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71、ヒロインの友達

食事が終わり、後片付けも終わると、食事係はあとは自由の時間だ。私の手持ち無沙汰を見て、早速子供たちがやってきた。


「お姉ちゃん、遊ぼ」


「いいわよ」


私は女の子たちを引き連れて、絵本があるところまでやってきた。


「さあ、どれがいいかな」


「これ、読んで!」


ひとりの女の子が一冊を差し出してきた。


「これね。『竜と宝物』。面白そう。さあ、みんな座って。――『むかしむかし、あるところに――』」


私が本を広げて読み始めると、女の子たちがきらきらとした表情で見上げてくる。


「――『……この私の命を取ろうなどと、生意気な。この炎で焼き尽くしてやろう』」


中盤の竜の登場で、声音を真似て襲いかかるふりをすれば、女の子たちがきゃっきゃっと喜んで笑う。


「――『……そうして、王子とお姫様は末永く暮らしました。おしまい』」


本を閉じると、女の子たちがほうっと息を吐いた。


「面白かった!」

 

「王子様、かっこいい!」


「竜、すごかった」


次々と感想を口にする子供たちに私も笑顔で応える。


「そうね。王子も竜も強かったわね。次、読んでもらいたい本はある?」


私の問いかけに女の子たちが本を選び始める。

待っている間に横から声がかかった。


「あのぅ、カレン様」


「ん?」


目を向ければ、二人の女子生徒が立っている。

このふたり、どこかで見たことがあるような。

首をひねっていると、記憶の扉が開いた。

ああ! このふたり! ゲームに出てきたヒロインの友達じゃない!?

編入初日でヒロインに話しかけてきてくれる同じクラスメートだ。

ピンクの髪の子は確か『ジュリア・シェルマン』。

緑の髪の子は『ヴェロニカ・パーシュ』だ。

同じクラスじゃなかったから、今まで気づかなったけど、この同じ「社会学科」を選択してたのね。イリアスを恐れて影のようにひっそりと身を潜めていたから、あまり周りを気にしてなかったわ。

ゲームの登場人物が生身の体を持って現れたことで、まじまじと見つめてしまう。

このふたりには世話になったわね。このふたりが誘ってくれて初めて、「お茶会」コマンドが現れるのだ。それによって複数のパラメーターの数字があがることができた。「貴族の品」とか「マナー」とか「思いやり」とか。

強く見つめすぎたせいか、ふたりの足が押されるように後ろに下がる気配がした。


「ああ、ごめんなさい。なにか用かしら」


「あ、あの、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はジュリア・シェルマンと申します」


続いて、緑の髪の子が――。


「私はヴェロニカ・パーシュと申します」


「私はカレン・ドロノアです」


ふたりにペコリと頭を下げると、ふたりが顔を見合わせて、意を決したように口を開く。


「あの、カレン様。私たちも混ぜていただけませんでしょうか?」


「『混ぜて』とは?」


「その、子供たちと一緒の輪の中に――。実は私たち子供たちと遊ぶ係なんですけど、午前中から全然遊べてないんです。私たちも絵本を一緒に読んだんですけど、すぐに子供たちが飽きちゃって。でも、先程のカレン様の様子を見て、何が悪かったのかわかりました。登場人物たちになりきって声音を変えなければなりませんでしたのね。私たち、淡々と読むだけで――。それでは面白くもなんともありませんよね」


しょんぼりと肩を落とすジュリア。

周りを見渡せば、ジュリアとヴェロニカの様子を伺うように他の女子生徒たちが固まってこちらを見ている。

どうやら彼女たちも同じ口のようで、ジュリアとヴェロニカは代表して、私に話しかけてきたようだ。

そういえば、お昼まえに子供たちだけで絵本を読んでいた気がする。彼女たちの姿はなかった。

外に目を向ければ、グラウンドでは男の子たちと一緒に、男子生徒がボール遊びをしたり、縄跳びしたりしている。

まあ、男子は女子と違って、精神年齢が低いから馴染めるわよね。彼女たち貴族の女子にとって外で元気に遊び回るなんてものは、無理難題に等しいに違いない。まあ、私は例外だけど。

