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77、再会

もう季節もすっかり夏に変わり、暑い日差しが降り注いでいる。

そんな中、私は孤児院を訪れていた。


「まあ、カレン様、こんにちは。いつもありがとうございます」


お菓子が入ったバスケットを受け取りながら、院長がにこやかに笑う。


「ちょうど私も子供たちのところへ行くところだったんです。ご一緒しますわ」


子供たちの部屋に向かって、一緒に廊下を歩き出す。


「実は今日、カレン様以外にもお客様がいるんですよ」


「それは珍しいですね」


私は目を丸くする。これまで孤児院を訪問した折に他の訪問客と鉢合わせすることなど一度としてなかった。


「ええ。最近ここに来るようになった方なんですけどね。これが本当に良いお方で、身なりは他の平民と変わらず、ご自分もそれほど、余裕があるわけでもないでしょうに、それでも少なくない額をご自分で稼いだお金のなかから寄付してくださるのです。なかなか立派でしょう」


「へえ。感心しますね」


そういえば前にアンナが孤児院は有志の寄付金で運営していると言ってたっけ。

廊下を進んでいる途中から、子供たちのはしゃぐ声が耳に届き始めた。


「それだけじゃなく、子供たちの遊び相手にもなってくれて。そんな方はカレン様くらいしかいないと思っていたので、私たちのほうでも本当に助かってますのよ。男手が必要なときも、手伝ってくれますしね。――ほら、あの方ですよ」


外の遊び場に面した入口に差し掛かったところで、院長が窓の向こうに目を向ける。

私も続いて目をやり――


「っ!?」


思わず目を疑った。

グラウンドには、小さな子供たちに混じって、ひときわ背の高い銀髪の男の姿があった。

小さな女の子と男の子を片方ずつ腕にぶら下げて、子供たちを喜ばせている。周りを囲んでいる子供たちはどうやらその順番待ちらしく、歓声をあげながら「次、僕!」「ずるい!!」なんて騒いでいる。


「ほら、あの通り、子供心を掴むのも長けているのか、これまでの二度の訪問ですっかり子供たちも懐いてしまいましたわ」


私の驚きをよそに、院長が和やかに目を細める。私たちふたりの視線に気づいたのか、男が顔をあげ視線を向けてくる。その珍しい目の色のせいか、それとも印象的な切れ長なせいなのか、会うのは二度目なのに、未だ目が合うと、その強い視線に戸惑う。


「あんた……」


なんでここにいるの? お互いの視線がそう言っている。でも、彼の裏の顔を知っている私はすぐに納得する。


「あ! お姉ちゃんだ!」


「ほんとだ!」


続いて子供たちが気づき、駆け寄ってくる。


「姉ちゃん、遅いよ! 何してんだよ、ったく。俺たちもうバルタ兄ちゃんから遊んでもらってるんだからな。仲間に入るなら、もっと早く来なきゃ」  


ジャックが憎まれ口を叩いてくる。


「あ、これクッキー? もーらい」


院長の手から早業で盗むと、グラウンドに面した扉から建物のなかに入っていく。


「こら! 独り占めせず、ちゃんと分けるのよ! その前に手を洗って!!」


「「「はーい!!」」」


院長の言葉を皮切りに他の子供たちがジャックのあとを追いかけるように眼の前を通り過ぎていく。さっきまで遊びに夢中になっていたのに、菓子の前ではげんきんなものだ。

子供たちに続いて、バルタザールが眼の前にやってくる。


「……」


「…………」

 

ここで会うとは思っていなかった予想外の展開にお互い口を開けずにいると、院長が口を開いた。


「この孤児院を支えてくれる高尚な心の持ち主のおふたりが偶然居合わせたのも、きっと神様のお導きですわね。おふたりを紹介できる栄誉を賜り、私感激も一入(ひとしお)ですわ。――カレン様、こちらがバルタザール・アムランさん。――バルタザールさん、こちらがカレン・ドロノア様です。ふたりとも、子供たちからとっても好かれてますし、色々共通点も多そうですわね。話したらきっと話が弾むに違いありませんわ」 


院長が私たちを邪気のない目で見比べてくる。同士を結びつけたという達成感が彼女の中で燃えてるような気がしないでもない。


「それでは私はちょっと、子供たちの様子を見て参りますわ」


院長が部屋のなかに入っていく。

一体何の話をすればいいのよ!?

残された私は心の中で叫んだ。これじゃせっかく関わらないようにした行動もパアだわ。

けれど、バルタザールには院長の言葉は途中から耳に入っていなかったようだった。私の顔をじっと見てくる。


「あんたがカレン・ドロノア?」


「そ、そうだけど?」


「最近、警備隊から表彰された?」


「え、ええ」


よく知ってるわね。

と言っても私は全然何もしてないけど。


「へえ――。院長から、ここに来たとき、『まだ成人も迎えてないのに感心する貴族の若いお嬢様がいる』って聞いてたけど、それもあんただったんだ」


バルタザールの冷めた目線が少し変わった。バルタザールが初めて私をひとりの人間として見ている気がした。


「俺の記憶の中では、そんなことする貴族の連中はいなかったけど」


何かを思い出すように目が遠くなる。でもそれも一瞬。私に目線を移して、口の端があがった。


「あんた、若いのにやるじゃん」


ドクン。その瞬間、私の心臓が跳ねた。

な、なに。この動悸。見目が恐ろしく整っているのに加え、普段はにこりともしない、危険な香り漂わせる男が笑うと逆に恐ろしい武器になるのだと身を持って体感する。


「そ、そんなことないわ。あなたほどではないわよ」


私はあなたがしていることは到底真似できないわ。

喉まで出かかった言葉を呑み込む。


「俺は自分ができることをやってるだけだ」


その淡々とした口調は、彼が裏でやっていることを考えると、あまりに軽くて、自分の命を投げ打つことさえなんでもないことのように聞こえた。


「……それだけで偉いと思うわ。思ってるだけなのと、実際行動に移すのじゃ雲泥の差があると思うもの。あなたの行動で、きっと何人ものひとが命を救われて、あなたに感謝してると思うわ」


「…………」


バルタザールが軽く目を瞠ったのが、わかった。

あっ。ちょっと彼の深いところを突きすぎたかしら。なんにも知らないはずの人間が言うには、大袈裟よね。

汗をたらりと流したところで、助けが入った。


「兄ちゃん、姉ちゃん、遊ぼう!」


お菓子を食べ終わった子供たちがやってくる。

私たちは一斉に囲まれ、そのまま運ばれるようにグラウンドへと突入した。





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