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75、告白⑥

グラウンドで子供たちが駆け回っている。

持ってきたお菓子で子供たちと一緒におやつタイムを楽しんだ私たちは、腹ごなしも兼ねて子供たちと遊んだ。

でも、動いていると汗ばむ程の陽気と続かない体力のおかげで、三十分もしないうちにバテてしまった。

今はグラウンド脇の木の下で、イリアスと一緒に休んでいる。涼しい木陰のなかに夏の空気を含んだ爽やかな風が吹き込んできて、気持ち良い。

鮮やかな日差しを浴びて、駆け回る子供たちが眩しくて目を細める。


「本当、子供って元気ですよね。あの体力は一体どこから出てくるんでしょう」


「お前が体力なさすぎなんじゃないか」


「うっ。私が体力ないわけじゃなくて、イリアスが特別なんです!」


「そうか?」


「そうですよ。なんでも完璧にできて、困ったことなんてないでしょう」


「…………」


「どうしました」


黙り込んでしまったイリアスを見上げる。


「……困ることはなかったが、かわりに楽しくもなかった」


「イリアス……」


イリアスが静かな眼差しでどこか遠くを見つめる。


「俺はなんでもそつなくこなしてきた。だから、必死になることもないし、心が踊ることもない。誰かを目標とすることもない」


淡々とした口調に彼の孤独が伝わってくる。


「人もものも決まりきったことの繰り返しで、それがずっと続くものだと思っていた。そんな時、お前が現れた」


そこで静かに言葉を切る。

イリアスの青い宝石のような目がこちらに向けられる。木陰のせいか、今まで見たことがない深い色が差し込んでいる。


「あのとき、言ったよな。俺に笑えって」


「え?」


そんなこと言ったっけ? 首を傾げて、記憶を探る。

でも、なにかそんなことを初めのときに言った気がする。


「お前を見ていてわかった。なんにもできないくせに、いつも楽しそうで。何がそんなに面白いのか、いつも一生懸命で、必死で。満ち足りてるはずの俺よりもお前のほうが幸せそうで。あの一言で、足りてないのはこの世界じゃなくて、俺なんだと気付かされた。それにお前は俺の周りにいるやつと全然違った。お前につきあわされるたび、新鮮で、退屈なんて全然しなくて――」


イリアスが私の顔に手を伸ばす。


「この色のない世界にお前が光を与えてくれたんだ」


私は目を大きく広げた。


『この色のない世界に、君が光を与えてくれた』


ゲームの台詞が鼓膜の奥で鳴り響く。

イリアスの片手が私の頬を包み、青い瞳が近づいてくる。

互いの息が頬を撫で、唇が触れ合う寸前で――


「あー! キスしてるー!!」


子供の掛け声で、ぱっとお互い身を離す。


「みーちゃった、みーちゃった! 院長先生に言ってやろ!」


「ふたりキスしてましたー!」


囃し立てる子供に、それを受け建物に向かって叫ぶ子供。


「なっ!!」


グラウンドで遊んでいる子供全員の視線を受け、羞恥で真っ赤になる。


「キスしてないわよ!!」


否定しようにも、一度火がついた騒ぎは収まりそうにない。


「嘘つきー。俺、見たもんねー。兄ちゃんがこうしてー」


近くの男友達の肩を持って、キスするような真似をする。私たちの再現をしようとしているらしいが、肩を掴んだ時点で間違ってる。本当子供って、こっちの気持ちにお構いなしだ。


