣を下げて、こちらにやってくる。
「胸につながった光の先を追ってきた。途中、蝙蝠みたいやつ、斬り伏せてな。どうやら、ここが元凶みたいだな」
「これで、全員揃ったのね」
その間にも黒い円――魔界の扉から、魔獣たちが次から次へと出てきて、人々に襲いかかっていく。
「「カレーン!!」」
聞き覚えのある声に私は振り向く。
「お父様、お兄様!!」
剣を片手にふたりがやってくる。
「こんなところにいたのか。お前が見当たらないから探しにきた」
お父様とお兄様が息を切らせて、立ち止まる。
「ええ。私は大丈夫です。その剣は……」
「逃げる生徒から奪……いや、譲り受けてきた。途中出会った化け物は、一体何なんだ……?」
魔界への扉に目を向けて、お父様が息を呑む。
「これは一体!?」
「さっき女子生徒が刺されたと聞いたが、カレンお前じゃないよな?!」
お兄様が私の肩を掴み、素早く目を走らせる。
「ええ、私は大丈夫です。それより、お父様、お兄様、ここは危険です。私はここから離れられないから、二人は早く避難してください!」
「何を言ってるんだ。お前をおいていくわけないだろう!!」
「でも、魔物たちが……」
騎士や警備隊ならともかく、お父様とお兄様は一般人だ。戦いには不向きのはず、と思ったら――。
穴から這い出てきた魔物をお父様が一太刀でずばっと倒した。続いて、熊型の魔獣が踊りかかってくるのをお兄様が躊躇いもなく、風のような速さで脳天を刺し貫いた。
すご。お父様もお兄様も、攻略対象者と同じパーフェクトガイでしたか。御見逸れ致しました。
「お前のためなら、こんな魔獣の百匹や千匹にやられる私ではない」
「そうだ。お前が望むなら、屍の山をいくつも超えてみせよう」
いや、そんなに超えなくていいです。
すっかり私の声など聞く気のないお父様とお兄様が剣を振るい始めた。その剣豪ぶりから何も心配する必要はなさそう。
攻略対象者たちも円を取り囲んで、魔物たちを倒している。
私はみんなに呼びかける。
「みんな、聞いて! この穴の中にきっと魔王がいるわ。魔王を倒さないと、この穴はずっとこのまま。だから、七剣士のあなたたちが魔王を倒さないといけないの!」
「七剣士? 俺たちが?」
目を見開く攻略対象者たち。
「そう! だから、お願い!! この世界を救って!」
私が叫ぶと、剣を振るいながら、みんなが答える。
「「「「そんなの、当然!!」」」
「世界が危機に陥ったら、助けにはいるのは当然のことだ」
「世界を救うなんて大層な理由なくなって、剣術大会を邪魔した罪はきっちり償ってもらうぜ」
「ひとの命を軽く扱ったこと、後悔させてやんよ。とめたって俺はひとりでも行くぜ」
「俺が七剣士なのかどうかわからないけど、カレンの願いなら全部叶えるよ。それに人々を救うのは騎士を目指すものとして当然の務めだしね」
「大事な生徒の未来を守るためなら、僕は命だって惜しくない」
「ここで勇気を振り絞らないと、一生後悔すると思います。いつもあなたの前で胸を張っていたいから、僕は僕自身のためにも剣をふるいたいです!」
「みすみす世界が滅ぶのを見てるくらいなら、ここで死んだほうがマシだ」
「みんな……」
「「「「だから、帰ったら――」」」」
「「カレンちゃーん!!」」
「ジュリア!? ヴェロニカ!?」
私は振り返った。
「「「…………」」」
「なんでそんなところにいるの? 危険だよ。一緒に逃げよう!!」
「私はここから離れられないの! だからあなたたちは逃げて! それとお願い。警備隊のところに行って、伝えてほしいの。今すぐここに来てって! それと王城にも行って、騎士たちをめいいっぱい連れてきてほしいの!」
私の真剣な表情を見て、駆け寄りかけた二人は足をとめ、頷いた。
「わかった! 連れてくる!」
「待ってて!」
二人は踵を返して、走り去っていく。
その時、「カレン様ぁー」という声が遠くから響いてきた。
「この声は……アンナ!?」
「カレン様っ!」
現れたアンナを見た私は仰天した。
巨大なハナに乗ってたからだ。見ればハナの後ろからも、ハナの子供たち、五頭全員が走ってくる。いづれもみんな巨大化してる。
「ど、ど、ど、どうしたの、それ……」
あまりの衝撃にどもってしまう。
「お屋敷にいたらハナたちが急に騒ぎ始めたんです! 散歩に行きたいのかなと思って、扉を開けたとたん、外に飛び出して、巨大化したんです!! もうびっくりですよ。そのまま連れて来られました」