それに子守なんて一度もしたことがない人間にいきなり子供の相手をしろと言われても、戸惑いが先に立つのは当然。

私はうーんと首を捻った。

彼女たちも一緒に輪に加わることは何ら異存はないけれど、それだと私独壇の読み聞かせになってしまう。

ちなみにイリアスはインドア派の男の子たち相手に部屋の片隅で勉強を教えている。

そこでぴんと閃いた。


「そうだわ。一緒に遊ぶのが無理でも、あなたたちの特技を活かして、子供たちを喜ばせればいいんじゃない?」


「どういうことでしょう」


「ちょっと待ってて――院長、針と糸はありますか」


私に呼び止められた院長が口を開く。


「ええ、もちろんありますよ。子供たちの服がほつれたら縫わなくてはいけませんから」


「貸してください!」


私の勢いに院長が戸惑いながらも頷く。


「ええ、持ってきます。お待ち下さい」


今度は女の子たちに向かって、呼びかける。


「みんな、自分の服を一着持ってきて。できれば一番気に入ってるやつね」


「「はーい」」


女の子たちが駆け出して、自分の服を持って戻ってくる。


「カレン様、何を?」


ヴェロニカが首を傾げて、問いかける。


「見てて」


私は針と糸を手にとると、――予想通りどんな服にも対応できるようにたくさんの色の糸が揃えられてあった――簡単なステッチを縫っていく。


「わあ、お花だー」


私の隣で女の子が声を上げる。


「ふふ。あなたの好きなピンク色で縫ったの。気に入った?」


「うん! ありがとう!」


ぽかんと見てくるジュリアとヴェロニカに目を向ける。


「刺繍なら、あなたたちも得意でしょう? ほら、あの隅にいる子たちも呼んできて。これなら人手がいくらあっても足りないわ」


「はい!!」


ジュリアが女子生徒たちを手招きする。


「こんな簡単な刺繍で喜ぶんですね」


ヴェロニカが感心したように呟く。


「これでも、彼女たちにとっては充分立派な花なのよ。――ほら、お姉ちゃんたちが来たわよ。みんな何を縫ってもらいたい? 世界でひとつだけの自分のお洋服ができるわよ」


「私もピンクがいい!」


「私、黄色! 向日葵がいいな!」


「ねえ、ちょうちょ縫える?」


女の子たちが女子生徒に向かって、声を上げる。場が一斉に賑やかになった。

女子生徒たちが女の子たちの要望に応え、針を動かす中、混じって手を動かしていると、ジュリアとヴェロニカが近寄ってきた。


「ありがとうございます。カレン様」


「おかげで子供たちとも仲良くなれました」


「どういたしまして」


私が頭をさげると、ジュリアとヴェロニカがそんな私をじっと見てくる。


「なにか?」


「いえ。カレン様って近寄りづらい印象があったんですけど。――あっ、もちろん悪い意味じゃないですよ。なんか、こう、他のひとと雰囲気が違うっていうか。なんか纏う空気が恐れおおいというか」


ちょっと私、どんだけ凶悪なオーラを放ってたのかしら。そんな怖かったの?

私が変な顔をしていたのだろう。ジュリアが焦ったみたいに取り繕って言う。


「ほら、神聖な場所と一緒ですっ。浄すぎるとかえってこう、近寄りづらいじゃないですか」


フォローはいらないわ。自分のことは自分が一番よくわかってるわよ。

続いて、ヴェロニカが言葉を続ける。


「初めて見た時からすごく綺麗な子がいるなとは私たちも思ってたんですけど、カレン様がドロノア家の令嬢とわかってからは余計近寄りづらくて。おまけに公爵家のあのふたりとも知り合いみたいだし」


「それに加えて、イリアス様と一緒に先日、密輸組織団を倒したんですよね。警備隊のほうからも表彰されたって聞きました。美しいだけじゃなくて、振る舞いまで凛々しいなんて、本当尊敬します。それで、ますます私たちにとっては雲の上の存在のように思えたんです」


雲の上の存在って……。ちょっと顔が引き攣りそうになる。そこまで褒めちぎってくれなくても……。

それにしても、先日の誘拐事件の件、一応は知れ渡っていたのね。イリアスばかり持て囃されているから、てっきり私の存在はきれいサッパリ忘れ去られてしまうものなんだと勘違いするところだったわ。悪女が善行しても、ゲーム補正がかかって、なかったようにされたみたいに。


「でも、今日、子供たち相手に気安く接したり笑ってる姿見て、もしかして私たちが勝手にイメージを作り上げてただけなのかなって思って、勇気を振り絞って声をかけたんです」


「そうなのね……」


そう言えば、私、学園ではあまり笑っていなかったかも。喋る相手もそんなにいないから、いつも独りで佇んでいることが多かった。そんな姿が余計に冷たいイメージを作っていたのかも。


「私たち、カレン様に感謝してるんです」


「感謝?」


「ええ。高位のしかも、ドロノア家の令嬢が私たちと同じ白シャツ姿で、お昼も一番安いC級ランチ。私たち低位貴族にとっては、それだけで肩身が狭かったんですが、カレン様のおかげで、そのイメージも覆って。今では私たち堂々として、振る舞えるようになったんです」


「あら、そう――」


別にそんな意図は全然なかったんだけど――。

白シャツもランチもただ自分の貧乏性が招いただけの結果である。

そう言えば、ジュリアはヒロインと同じ男爵令嬢。ヴェロニカは子爵令嬢だった気がする。

お互い近しい階級の間柄だったから、ヒロインにもすぐ話しかけてくれ、仲良くなるのも早かった。

それに話し口調も、ヒロイン相手だともっと砕けていた印象がある。カレン相手だと、やっぱりここまでが限界のようだ。と思ったら――


「あの、カレン様。カレン様さえ良ければ、これからもこうして親しくさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「え?」


「私たち、カレン様とお友達になりたいんです」


「いいの?」


私はぽかんとふたりを見上げる。


「いいも何も、私たちのほうからぜひお願いしたいです。カレン様みたいに心根の美しい方が友達になってくれたら、私たちのほうが誇らしいですわ。先日の事件の件もあって、私たち下位の貴族の間では、カレン様は英雄です!」


英雄って。なんだかすごく誤解しているみたいだけど、そっちから友達になりたいって言ったんだからね。今更前言撤回は受け入れないわよ。


「じゃあ、これからよろしくお願いします」


「「こちらこそ!!」」


孤児院訪問は、こうして初めての同性の友達ができるという嬉しいおまけ付きで終わった。









カレンにもとうとう同性の友達ができました(^^)

といっても、もう終わりに向かって進んでいるので、ほとんど出番はないんですけどね(汗)でも、できたことが重要です(無理矢理)



ジュリアとヴェロニカの言葉から、何故今までカレンが遠巻きにされていたのかおわかり頂けたでしょうか。

カレンも学園では笑う機会に恵まれなかったので、美しい彫像みたいな印象を周りから持たれていました。

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