「本当にしてないったら! 影で見えてなかったでしょ!」


必死に言い募るも、子供たちの耳には届いていない。


「おうじさまはおひめさまにキスするんだよ」


馬車の前で話した女の子が近くにいて、無邪気にも言ってくる。こちらを援護しているつもりなのかもしれないが、恥ずかしさに余計、火に油を注ぐようなものだ。

イリアスにもなにか言ってほしいが、恥ずかしくて、顔が向けらない。

今、一体お互いどんな顔をしているのか。

その間にも、相手役の男の子がのりのりで応じる。周りの子供たちも、口笛を吹いたり、囃し立てたりする。もう混乱の坩堝だ。


「こら! やめなさーい!!」


私は真っ赤になって、ふたりの真似事を止めようと、走り出した。


「ぶはっ」


その時、後ろで吹き出す音が聞こえた。

振り向くと、イリアスが腹を押さえて、笑っている。

そのくしゃくしゃの笑顔。

あまりの物珍しさに、思わず立ち止まってガン見してしまう。


「はははっ」


笑う姿は今まで見た中で、一番楽しそうで。


『楽しいことがあったらもっと笑ってください。私も楽しくなるし、私もたくさん笑って、イリアス様を楽しませますから』


当時の自分の言葉が脳裏に蘇る。

その言葉通り、イリアスの笑顔を見ていた私の口元も、自然に綻んだ。


「こら、待ちなさーい!」


さっきまで恥ずかしさしかなかった私の心に、ほんわりと暖かさが灯って、私は笑いながら子供たちと追いかけっこを始めた。




――――ゴトゴトゴト。

帰りの馬車の中。

二人っきりの車内。


「……………」


私は一言も発せず、体を固くさせて座っていた。

子供たちが周りにいたときは良かったけど、いざふたりっきりになると、途端に気恥ずかしさと緊張がやってくる。

私、イリアスに告白されたのよね!?

本当に? まだ信じられない。

ゲームでは悪女のカレンを斬り伏せたイリアスが、そのカレンを好きだなんて!

混乱して、頭も整理できないし、何を話していいのかもわからない。

というか、馬車に乗った時から、恥ずかしくて顔があげられないのよね。

イリアス、今どんな顔してるのかしら。

さっきはキスしように見えたけど、あれはきっと気の所為よね。そういうふうに見えただけよね。私の自信過剰め!


「…………」


「…………」


沈黙が余計、恥ずかしさと緊張に拍車をかける。

耐えられなくなった頃、馬車がガタンと止まった。


「着いたようだな」


いつもと変わらぬ涼しい声音。

相手の冷静さが今は何故か痛い。

こんなに緊張してるの、私だけ?


「そ、そうですね。それでは今日はありがとうございました。それでは」


顔も見ず、早口で告げ、馬車から降りようと、踏みつぎに足をつけている時だった。


「――カレン」


「え?」 


初めて呼ばれた名前に驚いて、反射的に振り向く。

顔だけ振り向いた私の顎を掴み、青い宝石のような目が落ちてくる。


――チュッ。


軽い音を立てて、柔らかいものが唇に落とされた。突然のことに反応できない私は、そのまま上をむいたまま固まる。

青い目が離れた。

爽やかな青空をバックに、影が差したイリアスの顔。

その目が私の反応を楽しむように微笑んだ。


「じゃ、また明日学園で」


バタンと扉が閉まり、馬車が遠ざかっていく。


「な、な、な、な、」


触れた唇に手をあてる。

今のは夢?! 

バタンと倒れそうになったところで、ちょうど出迎えにきたアンナに抱きとめられた。


「カレン様っ!? どうしたんですかっ」


「あ、ア、アンナ。……わ、私の頬を抓ってくれる?」


「は?」


「夢じゃないか確かめたいの」


「何言ってるんですか。とにかく、お屋敷にあがってくださいよ。ほら、自分の足で立ってください」


前後不覚になった私の体はそのままアンナにずるずると引きづられていったのだった。






イリアス、三度目の正直にしてようやく……!!

唇へのキスは、婚約者の特権かなと思って、イリアスにしました。(『ファースト』キスは一応ね(^_^;))

これで他の攻略対象者ともしたら、読者様は怒るかな(汗)

でも、もう他の攻略対象者との場面が頭の中で浮かび上がってるんですよね(汗)

多分きっと最初で最後のハーレム小説なので、好きに書かせてもらいます(開き直り)すみません。


イリアスの告白言葉。ゲームでは『君』ですが、カレンの場合は『お前』です。出会った当初、イリアスはまだ十二歳という年頃で精神的にまだガキっぽさが残っていました。そのうえ、カレンのことを嫌っていましたので、わざとつっけんどんな言い方を選び、『お前』呼ばわりしました。

入学する頃には、イリアスも成長し、淑女に対する礼儀もきっちり心得ていますから『君』呼ばわりです。なので、好きじゃないミレイア相手にも『君』使ってますよね。

カレンに対しては今更『君』呼ばわりするのは恥ずかしくてできないでいます(*´艸`*)

イリアスが唯一『お前』呼ばわりする女性はカレンだけです。

ちなみにゲームでは完全無視だったので『カレン』は呼ばれることもありませんでした。


次回はいよいよ最後の攻略対象者のお出ましです。

が、書き留めた分が終わったのと、最後の調整のためにこれより更新が遅れると思います。ご了承ください。

思ったより話が長くて、私もちょっと疲れています。やっぱり7人は多かったとしみじみ思います。(前作くらいがちょうど良かった(+_+))長編書けるひと、すごいと思います。本当、尊敬。

あと11話〜14話の間で終わると思いますが、最後までお付き合い頂けたら幸いです。ヒロインの正体も明らかになります!




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