「わふっ!」
褒めて褒めてというふうに、ハナと五匹の子供たちが尻尾を振る。
「ハナ……。みんな……。大きくなったわね……」
遠い目をして呟く。神様、案内役を頼むって言ってたけど、どうやらハナたちのことだったみたい。
でも、ハナと五頭の子供たちで、六頭。攻略対象者たちは七人だからあと一頭足りないわと思っていたら――。
「わふっ!」
「レオン!」
イリアスが叫んだ。ハナたちの後ろからレオンが駆けてくる。もちろん、こちらも巨大化してる。これで、七頭――。
私は攻略対象者、否、七剣士たちを強く見つめ返す。
「この子たちが魔王のところまで案内してくれるはずよ。乗ってちょうだい。――ハナ、レオン、みんな、彼らを頼むわね」
ハナとレオン、ハナの子供たちが返事を返すように、「わんっ」と鳴いた。
「でも、ここを離れたら、カレンたちが危なくなるんじゃ――」
エーリックが眉を寄せる。が、突然割り込む声
が耳に届いた。
「ここは俺たちに任せて、行って来い!」
「ハーロ!」
見れば、ハーロルトが剣を肩にあてて後ろに立っていた。
「大体なことは聞かせてもらった。その魔王とやらを倒しにいかないと、この穴はずっとこのままなんだろ?」
ハーロルトが穴を顎で指す。
「なら、ごちゃごちゃ言ってないで、魔王を倒してこい。ここは俺たちでなんとか防ぎきる」
ハーロルトが首を後ろに向ける。
その先を見ると、剣を手に戦う生徒の姿があった。女子生徒や保護者のほとんどが逃げてしまったが、騎士を目指す者、腕に覚えがある生徒たちが残って、戦っている。
「みんな……」
それを見て、私は呟く。
「これで心置きなく、魔王を倒しにいけるだろ」
「ハーロ……」
「あとで、武勇伝、聞かせろよ。負けたら、承知しねえからな」
「当たり前だろ!」
がしっと腕を組むふたり。
「兄ちゃん!」
その時、小さな影が飛び出してきた。
「アル!!」
フェリクスの弟、アルバートがこっちに向かってくる。フェリクスが慌てて駆け寄る。
「この馬鹿! どうして、こんな危険なところに来たりしたんだ!! 父さんと母さんとはぐれたのか?」
「ううん、違うよ。お姉ちゃんと兄ちゃんに伝えることがあったんだ!」
「伝えること?」
「うん! さっきまでお昼寝してたでしょ? その時、夢に見たんだ。七つの色に光る光がね、いっぺんに黒いものにぶつかっていくんだ。そしたら、黒いものが消えて、あたり一面光に変わったんだ。あの光って、お兄ちゃんたちでしょ? だから、伝えに行かなくちゃって、思ったんだ!」
「なんだかよくわからねえが、わかった。とにかくお前は安全な場所に……」
フェリクスはきょろきょろと周りを見渡すも、安全と言えるような場所は見える範囲にはない。
「フェリクス! アルは私が預かるわ。命に変えても守るから、安心して」
「カレン……悪ぃ。アルを頼む」
「うん。――ほら、アル、おいで!」
「お姉ちゃん!」
アルが駆けてくる。隣にきたアルの手をぎゅっと握る。
私が顔をあげると、七人が次々とレオンやハナたちの背に飛び乗ったところだった。私が七剣士の顔を見上げると、七剣士も私を見つめ返す。
「あなたたちなら必ず魔王を倒せる。信じてるわ。――気をつけて」
真剣な表情で告げると、七人も真剣な表情で頷き返す。
「「「ああ、行ってくる」」」
彼らを背に乗せ、ハナたちが跳躍して穴に消えていく。最後にレオンに乗ったイリアスが穴に消えるとき――。
「必ず戻る」
その青い瞳と一瞬目が合った。力強い瞳。
「はい! ここでずっと待ってます!! 帰るまで、ずっと――!!」
返事が届いたかどうかわからなかったけど、それでも届いたと信じて、もう見えなくなってしまった彼らの背を見つめるようにして、私は見送ったのだった。
カレンも一緒になって戦おうかどうしようか、この作品を書いてる間、ずっと迷ってたんですが、待機組のほうが作品には合ってる気がして待機組に決定しました。主人公も一緒になって戦うじゃあ、完全にアクションに方向転換してしまうので(^_^;)
あと残り一話、ご辛抱ください!!
ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m 感謝の言葉しかありません。




